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流域思考 松山の土石流災害 ハザードマップの穴。

2024年7月12日。愛媛県松山市の土石流災害。

元々あった「小流域」地形に沿って、土石流が下流部に流れ込んだ、典型的な小流域水土砂災害。

土石流災害が起きた地形を見れば、

Googleの写真を見ても、地理院の地図を見てもはっきりわかる。

崖崩れなどではない。

普段から雨が降れば、水が流れる小流域。

青で囲った部分がこの小流域の地形。真ん中の赤い部分が谷筋。
この谷筋に流域に降った雨水が流れ込むことで土石流災害が発生。
グーグルの写真からでも、この小流域の谷構造がはっきりわかる。
この谷筋に左右の流域の斜面から雨水が集約され、土石流が発生している。


その谷構造に沿って土石流が周辺から流れ込んだことが明白。

ところが、相変わらず、マスメディアや、専門家たちがその点を指摘しない。

崖崩れ扱い。

あるいは土石流災害と指摘しても、原因を地層や地質ばかり語る。

じゃあ、地層や地質がよかったら起きないのか。

これまでもそうだった。

過去から現在に至る、土石流災害のほとんど全てが「流域地形」の構造に沿って起きていることを認識しないまま、今回も報道している。

熱海も広島も大島もおそらく皆さんが過去10数年毎年見ている「土砂崩れ」災害は全て小流域地形の水土砂災害。

私が確認している限り例外なし。

正直言って、テレビ局や新聞社の報道の多くが最低レベルのまま。

全く勉強してない。

問題の一つは、彼らが頼る水害対策の専門家の多くが「地形」を見ることができないという点にある。

だから、過去10数年全く対策が進んでいない。

https://www3.nhk.or.jp/.../20240713/k10014510401000.html

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/itv/1291776?display=1

例えば、こちらの記事では専門家が「土石流が発生した可能性」と発言しているが、土石流が発生しているのは一目瞭然。

むしろ問題は、地形を全く見ていない。

専門家が。

「城山の北側斜面でこうした「土石流」が起きるのは、想定外だったと述べました」「今回のような大規模な土石流というのは初めてだと思う」「しかし、城山の南側斜面では、ちょうど14年前のきょう、土砂崩れが発生し、夏目漱石と正岡子規が一緒に過ごした愚陀仏庵(ぐだぶつあん)を復元した建物が倒壊する被害が出ています」「2018年の西日本豪雨では、土砂災害のうち、およそ4分の1は赤色の特別警戒区域と黄色の警戒区域ではないエリアで起きているということで、二神准教授は、山の近くであればハザードマップのエリアに限らず、土砂災害に備えが必要だと呼びかけています」「「四国、特に愛媛の土の状態は崩れやすい土が多いので、雨で土石流が発生したんだと思う。これから雨が強くなるかもしれませんので、できれば早めの避難、あるいは山から離れた部屋へ避難してもらいたいと思う」

以上の文章を見れば、地形がわかってないことがはっきりする。

今回の土石流は、小流域地形がはっきり確認できる地形に沿って起きている。

専門家が「想定外」と言っちゃ絶対ダメ。

つまり、この専門家は地形がわかっていない。。。

で、その手の専門家に限って、その土地の「土の種類」の話ばかりしたがる。小流域に、ある分量の土や倒木が溜まっていれば、そこに水がある一定量入ると、耐えきれない重量になった瞬間、土の種類など関係なく、土石流災害は起こり得る。

というわけで、残念ながらマスメディアと「専門家」が役に立たないけれど、日本どこでも起こり得るのが小流域土石流災害。

なぜなら、日本は、小流域地形だらけ、だからである。

だから、自分の暮らす場所の地形を正確に把握しておく必要がある。

残念ながら、今後も小流域地形に沿った土石流災害は全国で起こり続ける。

地形を知っていれば、対応もできる。

ここだって、そうだったはず。。。

で、実際に地形を見てみる。

松山市の「小流域土石流災害」は、現在使われている行政のハザードマップが、実は広島や大島や熱海などでたくさんの被害を出している「小流域土石流災害」を事前に察知することができない「欠陥」があることを、残念ながら証明してしまっている。


実際の事故現場の写真を見ればわかるように、元々あった小さな谷構造=小流域に沿って土石流が発生したのが一目瞭然。長い矢印が土石流の通ったルート。左右の小さい矢印は、谷構造に沿ってこのルートの中心に水が集まるのを図にしたもの。そして赤線で囲った部分が、この谷の小流域。

ここに降った雨は、真ん中の谷筋に集約される。その集約した雨水の総量を現場の土地が保持できなくなった瞬間、土石流が発生する。等高線をとった現地地形図を見れば、この地が谷構造=小流域であることは、地形図だけを見ても明白。稜線と稜線の間の谷地形すべてがここの流域。赤線の内側。

ちなみにここの小流域の地形は、源流部分がおたまじゃくしの頭のように広く大きく、下流の出口にいくに従って、狭くなる。実は過去の小流域土石流災害がおきた地形の多くがこのかたち。上流部に降った大量の土石流が、漏斗状にすぼまるかたちで、下流部へと押し流される。拡散しないで、1本の土石流化する。広島の平成26年土石流災害も全く同じ。


国土地理院の1947/10/18の空中写真を見ると、この小流域は元々木がほとんど生えておらず、谷の中心は溝状の構造がはっきり見える。これが水路かあるいは道なのかは、写真だけでは確認できないが、裸地状態なので、地形が正確に確認できる。




この状態だと土石流は来ないが、代わりに大雨の時は水害があった可能性がある。
流域の構造に沿って雨水が集約され、水の流れに沿って、土石流が発生する。


ところが、ハザードマップでは、この小流域の出口部分、今回、土石流災害の起きた現場「だけ」が、ハザードマップの危険地帯から除外されている。


ハザードマップで「安全」なはずのところで土石流水害が起きている。

赤くなっていない。

皮肉にも、見事にこの小流域の赤で囲った部分だけが「ハザードマップ」から除外されている。

なぜか。

小流域の出口は、谷の出口。そして小流域構造は、常に過去に土石流があったために、両側の稜線よりも地形的にはなだらか。

当然その周囲の稜線の崖地部分よりも、なだらかであり、崖崩れの心配なし、とみなされる。たしかに崖崩れはここでは起きない。代わりに周辺の水が集まり、一定の重量を超すと、上流の土石や木々が「水の流れに乗って」落ちてくる。そう、土石流災害の中心になってしまう。

そもそも、なぜ谷の出口が低いのか。

それは、何度も過去に土石流が起き、侵食・運搬・堆積が繰り返されたから。

過去10数年起きている、土石流災害のほとんどは「崖崩れ」ではない。小流域構造の出口に上流部から土石や倒木が流れ落ちてきた、小流域土石流災害。

つまり、崖崩れ情報以上に、小流域土石流災害の可能性をハザードマップは図示しなければ、役に立たない。

ところが、そうなってない。

日経bpにいた頃からすでに10数年にわたって、日経ビジネス上では報道してもらったり、本も作ったり、フェイスブックで繰り返し情報発信をしてるが、この「常識」は、いまだに全く常識になら人がたくさん死んでも、メディアや専門家や行政が理解しない。「流域治水」と言いながら「流域」を意識しない。

人はなぜ「流域」を意識できないのか。

ぜひ岸由二さんの流域思考本を読んでいただきたい。


流域思考とは何か(八坂書房)



生きのびるための流域思考 (ちくまプリマー新書)

「流域地図」の作り方: 川から地球を考える (ちくまプリマー新書 205)


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