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連載漫画の作り方6 人間関係3

編集者と漫画の関係の築き方

web漫画の編集者の人がどうもこのページを読んでくれたみたいなので、編集者の方も含めてここからの話を描きます。自分で経験してきたこと(主に失敗してきたことですが)、実践例を踏まえて書いていきます。

漫画家としてキャリアが浅いと編集者が頼もしく見え、それが原因でハラスメントが起きる傾向があるという話を以前書きました。ハラスメントになってしまったら一番良いのはそこを逃げ出すことだとボクは思います。
しかし、漫画家が無策だとどこに行っても同じような状況を再現するだけになるだけでしょう。それを事前に避けるにはどうすればいいでしょうか?それについてお話しします。これはあとで話す「3 体力と志 4 発表作と漫画家人生」の項目とも深く関わってきます。

連載が空中分解した時の話

キャリアの浅い頃のボクが、ある連載を始めてから担当編集者とどうも話が合わないのに気がつきました。始めるまで一年近く話をしてきたのに変だなあ?と思ったものですが……。連載の5,6回目の打ち合わせの時彼が
「この漫画は○○漫画なんだよ。▽▽漫画じゃなくてさ」
と言い出して仰天しました。だってボクは
「この漫画は▽▽漫画である。○○漫画じゃなくて」
とズーーーーーッと考えながら作っていたんですから。キャリアの浅かったボクは本音を言い出せる空気でもなく、連載はまもなく空中分解して終わってしまいました。そりゃあそうだ。漫画家が南にいこうと指さしてるつもりなのに操舵手が北西さしてたら、そりゃあバラバラになりましょう。

二度とああいう目には遭いたくない

そう思ったボクはそれ以降の仕事からこんな事を考えるようにしました。
①自分の漫画が漫画全体の中でどういう位置なのか理解して説明する
これは担当編集者にも同じような視点を持ってもらいたいと思います。そういう二人が企画を練ると、例えばこんなふうになります。
「これね、ぱっとしない暮らしをしてる主人公がいきなり死ぬところから始めるんですよ、お話しを。ショッキングでしょう?で、生まれ変わっちゃう。自分がよく知ってる小説の物語の中に。しかも前世を記憶してるからピンチを機転で乗り越えていくんです。気が利いてますでしょう?今の人は自分自身の暮らしぶりにうんざりしてますから、都合良く生まれ変わる話に食いつきますよ」
という感じで説明するんです。もしかしたら(この場合は確実に)編集者は
「それ、異世界転生モノでしょう?」
と返してきますから
「え…そ、そうですか?それでこの漫画の工夫は主人公の転生先が主人公じゃないんです。悪役」
「……」
「あ…悪役でしかもお嬢さん。物語だといきなり排除されちゃうような立場の人にするんですよ。主人公はどうやって切り抜けるか!」
「異世界転生で悪役令嬢ものでは?」
「あれ…同じような企画ありますか?えーとえーと……でね、同じような企画があると思ったら工夫がしてあるのはここで…」
と、話を重ねていけば「今の漫画の流行の中で誰に向けてどういう漫画を作ろうとしているか」のブレインストーミングになっていくわけです。これをしていくためには編集者も漫画家に劣らない熱量を持って欲しいと思います。(それについてはここに書きました)。
このやり方は、天才でない人のためにモノです。天才でない人は着実にロジックを組み立てていく必要があります。
「じゃあオレは意味ないか」と思ったかもしれませんが、そんなことはない。大概の人は天才ではありませんし、あなたは天才ではありません。あなたが仮に天才であっても、あなたの担当編集者は天才ではないでしょう。あなたとあなたの担当編集者が天才であっても編集長は天才ではないでしょう。天才ではない人にプレゼンテーションするために、ロジックは必ず必要になってきます。
なによりロジカルに企画を立てていくことで、漫画家と編集者がどこを向けば良いのかが明確になり目的意識が生まれます。目的意識が生まれることで情緒的なハラスメントに陥るのを防いでくれます。


付言しておきますと……世の中には天才はちゃんといます。天才とは、ただ気が向いて起てた企画が世の中の欲望や鬱憤とぴったりあっちゃう人です。もちろん描く絵も斬新。作った企画は売れて、エピゴーネンが現れるお陰で企画の意味が漫画界全体を覆い、やがて漫画史の結節点になっちゃう人です。実際にボクがお目にかかった中で最大の天才は永井豪さんでしょう。少年のように柔らかい感覚の持ち主です。世の中の隠されてる欲望を鋭く見抜き自分のモノとして描きました。ただの男の子だけど世の中の全てを破壊し尽くすような強大な力が欲しい、自分は自分のままで特別な存在になりたい……という欲望が『マジンガーZ』を生みました。これは『エヴァンゲリオン』や『ガンダム』の長いシリーズへの巨大な一歩になりました。


②作品の舵取りは漫画家が行う
雑誌の連載では、印刷代、製本代。配送費などは出版社もちです。いま一番売れてる少年週刊漫画雑誌は週刊少年ジャンプですか。これで130万部くらいだとか。雑誌には原価率というのがあって週刊少年ジャンプの原価率は92%と聞いたことがあります。120万部くらい売れるとプラスマイナスゼロって意味です。いま、ジャンプの売り上げは93~95%らしいですから、雑誌単体ではナントカ黒字って言うことですね。
(数字間違ってたらどなたか教えて下さい)
つい金主の代理人である担当者の顔を見ながら漫画を作ってしまいがちですが、こと連載に関してはそれは良い結果になりません。
漫画家が「この読者はこれを喜ぶはずだ」というのを考えた上で方針を示した方がいいです。17~20ページという分量を編集長に任されて漫画家は、自分の考えを旗印にして進めるのがいいのです。担当編集者はそれを理屈でバックアップしたり足りない資料やアイディアを補うところでとどめて欲しいです。
「しくじったらどうしよう」とびびると思いますが、かまいません。どんどんやっちゃって下さい。「善意」でいろいろ言ってくる人がいてもへこたれず、自分の作品だ、と歯を食いしばって進んで下さい。「舵を手放せ手放せ」というプレッシャーがあっても負けないように。失敗したときは全部自分の責任で引き受ければいいだけです。成功したときには「良い担当のお陰です」と人に向かって言えば編集者は喜びますから。
はっきりした旗幟を打ち出した上で失敗したモノは編集長にとっては「ああ、あっちの路線は無理だったか」というランドマークになっていくだけですから大丈夫(大人は狡いとか思わないように。大人てのはこうやって商売をやっていくのです)。

誰かの歌ではないですけど、自分のオールを手放さないように。
編集者もアシスタントも自分を助けてくれるスタッフですが、推進力ではありません。
自分の推進力は自分です。

次回はアシスタントとの関係を話します。

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