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YuNi Major Debut Album 「eternal journey」全曲レビュー

 どうもヤンです。

 今回は、YuNi Major Debut Album「eternal journey」の発売を祝しまして、アルバムの全曲のレビュー・考察を行いたいと思います!どうぞ最後までご覧くださいませ!

 以下、常体で記させていただきます。


1. DAYZ(作詞:q*Left 作曲/編曲Giga

 本アルバムのリード曲。曲調としてはGigaが得意とするEDM調のポップなダンスミュージックであり、アルバムを印象付ける非常に明るい曲になっている。私の好きなポイントは下記の過去記事に全て書いてあるため、曲についての詳細は割愛する。

 「DAYZ」はアルバムリード曲として非常に強い立場にある曲であると考える。めざましテレビにてのMV先行公開、TikTokでのダンスムービー公開 、有名ダンサー「まなこ」とのコラボダンスムービー公開、Gigaによるセルフカバーの投稿など、アルバムの宣伝をこの曲を軸にして行っていることからも、それは窺える。アルバムのリード曲を決める際は割とすぐに「DAYZ」に決まったという話も出ている(Gigaとの生放送にて)。

 この曲がリード曲として選ばれたのは、「DAYZ」にYuNiの歌声の全てが詰まっていると言えるからだ。YuNiはSPICEでのインタビューにて、次のように語っている。

――5月14日に放送していた『「DAYZ」MV公開直前生放送!』の配信の中で「「DAYZ」は新しいYuNiにぴったりの曲」と仰っていましたが、どのようなところがぴったりの楽曲なのでしょうか?

「DAYZ」は今までのYuNiの印象と違う楽曲だと思っています。今回、アルバムのリード曲を考えた時に、メジャーというタイミングで新しいものに挑戦していく、かつ新しい自分も出していける楽曲が良いなと思ったんです。「DAYZ」はひとつの声色じゃなく、かっこいいYuNiや可愛いYuNiを出すことができるので、初めて聴いてくださった方には「こんなに歌声やキャラクターの種類があるんだ」と思ってもらえると思うし、これまでも応援してくださった方には「あの時のYuNiちゃんの声だ」と思ってもらいたいっていう意味も詰まってるんです。しかもアルバムのタイトルが『eternal journey』で「終わりなき旅」という意味なので、メジャーデビューの出発を華々しくポジティブでハッピーに迎えたかったという思いが詰まっているんです。

――spice記事より引用

 「DAYZ」には、実に多彩なYuNiの歌声が含まれている。かっこよさを重視したパワーのある歌声をメインで使いつつ、流暢な英語のフレーズ、かわいい地声を生かしたラップ、かっこよさを意識したラップも含まれており、楽曲全体で「おいしい」構成となっている。このような構成は、新規のゆにチル、既存のゆにチルどちらの目線からも真新しく映ることであろう。

 そして何より、この1曲だけでアルバム全体を明るい方向へと持っていく力がある。「アルバムのタイトルが『eternal journey』で「終わりなき旅」という意味なので、メジャーデビューの出発を華々しくポジティブでハッピーに迎えたかったという思いが詰まっている」とYuNiも語っているが、聴けば誰でも笑顔になれる「DAYZ」はアルバムリード曲というポジションにピッタリであるのではないか。


2. And Another(作詞:Nor 作曲:ampstyle(Dareharu)/Nor 編曲:Nor/ampstyle(Dareharu))

 「DAYZ」とは打って変わって、起伏の激しいシックなサウンドが特徴的な1曲。私が初見で聴いた時の感想は「DJで映えそうな楽曲」であった。至る所で効果音を入れられそう。

