「乃木坂って、どこ?」と「乃木坂工事中」から見る乃木坂46のモヤモヤ―アイドル番組の功罪をファンの立場から考える― 1/2

はじめに.自分にとっての乃木坂46、この記事の目的


まず、筆者が乃木坂46というアイドルグループにどう接してきたかを明らかにしておきます。私は2014年の映画『超能力研究部の3人』で乃木坂46を好きになり、以後、熱心に彼女たちの活動を追ってきました。ただ、握手会にもライブにも行ったことはありません。CDやグッズを買い、家でDVDや出演番組を鑑賞する程度の「在宅」と呼ばれるファンです。

在宅ファンにとって、乃木坂46が出演しているテレビ番組、配信コンテンツはとても大事な接点となります。やがて、(ファンの方なら分かると思うのですが)彼女たちのメディアでの立ち振る舞い、コンサートの演出などがいかに、出演番組(コンテンツ)の影響下にあるかが見えてきました。

乃木坂46の番組を楽しむことは、彼女たちの成長の歴史をリアルタイムで体験していくことと同義です。それは一種のドキュメンタリーだといえるでしょう。現在、乃木坂46は2本のドキュメンタリー映画を劇場公開しています。ただ、美しく彩られた映像も、詩的なナレーションもないバラエティ番組の彼女たちは、より実像に近いのではないでしょうか。だからこそ、自分のようなファンは熱心に彼女たちの出演番組を追い続けているのです。

同時に、乃木坂46の番組を見てモヤモヤを感じることも少なくありません。もっといえば、乃木坂46というグループについて、たまに覚えてしまう違和感に、彼女たちの出演番組は無関係ではないと思えるのです。この記事は、乃木坂46やその出演番組、コンテンツを断罪する目的で書かれていません。一方で、ファンの立場から、乃木坂46の抱える問題点、テレビ番組との関係を綴った記事はあまりにも少ないといえます。

あえて挙げるなら、香月孝司、上岡磨奈、中村香住編著の「アイドルについて葛藤しながら考えてみた ジェンダー/パーソナリティ/〈推し〉」(青弓社)は該当するでしょうか。この記事は、同著に多大な影響を受けて書かれています。しかし、同著も乃木坂46に特化した書籍ではなく、「テレビ番組」というテーマは扱われていません。

同著では、アイドル文化に蔓延する「異性愛主義」「無意識の家父長制の押し付け」を取り扱ってきました。自分もその点を踏まえつつ、乃木坂46を「冠番組での在り方」から、批判も込みで考察していきたいと思います。

1.乃木坂46の人気とテレビ番組


乃木坂46の受容の在り方に、彼女たちの冠番組は大きな役割を果たしてきました。特に、「乃木坂って、どこ?」(2011年10月~2015年4月)とそのリニューアル「乃木坂工事中」(2015年4月~)は、彼女たちの活動の基盤のひとつといっていいでしょう。

簡単に説明すると、「乃木どこ」「乃木中」はバナナマンが司会を務めるバラエティ番組です。番組自体のコンセプトは非常にゆるく、クイズやゲーム、トークやロケなどが幅広く放送されてきました。「乃木どこ」が重要だったのは、乃木坂46がCDデビューを果たす前から出演していた冠番組だったからです。つまり、乃木坂46が人気だから番組が始まったわけではなく、彼女たちをブレイクさせるために、レコード会社や運営、テレビ局が番組を企画したという流れです。よって、「乃木どこ」で行われている企画には運営のマーケティング意図が大きく反映されていましたし、「乃木中」も同じ路線を踏襲しています。なお、「乃木どこ」から一貫して、総合プロデューサー秋元康氏は企画としてテロップされています。

初期の「乃木どこ」の恩恵を受けたメンバーには、高山一実さんが挙げられるでしょう。高山さんはデビュー曲「ぐるぐるカーテン」から28枚目の「君に叱られた」まで、グループ在籍中はすべてのシングルで表題曲を歌う「選抜メンバー」に選ばれています。当初から運営側にプッシュされていた存在だったわけですが、その人気を後押ししたのは「乃木どこ」での活躍でした。おとなしいメンバーが多い中、明るく積極的な高山さんは「バラエティ担当」としての地位を確立していきます。

そのほか、秋元真夏さんの「あざといキャラ」、生田絵梨花さんや松村沙友里さんの「大食いキャラ」なども「乃木どこ」をきっかけに知られたキャラクターです。こうしたメンバーの特徴は運営がピックアップする形で、楽曲やライブの演出に反映されていきました。

