『大切なモノを作る』#5

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 ミミとの生活は、その後も続いた。
 僕のバイトがある日は、ミミは家で留守番をする日もあれば、どこかへふらっと出かけることもあった。食費だけは渡しておいたが、ミミは小食なのか、その内の3分の2は返ってきた。
 バイト以外に特に予定がなかった僕は、バイトが休みの日はミミと買い物に出かけたり、ミミの提案で映画を観に行ったりした。ミミの思惑としては僕の好きなものを少しでも見つけようという魂胆だったらしいが、その効果があるようには思えない。

「でも諦めません! 彰久さんの好きなものを見つけるんです!」

 映画の感想で僕が酷評をした後は、決まってミミはそう言った。
 その姿に呆れつつも、健気で微笑ましく思ってしまう。

「僕が気に入るの、滅多にないよ?」
「だからこそ見つけることに意義があるのです! そうしたら、自ずと彰久さんにとって大切な何かが見つかる筈です!」

 ミミの行動の原動力はいつも、この大切な何かを見つけることにあるらしい。だからこそ、ミミは僕の好きなものを見つけることにこだわった。

「今日は何を食べましょう?」

 いつの間にかご飯を作る担当はミミに決まっていた。毎日何を食べたいかミミは確認して、僕が好きな食べ物を少しでも知ろうとしてくる。

「んー、そうめん」
「わかりました!」

 僕が「なんでもいい」という返事をすると酷く落ち込むが、何かを指定すると喜んで笑顔になる。
 料理の腕も日々上がっていて、この前はとうとう「美味しい」と素直に言える程になった。
 その時のミミの笑顔に僕もなんだか嬉しくなってしまったのは印象的である。

「おやすみなさい」
「おやすみ」

 夜寝る前は、必ずこう言い合うようになった。
 眠る前のその一言は、何気ない一言だけれどとても落ち着く一言で、安心して眠ることができる。

「おはようございます!」

 そして毎朝、朝食を作る小さな音や匂いで目が覚め、笑顔で挨拶をする。

「おはよう」

 そのやり取りから始まる朝が、いつからか当たり前になっていった。
 元々は見ず知らずの存在で、怪しい以外の何物でもなかったミミを、こうも受け入れることができてしまっているのが何故かはわからない。ミミの持つ雰囲気の柔らかさのせいなのか、僕に恩返しをしようという健気さのせいか。どれもそうである気がするし、そうでない気もする。

 しかし、ミミの存在は少しずつ僕の心の中を大きく占めていった。それは、確かだった。


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今回は少々文量が少ないですが、きりが良いのでここまでにします。
その分、次回は少々長くなるかと思います。
お付き合いいただけますと幸いです。


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