 さて、この曲はかなり歌詞の解釈に手間がかかる曲である。というのも、途中から見えている情景がガラリと変わるからだ。

 この曲の歌詞は「あの子」に対する「私」の対比で語られる。

水面ゆらり
映り込むひだまりの中
あの子がいた
歩幅合わせて歩いていこう
何故だろう気になる表情

綺麗な眼差し
叶えたい夢を見てる
あの子の背中を
そっと押そう

踏み出そうその先へ
一緒なら大丈夫
涙の跡さえ力になる
重なり合う思い
徐々に強くなって
輝き始めた世界を旅する
また新たな場所まで

――『eternal journey』歌詞カードより引用

 1番では夢を追っている「あの子」に対して「私」(ただし、この時点では「私」という歌詞は出てこない。「あの子」と「私」の対比を強調するためだと思われる。)がそっと寄り添い応援する姿が想像される。この時点までは「あの子」に対し、純粋な感性で対応している「私」の様子が見られるのだが…

曇った鏡覗き込む
ぼやけた姿
私がいた
磨き続けるあの子みたいに
頑張れそうな気がしたよ

光を集めて
鮮明に変わる模様

いつの間にか
あの子は消え
私だけがいた

踏み出そうもっと先へ
ひとりでも大丈夫
本当の自分を見つけた今
重なり合う思い
徐々に強くなって
輝き始めた世界を旅する
また新たな場所まで

踏み出そうもっと先へ
ひとりでも大丈夫
涙の跡さえ力になる
重なり合う思い
徐々に強くなって
輝き始めた世界を旅する
また新たな場所まで

――『eternal journey』歌詞カードより引用

 2番からは「私」の存在が初めて明かされ、「私」が「あの子」に対して劣等感を感じ、負けず嫌いな性格が見え隠れする描写となっている。特に「踏み出そうその先へ/一緒なら大丈夫」から、「踏み出そうもっと先へ/ひとりでも大丈夫」へと変わっていることが象徴的である。このことから、「あの子」は夢を叶えたが、「私」はまだ夢の半ばにあるのではないか。

 YuNiにとって、「ひとり/孤独であること」は切っても切り離せない存在である。というのも、YuNiが初のオリジナル曲を作るときにテーマとして挙げたことの一つが「孤独」であり、それが色濃く反映されたのが「透明声彩」であるからだ。

YuNi:そうすると、自分が一番心を揺さぶられるのは「ひとり/孤独であること」とか、「命の大切さ」のようなことだと分かってきて。そこから、YuNiがバーチャルな存在だということも含めて、「儚さ」というテーマが出てきました。

――realsound記事より引用

 この「ひとり/孤独であること」のテーマや、「輝き始めた世界を旅する/また新たな場所まで」の歌詞、そして「And Another」というタイトルから、私はこの曲が『eternal journey』へ旅立つためのアナザーストーリー的前日譚であると考えた。「透明声彩」と同じ含みを持つ表現を含みつつ、また新たな世界への入口となる、「アルバムの芯の最初の曲」ではないだろうか。


3. 夜と幽霊(作詞/作曲/編曲:R Sound Design

 3曲目は、R Sound Designによるオシャレなサウンドが特徴的な「夜と幽霊」。YuNiはR Sound Designの「flos」「帝国少女」をカバーしている。さらに「flos」はカバーアルバム「CoLoR」に収録されていたり、「帝国少女」はUNiON WAVE-evolve-で披露していたりすることから、彼の音楽が好きであり、また彼の音楽とYuNiのボーカルとの親和性が評価された結果として「夜と幽霊」の採用が決定したのだろう。

 「夜と幽霊」の最大の魅力は、やはりR Sound Designが作る夜の街を思わせるピアノ中心のサウンドと、YuNiの透明感があり切ないボーカルであろう。朝イチのハイテンションなサウンドの「DAYZ」と対照的に位置するような、オシャレでキラキラとしたナンバーになっている。ちなみに、「夜と幽霊」はR Sound Designによる初音ミクカバーもされており、そのMVでは実際の夜の街の映像が使われている。

 さて、そんなオシャレな曲とは裏腹に、歌詞はかなり悲しい情景を映している。この曲は「And Another」と同じように「僕」と「君」という二人の主人公が登場し、「僕」が「孤独」に追い詰められる様子を描いているようだ。

夜の街に溶けてゆく
淡い痛みを連れたまま
青色になって孤独になって
この胸は張り裂けそうさ
僕はこのまま何処に行けるだろう
煌るネオンだけが僕を照らした
夜と幽霊

