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【NHK放映】Zoomで実験合唱セッションしてみた【オンライン合唱】

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<御礼>
今回のZoom実験合唱セッションの模様をNHKに取材していただきました。
NHK総合「首都圏ネットワーク」(4/7 18:30頃) にて放送されました。ご覧いただいた皆さま、ありがとうございます。
この記事ではその時の内容について詳細に記述しています。

新型コロナの影響で、いまほぼ全世界の合唱団が練習・演奏ができないという危機に立たされています。

その中でも、日本ではつい最近まで「気をつけながら、取り組む」というスタンスの合唱団が、ある程度は残っていたと思います。

しかし、それも未知の感染症の予防という観点では危険性がある、しかも実際にいわゆる「感染クラスター」が合唱団内で発生したというニュースが国内外で報じられるようになり、いまこの局面においては、なによりも命を守るために合唱活動は極力控えるべきだ、ということが大半の方々の共通認識となりました。命より大切なものはありません

さて、「この局面」というのがどれほど続くかわからないという不安が当事者のみなさんにあるなかで、それでもなお何ができるか、ということをいまずっと考え、試行錯誤しています。

その一環として、オンライン会議ツールのZoomを用いた合唱練習にはどのような可能性があるのか、ということを実験しました。

実験の告知を当日の5日前にTwitterで行ったところ、日本だけでなくドイツ、ラトヴィア、ハンガリー、アメリカから合計で29名ほどの方が名乗りを上げてくださいました。また、NHKから取材の打診があり、それもお受けすることにしました。

外出自粛/禁止( #StayAtHome #WirBleibenZuhause などのハッシュタグも流行っていますね)という意味では"先輩"にあたるヨーロッパ・アメリカの合唱団ではいち早くZoomでの遠隔合唱練習がさかんに行われており、日本語ではまだあまり出てこないのですが、英語・ドイツ語などで検索するといくつかの情報がヒットしました。また、留学時代の同僚たちが実際にZoom他を利用してオンラインでの練習・セッションを行ったという報告も複数見受けられました。今回のセッションでは、彼らが行っていた内容を踏襲しながら進めることにしました。備忘のため、またオンラインでの練習の可能性を模索されている方々のため、ここにレビューを残しておきます。

あらかじめお伝えしておきたいことは、現状の技術では通信にタイムラグがある以上、オフラインのように同時にうたうということはまったく不可能である、ということです。(たとえNETDUETTOを仮に用い、最高の通信環境を実現した場合においても、合唱のようなフォルマントの微細な変化や残響をリアルタイムに聴き分けて反応するような技術的前提があり、さらに楽曲にビートがない場合も多くアナログな反応が求められる、という状況に対してはまだまだまったく無力です。) また通信状況、使用環境などによって音質・画質が大きく左右されます。そういった制約がある中で、これまでやってきた合唱活動のなかのどのような要素がオンラインという場においても再現可能か、という観点でこの実験を行っています。

また、最後に有料部分を用意しました。このnoteの売上は今後のオンライン・セッションのための研究費として使わせていただきます。ぜひ購入してサポートをお願い致します。

実際に行った流れ

まずセッションを準備するところから終わりまでの流れを簡単にまとめます。次項からそれぞれについて具体的に説明します。

◆当日まで
・事前準備
→ソフトウェア(Zoom)、機材、室内環境など
・参加者への告知

◆当日
・参加者の接続確認、準備確認
・あいさつ
・体操・発声練習
・歌唱セッション(ピアノ付き、アカペラ両方)
・感想

◆終了後
・遠隔懇親会
・フィードバック収集

事前準備

◆ソフトウェア (Zoom)

Zoomは、Win/Macなどのパソコン、iOS/Androidなどスマホ・タブレットに全対応しています。ソフトウェア(アプリ)ベースで動くため、参加者の皆さんに各々の環境に合わせた形で事前インストールしていただく必要があります。

Zoomの利用に際して必ずしもユーザーアカウントを取得する必要はありません。サインイン不要で、ミーティングIDと呼ばれる番号を入力するか、招待者の発行するURLをクリックする形で利用できます。その点でも登録が必須であるSkypeなどと比べて利便性は高そうです。

