見出し画像

アクアリウム【さとうささら】-制作後記- ①作詞編

アクアリウム
歌:さとうささら【CeVIO AI】
作詞・作編曲・mixing:yanaki Jun
写真:orika.

作詞について

私は自身の楽曲制作を行う際、作詞も自分の手で書かないと納得がいかない……というタイプの作家ではないので、信頼の置ける知人に依頼することもしばしばあります。そもそも振り返ってみると、これまでボーカロイドを用いて発表した作品で言えば1作品(『ミカンセイ・ラプソディ』)しか作詞を手掛けたものがないので、フォロワーさんも私に作詞のイメージはあまり持っていないのではないでしょうか。しかしながら、実を言うと表に出していない作品を含めて数えた場合、作曲した作品数と同数程度には作詞した作品も存在していたりします。以前は鬱屈した精神から世に訴えたいことが多々あったんですけどね。いつしか意欲が薄れ、積極的には書かなくなっていました。
とは言え、作詞に対する興味が完全に尽きたというわけではなく、作曲と並行して語感をコントロールできるインタラクティブな面はとても面白く感じています。そんな私が作詞を手掛ける現在の動機は、大好きな映画や小説、漫画、イラスト等の創作物に触発されるケースにそのほとんどが限られます。

前置きが長くなりましたが、私なりの作詞の方法論が固まっているので、新曲『アクアリウム』の制作工程も交えて紹介してみたいと思います。尚、私は基本的に曲先で詞を書くので、以下に書き記す手順は曲ありきで行われています。

作詞作業

準備

ただひたすらに単語を収集する。多ければ多いほど好ましい。

実際に作詞を書き始めるより前に、感銘を受けた何かしらの作品から単語を収集します。『アクアリウム』は、死生観をテーマに扱ったある漫画作品から得た感動を起点にしており、作中に描写された水族館の情景や、交わされた会話の中で印象に残った単語を収集しています。作品内の直接的に目に映るものから感じ取った曖昧なものまで全て、使えそうか、そうでないか如何に関わらず、PC画面上に立ち上げたメモ帳に単語を列挙していきます。

左:『ミカンセイ・ラプソディ』 / 右:『アクアリウム』

上図は実際に私が使用したメモ帳の最終的な画面です(そのまま公開するのは躊躇われたのでボカしています、許して)。作詞していく中で、採択された言葉や候補から外れた単語の大半が削除されているのでほとんど残っていませんが、書き始める段階ではもっと膨大な数の単語が並んでいました。詞に用いられた語の例を幾つか挙げると、「壊れかけの針」「青に染まった景色」「泳ぐ魚たちの影」「手を繋ぎたい」「泡沫」「夢」「未来の約束」等がありました。ちなみに『ミカンセイ・ラプソディ』の一番下に見える「あうあああうおういああえ」は作業途中、フレーズの響きを母音で確認する為に置かれたものです。1番に呼応する2番の歌詞を考えるとき、ケースバイケースではありますが時に近しい響きを模索します。

作詞

収集した単語の元となった作品を"忘れる"。

作詞に着手する段階で私は、単語を収集する拠り所とした創作物を忘れることにしています。その創作物のイメージソングやキャラクターソングといった関連作品を意識的に制作すると言うのであればその必要性は感じませんが、そうではないオリジナルソングを作りたいと考えるので、集めて並べた単語のみから見えてくる詞の世界を改めて創造します。

先に○を用いて詞の完成形を作成する。

詞を書き始める際、既に出来上がっているメロディに添って、上図のような完成形を○で用意します。全体を把握するためにAメロBメロサビといった情報を併記するのも有りです。このとき「あいうえおかきくけこさし~」といった具合に歌いながら数えると、文字数の把握が容易となります。言うまでもありませんが、五十音は5つずつに分かれているので「け」で終われば9文字。簡単ですよね?
そしてメロディに当て嵌まりそうな単語を実際に口に出しながら探していきます。今作では、最もメロディが盛り上がる(高音となる)箇所を「アクアリウムに」とする案が真っ先に浮かび、タイトルが仮決定(最終的に正式タイトルとなりました)。次いでサビ頭の「何度でも夢を見ていたいと」が埋まりました。残りは、用意した単語から使えそうなものをパズルのようにあーでもないこーでもないと合わせ、時にはその場で思い付いたフレーズで補完しつつ書き上げていきました。

完成した詞はこちら↓
https://piapro.jp/t/ULfn

※余談ですが、高音となる「アクアリウムに」の後ろの母音の形が「い」と「う」になるのは難易度が高いので、ボーカリストが歌う前提で制作していたならば採用しなかったかもしれません。ささらさんが上手に歌ってくれたので今回は有りとみなしています。

制作のきっかけ

先日私はこんなツイートを投稿しました。

9月初旬のツイート

先に断っておきますと、私は原作ありきの映像化作品を目にするとき、出来得る限り別作品と捉えて臨みますし、ましてや作品を観る前から頭ごなしに否定したいとは考えません(この文章を書いている10/16(日)時点で放送は始まっていません)。……ですが、このとき不快に感じる事柄が別に有りました。(そのことを省いて書いてしまっているので、上記ツイートは実写化作品をただ否定しているだけの内容に取れてしまうなと、読み返してみて反省しています。)
発表された実写化とキャスティングに対して書かれたネットニュースの記事を読んだのですが、そのコメント欄が盛大に荒れていました。メインキャストのファンによる「○○が○○な設定のドラマなんて神作品!!」「〇〇が初主演で悲恋ものは絶対に泣く」といった好意的な意見。キャストを快く思わない人の「実力も経験もろくにない主役なんて見たくない」「〇〇のごり押しばかりで嫌ですね…」といった否定的な意見。どちら側の意見にもいいねやバッドが多数付けられ、返信コメントもお互いの意見を貶し合うものばかり。これらのコメントの大半が原作の存在をスルーして行われていることに私はやるせない気持ちになりました。
放送が始まれば、きっと類似した論争をまた目にすることもありそうだなと考えた私は、そういったノイズに触れるより前に原作の漫画から得た感動を楽曲に落とし込んでアウトプットしたいと思い、楽曲制作に取り掛かりました。

最後に

以上、自分なりの作詞術と制作の経緯をまとめてみました。記述した内容が読まれた方の興味を得られるものであれば、幸いです。ただここまで書いてから言うのも何ですが、検索すれば先達の手による作詞について書かれた文献がたくさん確認できます。比べるべくもありませんが、私の我流な作詞術と異なり叡智に満ちた素晴らしい内容の文献を2つ紹介して、この文章を締めくくりたいと思います。次回は②作曲編を書きます!(スキをクリックしていただけると書く活力が得られます…何卒。笑)


「作詞少女~詞をなめてた私が知った8つの技術と勇気の話~」
作詞が学べる「入門ライトノベル」。作詞の技術から創作者の真髄に迫る心構えまで触れた内容はライトノベルの名に反して重厚。純粋に小説として面白い。シリーズ通して読みたい方は「作曲少女」から手に取ってください。


「ネコの手も貸したい 及川眠子流作詞術」
作詞のノウハウが惜しげもなく詰め込まれた良著。「フレーム」と「ボックス」を使って言葉を集める教えを読んだとき、単語を収集する自身の方法論と通ずるものを感じ、謎に安堵した思い出。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?