そして寂しくなって僕は死んでしまったのだろう
まだ息をしているし鼓動の音は確かに聞こえているが
終わらない旅の途中やがて消えてく足の感覚を
幽霊に例えてみたんだ

――『eternal journey』歌詞カードより引用

 この曲はかなり死生観というものが滲み出ていると感じた。すなわち、「君」は既に死んでしまってこの世にはいない存在であり、「君」の死によって不安定な精神状態に陥っている「僕」は死んではいないが地に足がつかない「幽霊」の状態になっているのではないか。この感覚を「終わらない旅の途中」で味わっている「僕」の心情は、想像できないほど苦しいものであろう。


4. キライ(作詞:ゆよゆっぺ 作曲/編曲:DJ'TEKINA//SOMETHING

 「死」を想起させる「夜と幽霊」から流れるように、4曲目の「キライ」は「「キライ、キライ」/覗き込んだ/気付きたくない深淵のCode」という、重苦しいイントロから始まる。「キライ」は「eternal journey」において最もダークな曲であり、インパクトも非常に高い曲となっている。そのインパクトゆえに、この曲は先行配信曲としてシングルカットされ、非常に好評を集めていた。

 上記の記事は私が「キライ」先行配信時に書いた歌詞の考察記事である。あくまで私の個人的な意見として受け取ってほしいが、ぜひ一読していただきたい。そこで今回は、この曲が言い表すところはなんなのかをSPICEとリスアニ!のインタビュー記事から紐解いていく。

(印象に残った曲について)
4曲目の「キライ」ですね。今まで綺麗目な曲が多かったので、ドロドロとした暗い気持ちの歌詞を歌いたかったので、最初の<「キライ、キライ」>っていうフレーズを聞いた時に待ってました! って思いました(笑)。言葉に出さなくても心の中で嫌いとか居なくなって欲しいという思う気持ちは誰にでもあると思うんです。<色彩が奪われるようだ>というフレーズが好きなのですが、ショックだったり憎いとか負の感情になった時って無になったりするじゃないですか。

――わかります、血の気が引くと言うか。

そうですそうです、その明るく景色が見えなる経験を思い出しました。これまで「透明声彩」など色にまつわることを歌うことが多かったので、そういう色彩が無くなるということに関連付けて書いてくださったことをゆよゆっぺさんが教えてくれて、ちゃんと見てくれているんだと感動しました。

――spice記事より引用
――たしかにそれぐらい、YuNiさんの声もハマっていますよね。ただ、こうした歌詞にあるネガティブな感情というのは、普段のYuNiさんのパーソナリティとは真逆にあるようにも思えます。そうした普段ない感情を歌にすることに躊躇はありましたか?

YuNi 躊躇は全然なかったですね(キッパリ)。もはやそういう感情を持っていて当たり前だと思っていて、誰しもが負の感情を持っているし、それは絶対消えないものだと思っているんですよね。だから綺麗なものばかりを歌うというよりかは、むしろ普段表に出せないからこそ、そうしたドロドロとした感情を歌に込めたいとい思って、あえて攻撃的な歌をうたいたかったんです。普段言わない人間だからこそ歌だから言えるという、やっぱり表現ってそういうところから出るんじゃないかなって。

――リスアニ!記事より引用

 「キライ」は元々YuNiが、いや、人間なら誰でも持っている持っている負の感情を曝け出すために、アルバムに入れたいと強く思って実現した曲であった。自由度が高い「歌」というアート作品を一つの媒体にして表現を行いたかったことが読み取れる。

 私がこの記事を通して思ったことは、「キライ」はYuNiが一時期思うように活動できなかった停滞期のことや、ライバルに差をつけられているといった、YuNiにとってのマイナスな要素を取り払うような役割を持っているのではないかということだ。あえて普段とは対極に位置する、色彩がないような表現を取り入れたことで、YuNiの力強さ、新たな一面を感じた一曲であった。


5. ユニークアビリティ(作詞:YuNi with BibiMog 作曲/編曲:emon(Tes.)

