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TRPGとハラスメントについて


はじめに


どうもどうも、中村やにおです。職業はライターで、TRPGの仕事も色々やってきました。

先日、自分のYou TubeチャンネルでTRPG配信者を集めた飲み会配信をしまして、そこで「TRPGとセクハラ」についてちょっとお話したんですが、その内容をあらためて文章で記してみます。

https://youtu.be/Scycid53DeE?t=7233

なお、タイトルには「ハラスメント」とありますが、ゲーム中に表現される「不快な要素」全般についての内容です。
ここでは「なにがハラスメントに当たるか」という定義の話はしません。
話したいのは、TRPGという娯楽の特殊性と、対処法になります。
すぐに解決できる、という魔法のような方法ではありませんが、知っておくことで、苦しむ人が少しでも減るといい、という意図の記事です。

以下がこの記事の要点になります。

①TRPGは拘束時間が長く、会話の量が多く、そして「途中で抜けにくい」遊びである
②TRPGはハラスメントから受けるダメージをコントロールしにくい

③ハラスメントについては「世間の基準」より「参加者の合意」が大事
④傷つくくらいなら途中で抜けてもよい
⑤おまけ:TRPGで事故を防ぐためには

「いや途中で抜けられると困る」と思った方も、④についての解説を参照してください。

①TRPGの特殊性――途中で抜けにくい

TRPGとは、会話とゲームルールを用いて物語を作るゲームです。
その物語の中には、時として不快な要素――エログロ、差別的な要素、キャラクターの死など――が発生する場合があります。
もちろん、これはあらゆるストーリーメディアで発生しうることです。小説でも映画でも、他のゲームでも。

ただ、数あるメディアの中でも特に、TRPGはそれらの要素に注意深くある必要があります。
その理由はいくつかあります。会話量が多いこと、プレイ時間が長いこと(数時間かかることが多いです)。

そして、「途中で抜けにくい」こと。

TRPGは一般に進行役を含む2~6人程度で遊び、ひとりが途中で抜けた場合、多くの場合そのゲームプレイ自体が中断されます。
準備時間やプレイのため確保した時間もそうですが、途中まで参加してしまったシナリオには、(ネタバレという意味で)他の参加者は以後参加しにくくなります。

そのため、TRPGは気軽に「途中で抜ける」ことが難しいです。
楽しいゲームにおいては問題になりにくいことですが、TRPGにそういう特性があることは覚えておいてください。

②TRPGではダメージをコントロールしにくい

もうひとつ、「不快な要素」に気をつけるべき理由が、TRPGではプレイヤーが物語の参加者、共同作成者である点です。

TRPGは物語を作るゲームですが、プレイヤーはキャラクターを通してその物語の一員となります。
そのため、「このシーン飛ばしちゃおう」といった、他のメディアでは可能な回避が難しいです。

また、キャラクターに関する働きかけ(言葉でも、身体的な接触でも)が、プレイヤーに直接的に影響しやすいこともあります。
たとえば他のキャラクターへの悪口に比べ、自分のキャラクターへのそれは、直接プレイヤーにダメージがきたりする、といった場合ですね。

言ってみればTRPGは「一人称視点」に特化したゲームです。
「うまくいった」TRPGの没入感は、あらゆるゲームの中でもトップクラス。
それゆえに、前述の「途中で抜けにくい」と合わさって、(稀にではありますが)、非常に辛い時間、いわゆる「事故」が発生します。
そのため他メディアに比べて「不快な要素」に気をつけたいところです。

③世間の基準より参加者の合意

他メディアに比べて気をつけたい、と言いましたが、逆に楽な部分もあります。小説にしろゲームにしろ、不特定多数のユーザーが目にするものについては、「不快な要素」を完全に回避するのは、根本的には不可能です。

しかしTRPGにおいては参加者は通常2~6名程度で、そのメンバー内で問題がなければいいわけです。これは数千、数万の読者やユーザーを想定するのに比べ、回避が現実的になります。

特にTRPGは即興性が高い遊びでもありますから、プレイ中に物語を修正できる余地があります。
シーン内の描写レベルであれば「ちょっとそれキツいわ」「じゃあ変えるね」で回避できるケースも少なくありません。
詳しい対応策については後述しますが、大事なのは「参加者の合意」である、ということです。

ただ、合意の形成、意見の表明が常にできる人ばかりではない、ということも心に留めておいてください。そういう意味では、「一般的な基準」を意識しておくのは大事なことです。