個人的には、西野七瀬さんの人気と「乃木どこ」も切り離せないと思っています。活動後期の西野さんはセンター常連、白石麻衣さんと人気を二分するほどのエースに成長していました。しかし、4枚目のシングル「制服のマネキン」では選抜メンバーの最後列である三列目に回されるなど、決して初期は圧倒的な存在だったわけではありません。そもそも、デビュー当初はメイクがやや派手で、ギャルっぽさを残していた西野さんの魅力は、清楚路線を進むグループカラーから微妙に外れていたものでした。

そんな西野さんがファンを増やしていったのは、「内向的」「オタクっぽい」といった、ビジュアルとのギャップが「乃木どこ」で発信されていたからでしょう。象徴的なのは、トーク企画でほかのメンバーが盛り上がった後に話を振られ、「私のエピソードは弱い」と言って泣き出してしまった場面です。西野さんの引っ込み思案で周りに気を遣ってしまう性格は、後に確立していく「乃木坂らしさ」に合致するものでした。

2.乃木坂らしさとは?


さて、今登場した「乃木坂らしさ」について述べておきましょう。一般的な「乃木坂らしさ」は、「清楚」「ルックスのよさ」などだと思います。少し乃木坂46に詳しい人なら、「メンバー同士がわちゃわちゃしているのが微笑ましい」「性格がよさそう」といった要素が入ってくるのではないでしょうか。

「乃木坂46のドラマトゥルギー   演じる身体/フィクション/静かな成熟」(香月孝司/青弓社)ではグループを象徴する言葉として「紐帯」が使われています。すなわち、強要された「連帯」ではなく、お互いに寄り添う「紐帯」が、ファンにとっての癒しになっているのではないのか、という説です。競争社会の縮図だったAKB48のオルタナティブとして派生した乃木坂46が、疲れた現代人に指示されるようになったという理論はかなり説得力があります。

ただし、「乃木坂46のドラマトゥルギー」で考察のサンプルにされているのはあくまでも映画、演劇、ミュージックビデオといったフィクションの世界の演技に限られています。メンバーの素の状態、メンバー同士の関係性、グループの雰囲気をもっとも確認しやすい、「乃木どこ」「乃木中」への言及はほとんどありません。

そして、初期の「乃木どこ」から遡ってみていくと、「競争社会のオルタナティブとしての紐帯」というイメージが確立していくのには、かなりの時間を要していることが分かります。むしろ、「乃木どこ」はシングルの選抜メンバー発表をサスペンス風に演出したり、メンバー同士のディベートを企画にしたりと、対立構造を際立たせる回も少なくありませんでした。別の番組になりますが、「AKBINGO!」の姉妹編として制作された「NOGIBINGO!」ではメンバー同士がお互いの欠点を攻撃しあう「ショージキ将棋」も放送されています。

ところが、2022年2~3月放送の「乃木中」になると、乃木坂メンバー2人がお互いのいいところを言い合って照れ笑いを引き出そうとする「褒めっこグランプリ」が行われています。デビューから10年の間にまるで真逆のグループになっているわけで、現在の「乃木坂らしさ」は運営が当初から意図したものではなかったのです。そして、自分は「乃木坂らしさ」を語るうえで、彼女たちの残した映像作品や演劇作品と同様にテレビ番組も重要だと考えます。もっというなら、「テレビ番組にどのように大人たちの意図が介入し、メンバーが状況を受け入れていったのか」という点が重要なのです。

3.冠番組で強調されていった乃木坂らしさ

「乃木どこ」や「乃木中」の特徴は、前述したとおりの緩さにあるといえるでしょう。たとえば、乃木坂46のライバルグループだとされていたAKB48は冠番組の「AKB ネ申テレビ」「AKBINGO!」などで、かなり過激な企画に挑むこともありました。海外の軍隊に入隊したり、ドッキリを仕掛けたられたりと、刺激の多い内容だったように思います。フジテレビがバックについていたアイドリング!!!も、冠番組では相撲、水泳大会といったハードなバラエティ企画に挑んでいます。

乃木坂46も体育会系の企画やドッキリをNGにしているわけではありません。シングル発売に合わせて行われる「ヒット祈願」では、バンジージャンプや富士登山、ロッククライミングなどにも挑んできました。ただ、48グループやアイドリング!!!との最大の違いは、乃木坂46のメンバーにはテレビ的な振る舞いがあまり求められなくなったことです。

「乃木どこ」初期では初代センターの生駒里奈さん、高山一実さんらが必死で番組を盛り上げようとしている場面が目立ちました。逆をいえば、彼女たちのような例外を除き、乃木坂46のメンバーは物静かで人見知りも激しく、バラエティ番組でハイテンションに振舞うこと苦手としていました。こうしたメンバーの姿は、今ではそれほど珍しくありません。しかし、初期の「乃木どこ」ではメンバーに食レポ、大喜利、リアクションといった、バラエティの基本を学ばせようとする企画も頻繁に用意されていました。繰り返しますが、清楚な紐帯としての「乃木坂らしさ」は、最初からグループに備わってなどいなかったのです。