 アルバムの折り返しの曲として選ばれた曲は、YuNiが初めて作詞に挑戦した「ユニークアビリティ」だ。BibiMogの協力があってこそできたものではあろうが、初めて作詞に挑戦したとは思えないほど韻の踏み方や語句の繋ぎ方が上手いと感じた。また、ボーカルではかわいい寄りの地声が生かされ、サウンドもイキイキしたものになっており、「普段のYuNi」が見えるような構成になっている。YuNiが買っている2匹のネコが入っていることもまたYuNiらしさと言えるだろう。

 しかしながら、一見非常に明るくポップな曲に見えて、実は「YuNiが思っていることを言う」という棘が含まれていると言う点もまたYuNiらしいと言えるだろう。

――新たな挑戦といえば「ユニークアビリティ」で初めて作詞を担当されています。こちらはどのような想いで制作されたのでしょうか?

「普段YuNiちゃんがどういうことを思っているか歌詞にしてみてほしい」という声は以前からいただいていたんですよ。普段から思っている事と、ストーリーをなぞるだけじゃなく、宝箱を全部開けてレベルもMAXにして、という自分の完全攻略型のゲームスタイルを掛け合わせた歌詞にしようと思いました

――なるほど。

私は応援ソングより人間の内側を描いた歌詞が好きなので、曲調はとてもポップなのですが、それに合わせて明るい曲は書けないし、綺麗なことだけ言っている自分を見せたくないと思って歌だからこそ言えることを歌詞にしました。

――spice記事より引用

 この曲の歌詞は、YuNiイチオシのゲームである「ファイナルファンタジー」をはじめとしたRPG的な世界観を意識しつつ、「流行や周囲に流されない」「自分の@ペースで歩む」というメッセージが込められていると感じる。特に「流行」を「磁石」に当てはめ、その「流行」に引き寄せられる群衆を「砂鉄」と例えるイントロの歌詞は、非常に痛快である。

 YuNiという人物自身、あまり「流行」への興味がない方である。自分から積極的に曲探しをせず、新しい曲の供給源はテレビや有線で偶然流れていたところから、「歌ってみた」を上げる際の曲選も流行の曲には捉われず、自分が「好き」だと感じた曲から。「ユニークアビリティ」は、YuNiなりの現代社会への小さな反旗ではないだろうか。


6. 平坦人生活劇(作詞/作曲/編曲:かいりきベア)

 「ベノム」「ダーリンダンス」などで今もっと注目すべきボカロPのひとりに上り詰めたかいりきベアによる提供曲。かいりきベア楽曲とYuNiボーカルの親和性はYuNiの「ダーリンダンス」カバーで証明済みであったが、「平坦人生活劇」というオリジナル曲の形になったことで改めて一体感を感じている。一発で「かいりきベアである」が作ったと分かる特徴的なサウンドと歌詞に、メインのメロディと後ろのセリフで声を切り替えられるYuNiが合わさり、これまた愉快な作品に仕上がっている。

 そして歌詞としては、退屈な日々に飽き飽きとした様子を綴っているものになる。この曲も「ユニークアビリティ」同様、「同じスライムを仕留める日々さ」「同じプレイばっかこなすだけさ」とゲーム的な世界観を踏襲しつつ、ゲーム世界に囚われない現実に目を向けているように思われる。YuNiもインタビューで、この曲が刺激を求める曲であると語っている。

――続いてはかいりきベアさんの「平坦人生活劇」ですね。

YuNi 普段生活をしていても、同じ日々が続いてつまんないなって思うことってあるじゃないですか。最近いいことも悪いことも特にないなっていう日々は誰しもあって。でも旅が続いていくなかでも、常に何かが起こるわけではないし、そうした真っ直ぐな道がただ続く時期っていうのも必ずある、それを表現したかったんですね。平坦な日々でも刺激がない、つまんないよっていうのを嘆いているというか。タイトルにあるとおりもっと刺激が欲しいって言っている曲です。ちょっとクセになりますよね。