④傷つくくらいなら途中で抜けてもよい

で、この記事で一番言いたいのがこれです。

「最悪、抜けてもいいんですよ。だってTRPGは遊びなんだから」

これを言うと「それは正しいんだけど……そうはいっても抜けるのは……」というリアクションをもらうことが多いです。

それもわかります。
オンライン対戦ゲームの「萎え落ち」みたいな感覚で抜けられたら困りますよね。

でも、「ちゃんとした」「マナーのいい」人ほど、辛いのに抜けられずにダメージを負うことがあります。ですから、誰かがこれを言わなければいけないと思うのです。

TRPGは楽しいゲームです。でもごくたまに、プレイしていて辛い時がある。
他の参加者は楽しんでいるのだから自分だけ我慢すればいい、それは立派な態度です。

でも、我慢して傷ついてしまうくらいなら、抜けてもいいのです。
そのことを覚えておいてください。

⑤おまけ:TRPGで事故を防ぐためには

さて、ここまでは「事故」が起こってしまったら、という前提の話でした。
TRPGにおいて、不快な要素、苦手なもの、怒りのツボ、まあそういうモノに触れてしまった場合の話ですね。

ここからはそうなる前に、あるいは起こってしまった時、傷つく前にどうしたらいいか、というのを書いていきます。

とはいえ、一記事では書ききれないほど色々な手法があります。
TRPGの歴史、システム開発・運営技術の発達は「事故」との戦いでもあったのです。
なのでここではざっと紹介するだけ、ということで「おまけ」です。

また、「完璧な対策」というのはない、もしくは現実的ではないことも覚えておいてください。
人が不快に思う要素は無数にあり、それをすべて回避するのは、不可能に近いことだからです。
それでも、対策を知っている、あるいは考えているかどうか、というのは、いざという時に影響してくるはずです。


というわけで以下、GMとプレイヤーに分けて考えます。

追記:これは、GMとプレイヤーでは「取れる手段」に差がある、という理由であって、GMとプレイヤーが対立構造にあるという意味ではありません。また、プレイヤー同士でのハラスメントも発生しえます。

GM側の対応

GMはシナリオを知り、展開や描写の主導権を持っています。
そのため、できることは多いです。

・事故りやすいケースを認識しておく
事故りやすい、問題になりやすいケースを把握しておくのはいいことです。

様々なケースがありますが、ここでは「セクハラ」について触れます。
TRPGというのは没入感が高いため、プレイヤーキャラクターの心身へのアプローチは、時にプレイヤー本人に対してと同等のショックを与えます。
そのため、PCへの、特にセクシャルなアプローチは慎重にするべきです。

そして、自分の経験ですと、TRPGにおいて「セクハラ」として問題になるケースは、「ギャグのつもり」というケースが多いです。
つまり、ギャグが滑った、ドン引きされた、というケースですね。
特にSM、同性愛などを「変わったモノ」としてそのまま出して「ほら笑えるでしょ?」とやると、ドン滑りする可能性が高いです。

2020年代の日本においては、「あいつ同性愛者だぜ、ゲラゲラ」という「笑い」は成立しないのだ、と覚えておくといいかと思います。

またNPC同士のやりとり、NPCの扱いに不快感を覚えるケースも多いです。
プレイヤーキャラクターに対してではなくとも、「これ大丈夫かな」と一瞬立ち止まってみる癖は有効です。

・シナリオ情報を先に告知しておく
プレイヤーは(ほとんどの場合)シナリオの内容を知りません。
もちろん事前に全部を明かすことはできないでしょうが「事故りそうな部分はあらかじめ提示しておく」ことは可能です。

「今回予告」や「トレーラー」と呼ばれるシナリオ予告、あるいは「シナリオハンドアウト」と呼ばれるキャラクター向けの導入情報を提示する際に「プレイ中にいきなり出したら事故りそうな部分」を先出ししておく、という手ですね。

予告やシナリオハンドアウトは、ルール上規定されていないゲームでも使えますし、より広く「シナリオ情報」という形で導入やテーマを提示しているケースも多いと思います。

「残虐表現あり」など、具体的な注意書きをつけるのもいいアイデアです。
細かくすべての要素を注意書きに並べるのは難しいと思いますが、気に留めてみてください。

繰り返しますが、完璧な対策はありません。あくまでも、確率を減らす、という考え方が大事です。

・苦痛を表明されたら
これはゲームプレイ中の話になります。
まず、描写や展開について苦痛を表明されたら、それは落ち着いて受け止めましょう。
もし自分で作ったシナリオであっても、それは自身の人格の否定ではなく、あくまでシナリオ内に限定された話です。
そして、なにか特定の要素に苦痛を覚える、というのはごく普通のことです。特別なこととして反応する必要はありません。
また、明確な言葉として表明できないケースもあります。
それを全部見抜くのは不可能なので、見落としを気にする必要はありませんが、認識しておくと違和感に気づきやすくなります。

