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『ベルトーニのデザイン活動の軌跡』

 この世で私が一番好きな車とその次に好きな車、シトロエンDSと2CVをデザインしたフラミニオ・ベルトーニの生涯について、長男レオナルド氏やシトロエン社での一番弟子ロベール・オプロン氏への取材などをもとに、自動車ライターの大矢アキオ氏が一冊の著書にまとめたもの。ある日なぜか会社の売店で無造作に売られていたのを見つけて衝動的に買ってしまいました。
 そう。あのフランス車の中でも最もフランス的な車を手がけたのは、名前から分かるように実はイタリア人なんです。ベルトーニが雇用された時代のシトロエンはまだまだ小さな組織であり、デザイナーと設計者と商品企画者の関係が今よりずっと近かった時代だったようです。そんな良き時代に、ベルトーニは自動車デザインと同じくらい彫刻や絵画といった美術活動にも情熱を注ぎました。本の中では自動車のスケッチや模型と、同じ時代に製作した美術作品が写真で紹介されて、互いに影響を与え合っている様子がわかりやすく紹介されています。
 代表作DSについては、よく「宇宙船のような」と言われますが、実は魚がモチーフになっており、後年テレビ局のインタビューでベルトーニは、自動車の形の中で最も醜悪なのはタイヤとエンジンと語っています。タイヤとエンジンを躍動的に表現するという常套手段に対し全く逆の発想でアプローチしているからこそ、あの唯一無二の傑作が生まれたのですね。
 ベルトーニは1964年、脳梗塞により61歳で突然世を去りました。もう彼が現代まで生きていて、「最も醜悪な」エンジンやタイヤが無いEVや空飛ぶ車をデザインする機会を得たらどんな作品を作ることでしょう。

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