――リスアニ!記事より引用

 私としては、歌詞で繰り返し「おやすみなさい」という語句を用いていることが気に入った。「寝れば忘れる」という魔法のような謳い文句があるが、やはり新しい明日を夢見てとりあえず眠るのが吉である、ということを指し示しているように思われる。この楽観的な姿勢が歌詞の全体的に蔓延っているからこそ、「平坦人生活劇」には確かな中毒性とポジティブな印象があるのだろう。


7. Dreamin' Dreamer(作詞/作曲/編曲:tilt-six

 7曲目は「DAYZ」とはまた違った形でYuNiイングリッシュとYuNiラップが堪能できる「Dreamin' Dreamer」である。YuNiは今回のアルバムがラップ初挑戦であったはずだが、「DAYZ」でかわいい地声によるラップを見せたかと思えば、「Dreamin' Dreamer」ではかっこいいに振り切ったラップを展開しており、YuNiの引き出しの多さを感じさせる。また、楽曲としては今世界で流行っているK-POPのエッセンスが含まれているのも特徴である。そして、清田直人によるグターソロがオシャレでかっこいい。惚れる。

 そしてこの曲は、「旅の中におけるYuNiと音楽の関係」を描いた曲であるように思われる。「歌」「音」「五線譜」「コード進行」「声」など、音楽に関係しそうなワードが詰まっており、「story」「ストーリー」「物語」「夢」「毎日」などは、アルバムのテーマである「eternal journey」に関係しそうである。特にサビやラップの詞から、歌の方からYuNiにアプローチしていることが窺える。

君の全部を知りたいなんて言葉
僕たちは言えなくて
結局君に恋してる
思い 共に
歌に隠したまま

体温まで伝わる距離でも
感情を音に込めて
大丈夫書き起こした言葉
思いは五線譜にのせて

――『eternal journey』歌詞カードより引用
どうするこの展開
第二話とかもうない もう限界
唐突なコード進行とかいらない
わかんない
どこへ行こうにも
寄り道なんかない
音が鳴るのは
いつも君の方

――『eternal journey』歌詞カードより引用

 「君」はいつも自らYuNiに語りかけてくる。YuNiはそんな「君」に対し、不思議な力で吸い寄せられ、「君」に恋を覚えている。よくあるラブソングのようにも思われるが、先ほども話したように「音楽」に少しでも関連しそうなワードが多く使われていることから、私には「君」の正体が「音楽」であるようにも思えるのだ。


8. YuNiSoN(作詞/作曲/編曲:八王子P

 さて、ここまで一見正統派ポップに見えるけれども、実はYuNiらしい回り道が見え隠れしていたアルバム『eternal journey』であるが、8曲目にしてド直球にポップな曲が現れる。八王子Pが手がけた「YuNiSoN」は、「Write My Voice」や「Destination」でも見られるような、従来のYuNiらしい明るくてポップな路線の曲となっている。

 そして、楽曲としてのポップさを保つためか、楽曲の構成としてはイントロ→1A→1A'→1B→1サビ→間奏→Dメロ→間奏(シンガロング?)→2サビ→間奏→アウトロと、要素を削ぎ落としかなりシンプルな構成になっているように思われる。一方で間奏ではカットアップと呼ばれるボーカルを切り取りランダムに繋げる技法を用いることで意外性をもたらしている。

 歌詞の内容としては、YuNiの今までの旅を全て肯定するものになっているのではないか。「夜と幽霊」で経験した別れも、「キライ」で生まれた嫌悪の感情も、「平坦人生活劇」の頃の変わらない日々の日常も、もちろん他の曲で経験した全ての歌がYuNiを形作り、「YuNiSoN」を作っているのだ。

迷いや不安は
消えないけれど
僕らが歩んだ
軌跡を信じて

――『eternal journey』歌詞カードより引用

 「YuNiSoN」というタイトルは、自身の名前「YuNi」と、音楽において「同じ音」「斉唱」などを意味する「unison」を掛け合わせたものであろう。「YuNISoN」の曲のイメージとしては、『eternal journey』の一つひとつの曲が束となり、奏でている感じだ。YuNiのこれまで、そしてこれからの要素が無数に重なり、明日もYuNiは歌うことをやめない。