・対応を考える
さて、描写や展開が苦手がプレイヤーがいた場合、その部分を差し替えたりスキップすることが可能かを考えます。
これは「必ず変更しろ」という意味ではありません。可能かどうかを判断する、ということです。
シナリオの改変で対応できないなら、描写を簡素化する、言い換える、あるいはそのまま進行する、という判断を行います。
どうしても難しいようなら、正直にその旨を告げて、プレイヤーと相談することをおすすめします。

プレイヤー側の対応

・自分の苦手なモノを把握する
GM側では「事故りやすいケース」と表現しましたが、プレイヤー側としては、まず自分の好みを把握するのがいいでしょう。

やはり苦手な「ツボ」というのは人によって千差万別ですから、自分の得意・不得意を知っておくのは大事なことです。

それがわかっていれば、前述のシナリオ情報を手がかりに、「そのシナリオはちょっとやめておく」という選択が取れます。
苦手そうなだからシナリオを避ける、というのはとても良い手です。

その上で、気づいていなかったけど実はこういうの苦手なんだな、というケースに遭遇することはあります。
人は自分についてすら完璧に知ることはできないのです!
なので「できるだけ」「なるべく」という気持ちを大事にしましょう。

・苦痛を表明する
「ちょっとそれ苦手だな」と表明することで回避できる場合もあります。
GMの裁量で、シナリオ内容や描写の方向性、細かさなどをその場で変更できるかもしれません。他のプレイヤーであれば、取り下げたり、今後に反映されるかもしれません。

もちろん、色々な事情でそれが難しいケースもあります。
ですので「とりあえず」言ってみる、この精神です。とりあえず言ってみるのは大事。

この時、GMや他のプレイヤーを怒る・叱るのではなく、「申告」「提案」としてフラットな態度で申し出るのがいいでしょう。
別に申し訳ない、と思う必要もありませんし、相手を責めるのもあまりいい手法ではありません。
「苦手だから避けられるものなら避けたい」というのは、当然の要望です。

この時「そのケースの何が・どこが苦手/嫌なのか」はきちんと言えた方がいいですが、「なぜ苦手/嫌なのか」については、必ずしも説明しなくて構いません。

それを説明することが苦痛であることは珍しくありませんし、ここで必要ななのは「苦手な要素がどこで、それは変更可能な要素なのか?」と確認・相談することだからです。

相手の人格ではなく、「シナリオ内の一部要素」について話しているのだ、ということを明確にしましょう。

まあ人格が問題な時もあるかもしれませんが……それをゲーム中に指摘して解決することはありません。

ゲームプレイ外について

ゲームプレイ外についても少しだけ。
といっても「プライベートな情報を明かす時は慎重にする」「住所や本名を聞かない/言わない」とか……夏休み前の生徒指導の先生みたいだな。

まあ、オフラインであれオンラインであれ、新たに知り合い、仲良くなるというのはいいことでもあるし、注意も必要です。
プライベートな情報を明かすのは親しくなってから、というのがまあ、大まかな方針になるかと思います。

それと、「違和感があったら時間を置いてみる」というのがコツです。急激に距離が詰まることは別に悪いことではないのですが、なんか変だな、とか、負担だな、と思ったら、一週間なり一ヶ月なり間を空けてみましょう。
それで途切れる関係性は途切れさせても問題ないことがほとんどです。

終わりに

思いのほか長くなってしまいましたが、TRPGとハラスメント、あるいはハラスメントに限らず、不快、苦手な要素に出くわす「事故」について書きました。

これで「TRPGって怖い遊びだ」と思われるのは本意ではありませんが、こういった要素が発生しうるのも、避ける完璧な方法がないのも事実です。

完璧な対処方法は現在のところありませんが、そういった「事故」が発生しうること、そして対応可能なケースも少なくないことを知っていれば、避けられることも多いです。

実際のところ、ここに書いた内容は、大半のTRPGのプレイには無関係です。
それでも、運悪く、傷ついたり、TRPGが嫌いになったりする人はいます。
この記事で、一人でも多く、TRPGを楽しく遊べるようになれば幸いです。


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