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旅は孤独なもの

旅は孤独。どこかで見たことのあるフレーズだ。多くの人にとって、旅と孤独は無縁かもしれない。ひとり旅と孤独、そう置き換えないのはなぜか。そんなことを考えながら、ぼんやりと、誰かとの旅と孤独について考えていた。すると、記憶の彼方へ遠ざかっていた大切な瞬間がいくつも思い起こされた。今日は何か言いたいことがあるわけではないのだが、旅と孤独について少し書き残しておきたい。場所も、一緒にいた誰かがどんな人かも、記さずに。


時が止まってしまえばいいのに。心の底からそう願ったのは、20歳の頃の。あのバスの中が初めてだった。夕暮れ時。右側の窓際の席。窓は開いていた。ガタガタと揺れるオンボロのバス。右手には沈む夕日が見え、生温くも心地よい風が顔を撫でた。何分間のバスの旅だったかは覚えていない。さっきまで賑やかな市場にいた時間が嘘のよう。誰かといる時間、その誰かが居なくなる瞬間がふわりと頭をよぎり、孤独を誘う。


有名な観光地の、一つ手前の駅で降りた電車の旅。何もかも、きっとあと一歩。けれど、あのころのわたしにはそれで十分だった。コンビニで買ったおやつの内容はもう覚えていない。店主の寝ていたラーメン屋。何もかもが、あと一歩。


三人の旅だった。残暑の厳しい8月の終わり。長椅子に寝転がり髪の中を風が泳ぐ。こんな青春はいつまで続くだろうか。文字通り青春の最中だった。次に三人で一緒に旅をするのは、いったいいつになるだろう。もう、そんなことはないのかもしれない。


冷たい石の床に寝転がった、真夜中。雨季のさなかの、珍しい晴れた日。こんなつくりの建物が日本にもあれば、毎晩天体観測ができるのにな。何を話したか覚えていない。夜は当たり前に静かで、暗かった。


孤独とともに旅を思い起こそうとすると、不思議と隣に誰かがいた。もちろん、ひとりで旅をしていてふと、孤独を感じることもある。でもそれは、自ら選んだ自由な孤独。

味わい深くて切なくて、怖くなる。そんな孤独は、きっと誰かが隣にいないと味わえない。そしてそんな感情は、いつもどうしようもなくて、弱いわたしは明日へと持って行けなくて。だから旅の思い出と共に、そっと置いてきてしまう。そんな孤独を取り出して、たまには孤独に溺れてしまうのも、いいのかもしれないね。


#エッセイ #日記 #紀行文 #旅

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