空の向こう輝く明日へ歌うよ
僕らのユニゾン

――『eternal journey』歌詞カードより引用


9. ココロノック(作詞/作曲/編曲:YUC'e

 2020年夏季アニメ「宇崎ちゃんは遊びたい!」エンディングテーマとして採用された、YuNi初のミドルバラード。この曲は、以前にこちらの記事にて紹介しているので、ぜひとも見ていただきたい。

 この曲は、「宇崎ちゃん」の主人公である宇崎花が桜井真一に対して日常的にちょっかいをかけつつも、内心では乙女心を持っている様子を描いている歌である。アニメの内容を的確に表現しつつ、アニメのイメージだけに引っ張られずYuNiらしさも出ている名曲である。


 さて、今回はアルバム『eternal journey』における「ココロノック」の位置付けを考察したい。

 実は、「ココロノック」は、秋に行われたライブ「eternal journey」や、今回のアルバム『eternal journey』のテーマを初めて明かした存在である。というのも、「ココロノック」解禁日に、YuNi・桜木蓮両氏がTwitterで「ココロノック」ジャケ絵の表裏を公開し、フラグを立てていたからだ。

 当時はこの絵が何を指し示すのか分からない人も多かったであろう。しかし、『eternal journey』が発売された後になった今では、ドアの裏に貼られた世界地図、足元に転がる懐中時計とマイクが、今にもYuNiが旅立とうとしている様子を示しているように思われるのだ。

 すなわちこの曲は、YuNiが『eternal journey』へのドアを開けて旅立つ曲である。そして同時にアルバム最後の、「ココロノック」と同じくYUC'eが手がけ、「透明声彩」のアンサーソングともなっている「光風声月」へと続くドアとして存在する曲でもあるのだ。ラスサビで転調し、一気に世界が広がるメロディは、YuNiの記念すべき旅立ちを祝福しているようだ。


10. 光風声月(作詞/作曲/編曲:YUC’e)

 アルバムのラストを飾るのは、YUC'eがプロデュースした「光風声月」である。YUC'eとYuNiは、YuNi初のオリジナルソング「透明声彩」の頃からYuNiと行動を共にし、今までに4曲ものYuNiの曲を担当した仲である。そんなYUC'eが、「Write My Voice」というkz(livetune)による「透明声彩」のアンサーソングがあることを知った上で、いや、その文脈を踏まえた上で、改めてYuNiに最も近しい存在として綴った、「透明声彩」の「続編」になっている。

 さて、「光風声月」を紐解くためには、改めて「透明声彩」の最初のアンサーソングである「Write My Voice」について語ることは避けては通れない。YuNiはrealsoundでのインタビューにて、「Write My Voice」は「透明声彩」のレコーディングでも立ち会っていたkzにしか書けない曲だと述べている。

ーー一方で、kzさんが楽曲を担当した「Write My Voice」はどんな風に作ったんですか? この曲は歌詞も印象的で、最初に聴いたときに思わず感動してしまいました。

YuNi:「Write My Voice」は、公表してはいないんですけど、実は「透明声彩」の続編のような曲を作りたいと思ってできた曲でした。

ーー歌詞からもその雰囲気が伝わってくるような曲になっていますね。〈はじまりの鐘がほら/透き通るように響いていた〉という部分は、まさに「透明声彩」を振り返っている部分のように感じました。

YuNi:そうですね。kzさんは、YUC’eさんと一緒に「透明声彩」のレコーディングに立ち会ってくださっていたので、「まさにあのときの続きを書いてくれたんだなぁ」と思いました。歌詞を最初にいただいたとき、「kzさんからはこんな風に見えているんだ」と思って、YuNi自身も感動してしまって。kzさんだからこその曲にしてくれたのが本当に嬉しかったです。