アカウントが不要であったという点について僕が当初把握していなかったこともあり、今回の実験では全参加者にアカウントの取得をお願いしました。また、ミーティングルームを作成するときにアカウント保持者しか入れない設定にしました。結果としてこれは良かったと思います。合唱活動のように原則として匿名性が不要であり、しかも今回のように普段活動をともにしているわけではない方々も含む不特定多数とのセッションということである場合、アカウントを取得いただいて身元が明らかにした上で参加するということでセッションの質を担保することができました。

◆機材

僕は今回、以下のような機材を用いました。

PC: MacBook Air 2018
外部ディスプレイ: REGZA(液晶TV)
マイク: maono AU-A04T (所謂ゲーム配信などに使われる廉価なUSBマイク)
スピーカー: REGZA(液晶TV)、別途ヘッドホンも

音声面の質を意識して、急遽マイクだけAmazonで購入しました。ほかはすでに用意されていたものです。

後述しますが、通信ラグの関係でもともと超高音質で相手に届くことはありません。指導者(ホスト)が長くしゃべるときに音質が良いと望ましい、という観点ですのでマイクの導入ははじめのうちは必須ではないと思います。

外部ディスプレイは、今回テレビ取材が入る関係で使いやすいかなと思いリビングのTVに繋いで表示させてみました。これは実際良くて、各メンバーの表情やリアクションを目に入れやすくなりました。以後、別のZoomを用いたゼミでも外部ディスプレイは積極的に使っています。

◆室内環境

音を出す、ということがあるのでそれをできる場所で、かつWi-Fiなどが十分に入る場所を選ぶ必要があります。むろん、日本の住宅事情は音を出すということがそう簡単ではないので、参加者のなかには自宅で音を出すことが難しい方もいらっしゃるでしょう。その場合は聴講のみの参加とか、それぞれで何らかの救済措置を考える必要があります。指導者自身としては声を出せる、音を出せるということは必須と思われますので、そういった環境をどうにか見つけてください。必ずしも自宅である必要はないでしょう。合唱団に費用を出してもらって、スタジオを借りるなども現実的な選択肢ではないでしょうか。場所によれば良い機材や配信環境もあるかもしれません。

指揮を振る場合、それが画角に入るようにカメラ位置を設定する必要があります。その点はMacBook Airの付属カメラには限界を感じました。またストレッチや体操などをやる場合も広い画角がとれる必要があるでしょう。MacBook Airでは半身しか映せませんでした。その点は市販のwebカメラやビデオカメラ(HDMI出力からキャプチャーボードなどを通しPCへ接続)などを用意することがより望ましいと思われます。

◆参加者への告知

参加者のソフトウェア、機材環境の設定について案内します。当日、どのように立ち上げたミーティングルームに参加できるかについて明記しましょう(ミーティングIDないしURLの提示)。

複数の参加者がマイクONにするばあい、音声のハウリングが起きる確率が非常に高まります。原則として、音声はスピーカーではなくヘッドホンを利用することが望ましいということはしっかり伝えておく必要があるでしょう。

ヘッドホンが利用できない例外としては、一つのデバイスで複数人参加する場合です(家族参加など)。それでももちろん端子分岐をして複数本のヘッドホンを利用するなどできればベストではあります。

当日

◆参加者の接続確認、準備確認

予め把握していた参加者リストなどと照らし合わせ、メンバーが実際に揃っているか確認します。このときにZoom以外で連絡を共有できるツールが有ると便利です(LINEなど)。

◆あいさつ

音声・映像確認もかねてこんばんは。仲間の顔をみるとホッとする。

◆体操・発声練習

体操に関しては殆ど普段の活動とかわらないようにできました。参加者の全身が映像にちゃんと入っていると簡単なフォームの指摘などもできます。動き方の手本を示す場合、カメラにそれが収まっているかについて注意しましょう。

発声練習からは、普段の活動に比べると種々の制約がでてきます。Zoomないしオンライン通話での根本的な問題点として、お互いの音声・映像にタイムラグが生じます。従って、基本的には参加者側の音声を全員ミュートにし、指導者の音声を聴きながら、おのおのが自分で声を出すという方式が基本となります。参加者の音声フィードバックを得てコメントしたい場合は、ひとりづつミュートを解除し、それぞれにうたってもらうという方法もとることができます。全体の人数や時間のバランスをみて決定してください。

なお、実験として全員の音声をONにし、ユニゾンのハミングと、2声のヴォカリーズ・インプロヴィゼーションをうたってもらいました。

インプロはこちらの動画と同じものです。(こちらは別途多重録音で作成)