こうした番組の路線が徐々にシフトしていったのは2014年ごろからでした。その頃に何があったのかというと、「生生星」の解体です。「生生星」とは、生駒里奈さん、生田絵梨花さん、星野みなみさんのトリオです。デビューシングルから5枚目のシングル「君の名は希望」まで、生駒里奈さんは続けてセンターを務めました。そして、そのうち4枚で生田絵梨花さんと星野みなみさんはフロントメンバーを務めました。

運営は生生星の3人を当初のエースに想定していたと考えられます。しかし、2013年7月発売のシングル「ガールズルール」でセンターは白石麻衣さんに代わり、生生星の3人はフロントメンバーを外れます。「ガールズルール」は前作「君の名は希望」から大幅に売上を伸ばし、乃木坂46の勢いに拍車をかけました。

その後、生田絵梨花さんは学業優先のために休業を挟み、星野みなみさんは選抜落ちを経験します。3人にとってはアイドル活動停滞の時期でしたが、裏腹に、乃木坂46は2013年下半期から2014年にかけて注目度を高めていくのでした。堀未央奈さんがセンターを務めた「バレッタ」を経て、ついに西野七瀬さんが「気づいたら片想い」「夏のFree&Easy」でセンターに2作連続で抜擢されます。

初期の活動から西野さんを見ていたファンは、引っ込み思案の彼女がセンターをまっとうできるのか、不安に思っていました。しかし、西野さんは「乃木どこ」の企画でマカオタワーからバンジージャンプをして、センターの気概を見せつけます。マカオロケはバンジージャンプ以外でも、メンバーが巣の表情でショッピングやグルメを楽しんでおり、見応えのあるものでした。そして、西野さんは「内向的な女子が輝く場所」という乃木坂46の「らしさ」の象徴になっていきます。なお、乃木坂46に集まってくるメンバーの性格については、映画「悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46」(2015)内で、当時のキャプテンの桜井玲香さんが同様の発言をしています。

西野さんがセンターになったあたりから、「乃木どこ」の企画でも、メンバー同士の仲の良さを強調する企画が多くなっていきます。メンバーの女子会を放送したり、バレンタインでお互いにチョコを渡したりする回は反響を呼びました。ちなみに、選抜漏れしたアンダーメンバー中心の配信番組、「のぎ天」が配信され始めたのも2014年7月です。「のぎ天」はメンバーが楽しくしゃべったり遊んだりするだけの動画であり、現在の「乃木坂あそぶだけ」に通じるコンテンツでした。

乃木坂46のバラエティ番組に共通することですが、「乃木どこ」「乃木中」のような地上波の冠番組で強調されている、「仲の良さ」「素の表情」などは、運営が意図している「乃木坂らしさ」なのだと考えて間違いないでしょう。

4.「乃木どこ」「乃木中」の良さ


さて、ここで「乃木どこ」「乃木中」の魅力とされている部分が、いかに乃木坂46の成長に貢献したのかまとめていきます。

①メンバーの関係性の共有


「乃木どこ」「乃木中」は仲良しメンバーをファンに共有してもらい、ユニット曲や動画コンテンツなどに展開していくための場として利用されてきました。西野七瀬さんと高山一実さん、生田絵梨花さんと中元日芽香さん、堀未央奈さんと星野みなみさんなど、メンバー内で特に仲のいいペアをファンが知っていたのは、番組で取り上げられたことが大きいでしょう。

メンバーの仲の良さが放送され、公になることで乃木坂46の紐帯はファンに信用されていきます。乃木坂46には「ガールズルール」「今、話したい誰かがいる」「シンクロニシティ」など、紐帯をテーマにした楽曲がたくさんありますが、冠番組の雰囲気が楽曲の説得力を補強した部分はあるでしょう。

②バナナマンとの絆


2011年10月の「乃木どこ」初回から司会を務めるお笑い芸人のバナナマンは、乃木坂46の「公式おにいちゃん」と呼ばれています。放送開始時点ですでに人気を確立していたバナナマンの2人(設楽統・日村勇紀)は、バラエティ番組のいろはを乃木坂46に教えていった貴重な存在でした。たとえば、収録中、緊張で泣き出してしまったメンバーがいたとしても、バナナマンがフォローして笑いに変えてくれていたのです。

ファンもバナナマンと乃木坂46の関係を温かく見守っており、両者の絆を題材にしたイラストや漫画などの二次創作も大量に生まれています。このような現象は、ほかのアイドル番組ではあまり見られなかったことです。乃木坂46に漂う優しい雰囲気に、バナナマンが貢献しているのは間違いありません。なお、バラエティ番組における「つたない乃木坂メンバーを支える司会者」という構図は、「乃木坂どこへ」のさらば青春の光、「乃木坂46えいご」の鈴木拓などにも継承されていき、ファンから好意的に受け止められています。

