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仕事の流儀2 マスターピース講読

マスターピースとは傑作という意味です。先達の描いた傑作を丁寧に読み込もうと、企画した講座。2年生を対象としました(2学年制の専門学校なので卒業学年に当たります)。2019年度導入。まだ経験の浅い……というか、一年しかやっていない講座です。何年も前から考えては躊躇いして、ようやく踏み切りました。ためらった理由は、年間20コマのうち10コマ使うので
「果たしてそれに見合うだけの深みを持たせられるかどうか」
迷ったのです。躊躇って迷って結局踏み切ったのは、この講座に似た内容を自分自身でやってきて、それが自分の栄養になったからでした。

内容を説明します。高橋留美子さんの短編集『高橋留美子劇場』第二巻を教材に取り上げました。収録作は
第1話/専務の犬
第2話/迷走家族F
第3話/君がいるだけで
第4話/茶の間のラブソング
第5話/おやじローティーン
第6話/お礼にかえて

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高橋留美子さんは言わずと知れた大ヒットメーカーで、『うる星やつら『らんま1/2』などどれも巻数が多いものです。一方、短編もコンスタントに発表を続けてる、現代では珍しい作家でもあります。で、その短編がどれもこれも、ものすごく上手い。考えてみれば『うる星やつら』『らんま1/2』などは基本、読み切り連作ですから短編が上手くても当然なんですけど、一方で『めぞん一刻』『犬夜叉』など長いストーリーものも、ものすごく面白い。
一体何を引き替えにこんな才能を手に入れたんだろう?
そう思ってしまうほどです。いや、引き替えたのは努力なわけですが、ついそう思ってしまうのです。
で、これほどの短編を見逃す手もない、利用しちゃえ、ってのがマスターピース講読です。

まず、学生全員が『劇場』2を講読。十分読ませた後、二十数人いる学生を三つのグループに分けます。
それから、ボクが第1話、第4話について各1コマつかって解説しました。解説のポイントは物語としての構造がどうなっているか、に主に焦点を当てます。第1話ではミッドポイントの果たす役割とそれに伴う三幕構成の意味を中心に。第4話ではサブストーリーの持つ役目を各ページごとにわけてで詳細に解説しました。もちろん、留美子さんは絵も上手いので、絵の表現についても言及。
この2コマは学年の相当早い段階ですませます。それから、学生の各グループに一話づつ担当する短編を選ばせます。各グループがそれぞれ解説を担当・発表。発表のやり方、着眼の仕方は各グループに任せます。学生の担当回は2コマ続けての時間割をしてあるので、目安として1コマ90分以内で抑えるように指示します(実は90分発表するのは、かなり熟練しないとできないのですけど)。
最初のグループの発表を夏休みの後にして、ひと月に一グループづつ発表していきます。採点もしますが、実は採点はさほど重要ではありません。留美子さんの短編を丁寧に読みほぐすのが重要なのです。

学生の発表は思いもよらぬほど多角的で非常に面白かったです。「そういう切り口があったのか」と驚くものもありました。
各グループはだいたい40分くらいで発表を終えるので(40分発表できるだけでもたいしたものだな、と思いましたが)、その後はボクが受け持ちます。発表で足りなかった目配せをフォローするのです。
いわゆる物語論的にストーリーの構成や人物配置などを解説します。

こうやって各グループを年末に終わらせてから、実はここからがこの講座の本番。
各短編はだいたい32ページでできあがってます。どの短編でもいいので構成を模倣しながら自分の短編を32ページで作る、ネームでいいですという課題を出します。
ボクは修業時代、いろんな短編漫画の骨組みを使って(短編漫画だけでなく映画も使いましたが)読み切を製作しました。そのやり方を覚えて出ていって貰おうと言うわけです。インプットとアウトプットがひと組になる組み立てを、講座設定では気を付けるようにしているのです。

年末に出した課題を今度は全員で合評会します。その間約二ヶ月空けてあります。
で、それが今週の授業。どういうものが上がってくるのかドキドキしながら現在待ってます。

この講座の欠点は
グループ内でフリーライダーが生まれやすいです
4人くらいのグループなら避けやすいのですが、いかんせんコマ数を食うのでどうしても1グループの数が増えてしまいます。学年の人数が少ないか(専門学校の経営者はものすごく嫌がりますけどね)コマ数に余裕がある時でないと十分に機能させにくいです。
もう一つの欠点は
高橋留美子さんに替わる作家があまりいない
です。
実はホラー系には上手い短編作家がいるのですが(さらに実は留美子さんはホラー短編も上手い)、ボクはホラーが苦手なのでどうも…。留美子さんならテーマも題材もバランス良く取りそろってるんで使いやすいんですよね。
新しい作品もあった方がいいのはわかるんですが、高橋留美子さんより上手くないと選ぶ意味はないわけなんですけど、いまの少年漫画家は短編集を出さない、というかそもそも短編が上手くない人が多い。
これをどうやって解消するか、今後の作家捜し次第かなと思ってます。







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