Zoomでは同時に出力される音声の数が限られるため上記の動画のようには行かず、常に何人かの個人の声が入れ替わるように聴こえるという形になります。

合唱ではふつう「響きを聴く」ということをしますがこの場合は「個人の声を聴く」ということになってきます。したがって音楽の全体像を感じながらうたうことはこの形式では難しいです。しかし、「その瞬間に聴こえた個人の声を尊重し、寄り添うようにうたってみて」と指示すると、それぞれの方の声が明らかに変化する瞬間がありました。合唱をマスプロダクションではなく繊細な小アンサンブルの集積としてみる場合、その方向からの作用はこの環境でも実現可能かもしれないという手応えがありました。

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◆歌唱セッション

セッションでは以下の2つの曲を取り上げました。

・Brahms: Deutsches Requiem 4. Satz "Wie lieblich sind deine Wohnungen"
・Mendelssohn: aus Elias "Wirf dein Anliegen auf den Herrn"

前者はピアノ付き、後者はアカペラです。

発声練習のときと同じ条件で、タイムラグの関係上、一人のみが音声ONにし、他の人はミュートにしてうたうということが基本条件となります。

その上で考えると以下のような組み合わせで練習できます。

・指導者が声をマークするか、鍵盤楽器などを利用して「音取り」を行う。参加者はそれに合わせてミュートで一緒にうたう。
・一人の参加者が音声ONにして全体に向けてうたう。参加者ははそれに合わせてミュートで一緒にうたう。
・ピアニストが音声ONにしてピアノパートを弾く。参加者ははそれに合わせてミュートで一緒にうたう。
・指導者が音声・映像をONにして指揮を振る。参加者ははそれに合わせてミュートで一緒にうたう。

ミュートのON・OFFは参加者にゆだねてもよいのですが、ホスト側で集中コントロールすることも可能です。口頭指示はタイムロスが多いのでホスト側で指導に合わせて変えてしまうほうが効率は良さそうでした。

オンライン通話の制約上、殆どの場合ある一人対自分という形でアンサンブルを重ねていくことになります。これを新鮮に思う参加者の方が多かったようです。普段合唱の中ではなかなかフォーカスしきれない個人レベルのアンサンブル、それを聴く耳、それへの素直な反応といったことがこの制約的に思われる環境に意義を見出す鍵となりそうです。

また今回の実験セッションでは数名のプロの歌手の方々、とりわけベルリン在住のRIAS室内合唱団員・吉田志門さんにご参加いただき、彼の声といっしょにうたうという経験ができたことは参加者のみなさんにとって非常に得難い経験だったと思います。吉田さんありがとうございました!

ブラームスでのピアノ・パートは、ピアニストの薄木葵さんにお願いしました。遠隔でのピアニストとのコンタクトはもちろん初めてですがこれも新鮮な体験でした。

ピアノとうたうというのも、上述した1パートの声とのセッションと基本的に同じように機能します。ただしピアノ(今回はグランドピアノでした)の音声としての情報量の多さから、タイムラグがより発生しやすい状況が見受けられました。ピアノ音声を一旦ミキサーに落としてからPCにつなぐなど、ピアノパートの導入は指導者側と同じように注意深い環境構築が必要そうであるという感触を受けました。もちろん、同時に弾く音の数を減らすなど、演奏側の工夫で伝わりやすくなるパターンもいくつかあります。この辺はより実験を重ねる必要がありそうでした。

◆感想

技術的な難しさをそれぞれで共有しつつも、可能性を感じるといった意見が多く安堵しました。

終了後

◆遠隔懇親会

オンライン飲み会、楽しいです。Zoomにはバーチャル背景という機能があり、自分の映像の背景を好きな画像に変えることができます。これを使っておふざけをして盛り上がりました。

◆フィードバック収集

参加者のみなさんからフィードバックを収集しました。僕自身の印象や考えたことをまたまったく違うアイデアが多くあり、これからの可能性を存分に感じました。

このnoteの巻末、有料部分に実際のフィードバック内容をご覧いただけるURLを貼りました。興味ある方は購入してください。


以上、皆さんの参考に少しでもなれば幸いです。
おうちでも音楽に関わることをぜひ楽しみましょう!

<以下有料>
参加者フィードバックコメント、実際のセッション映像(冒頭〜体操発声の前半まで)

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