その中でも、デビュー前から番組を一緒に作ってきたバナナマンに対する、メンバーの思い入れは特に強いようです。「乃木どこ」の最終回ドッキリでは、バナナマンにもう会えなくなるという理由で泣き出すメンバーが続出しました。生田絵梨花さんは「乃木中」最後の出演で、設楽さんとはカラオケをデュエット、日村さんとはピアノを連弾しています。いずれも生田さんの希望により実現した企画で、彼女は忙しい合間を縫って、曲を覚え、ピアノのアレンジを考えたそうです。

バナナマンはたびたび乃木坂46のコンサートにも招待されており、「乃木中」では公演直前、直後の楽屋をリポートしています。番組の企画で日村さんはコンサート中、「インフルエンサー」のダンスに乱入もしました。2022年9月12・19日放送回では、バナナマンがコンサートのカメラマンに抜擢される様子も映されていました。いずれも、バナナマンとメンバー、運営の信頼関係がなければ無理な企画でしょう。他のアイドル番組を引き合いに出しても、バナナマンと乃木坂46の絆は異例中の異例であり、ファンを感動させるポイントになっています。

③キャラクター性のPR


乃木坂46の選抜メンバーの基準は、歌やダンスの上手さが重視されていないのは有名な話です。運営から明言はされていないものの、握手会やミーグリの売上が大きな基準になっているのは明白です。そのために、メンバーは自分の 魅力をアピールし、ファンを集めなくてはなりません。地上波の冠番組である「乃木どこ」「乃木中」は、メンバーのPRの場として機能してきました。

「乃木中」でもっとも、PRに成功したメンバーは衛藤美彩さんでしょう。衛藤さんは2015年5月に「みさみさの1人家飲み」という企画を本人主導で行い、反響を呼びました。「お酒好き」「料理上手」といったキャラクターは、メンバーの中では年長者だった衛藤さんによく合っていました。その後、「野球好き」「後輩から慕われている」などの衛藤さんの特徴がどんどん明かされていくにつれ、新規のファンが増えていきます。衛藤さんは7枚目シングル「バレッタ」まで選抜に入れなかった遅咲きメンバーですが、「乃木中」放送開始後に人気が急上昇し、2015年10月の13枚目シングル「今、話したい誰かがいる」では表題曲のフロントに選ばれています。

④世代の溝の克服


2016年2月に「乃木中」で放送された「好きです先輩 乃木坂46バレンタイン2016 1期生へプレゼントを渡そう」は、かなり重要な企画となりました。このときに松村沙友里さんの口から「さゆりんご軍団」なるユニットの存在が明かされます。松村さんと後輩メンバーで結成された「さゆりんご軍団」は楽曲が制作されるほどの人気になりました。その後、「まなったんリスペクト軍団」「若様軍団」など、後発のユニットも生まれていきます。

さらに、一期生の齋藤飛鳥さんは映画の撮影をきっかけに、三期制の梅澤美波さん、山下美月さんとの距離を縮めていきます。後輩が齋藤さんをいじる様子は、番組の定番となりました。後輩との絡みによって、どちらかというと近寄りがたい雰囲気だった齋藤さんの新しい側面が見られたといえます。

近年では、「勝手に4期生ダービー」「縦割りクラス対抗戦」といった企画が放送され、乃木坂46の世代間の溝を埋めようとする運営側の意図が伝わってきました。ここには、堀未央奈さん以外にシングル表題曲のフロントメンバーを生み出せなかった「不遇の2期」の経験が生かされているのだと思います。乃木坂46の2期生は個性的で、十分に魅力があふれるメンバーの集まりでした。しかし、彼女たちが加入した2013年5月はちょうど、グループカラーが定まる前の過渡期でした。さらに、「乃木どこ」や「NIGIBINGO!」などの番組では1期生と2期生の対立構図を煽ってしまい、ファンの反感を招いてしまった面があります。

グループカラーが確立した後に加入した3期生以降は、まず1年ほど、同期だけの活動中心でマネージメントされるようになりました。その中でゆっくり「乃木坂らしさ」と舞台度胸を身に着けてもらい、時間が経ってから先輩メンバーとの融合を果たしていく方針が採用されています。「乃木どこ」「乃木中」はまさに融合の場であり、先輩が後輩メンバーをフックアップするような企画もたくさん実施されてきました。番組初登場の際にも、3期生以降は先輩メンバーが後輩に付き添い、魅力を解説するようになっています。

ここまでは、「乃木どこ」「乃木中」のポジティブな側面に光を当ててきました。では、後半ではネガティブな面を考察していきたいと思います。







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