――realsound記事より引用

 「Write My Voice」では、「透明声彩」という曲が持つ「透明感」をイメージし、「はじまりの鐘がほら/透き通るように響いていた」という歌い出しが特徴である。また、歌詞で多用される「君」という語句は、「孤独」をテーマにしていた「透明声彩」とは対照的に、多数の人の協力があってYuNiの歌が作られていることを示すメッセージとなっていた。

 一方で「光風声月」はどうだろうか。「光風声月」の歌い出しはこうである。

描きながら進む
芒洋とした道
無限の可能性 越えて
あなたに出会った

――『eternal journey』歌詞カードより引用

 「芒洋」とは、「広々としている様」を表す言葉である。決してマイナスなイメージの言葉ではないが、「Write My Voice」のようなはっきりとしたイメージは持たない歌い出しであると言えるだろう。個人的には「芒洋」という言葉の響きから、霧で霞んだ開けた高原の光景が脳内に思い出された。

 その後も「錆び付いたゼンマイのネジ」や、「螺旋状の渦の中で」などと、暗めのイメージの単語が並べられている。このような迷走したイメージは「Write My Voice」では使われなかった、YUC'eならではの表現である。


 YuNiは「光風声月」について、リスアニ!の記事でこう答えている。

――そしてそこからYUC’eさんによる新曲「光風声月」へと続くわけですね。

YuNi 今回はYUC’e氏に「透明声彩」の続編を描いてほしいってお願いして。曲のイントロも「透明声彩」が出てくるような構成になっています。歌詞も「透明声彩」のサビの部分が最後に出てくるんですよね。そこもしびれるというか、あえて同じ歌詞が出てくるのもめちゃくちゃエモいと思いますし。「透明声彩」はYuNiの代表曲として今でもいちばん好きだって言ってくださる人が多いので、そんな方々にメジャーになったタイミングで次のステップに行くYuNiも見てもらいたいと思って、続編を作ってほしかったんです。

――「透明声彩」から始まったYuNiさんのキャリアの最新進化形が「光風声月」にあると。

YuNi YUC’e氏とは「透明声彩」からずっと活動を共にしていて、この3年の間ずっと一緒にやってくれた作家さんなんですね。そんな、プライベートでも仲良くしていて、お互いの状況をよくわかっているYUC’e氏だから、YuNiのことを全部知ったうえでの歌詞にしてくださったんですよ。2番には”複雑なしがらみを断って ここに立ってたんだ”って歌詞があるんですけど、レコーディングでYUC’e氏から、「YuNi氏の大変な時期を知っているから、それも踏まえて歌詞にしたんだよ」って言われて、私それで本当に涙が出てきちゃって……。実際に歌うときもそういった気持ちをここの歌詞に詰めてほしい、って言われて。そこを歌うときだけバックのサウンドがなくて声が前に出るような構成なんですけど、そこで今まであった出来事を思い出して、でもそれがあって今ここにいるんだっていうのを出してくれって言われた瞬間、それまでに録ったテイクと全然違うテイクが出せて。そのときは自分でも泣けましたね。

――YuNiさんとYUC’eさんの3年の集大成となるというような1曲になったわけですね。

YuNi これは本当に大きいと思います。私の事をわかってくださっているからこそ書いてくださった歌詞だと思いますし、知らないと出てこない歌詞じゃないですか。「透明声彩」のときはYUC’e氏も初めてのレコーディングで、そこから3年経ってお互い経験を積んで、あのときとは違うレコーディングができたというのも、成長を感じられたというか……エモかったですね。

――リスアニ!記事より引用

 このYuNiの返答から分かることは、YUC'eがこれまでのYuNiの人生を全部見てきたからこそ書ける歌であったことである。特にYuNiチームが思うように動かず、苦労した時期を知っているYUC'eにとって、「透明声彩」の続編を描くにあったて、その苦難の歴史を紡ぐことを避けては通れなかったのだろう。だからこそ、「複雑なしがらみを断って/ここに立ってたんだ」という歌詞はその苦難の時代を打開したYuNiを象徴している。「もう独りきりじゃないよ/行こう」や「星の数の存在でも/あなたのために歌おう」という歌詞は、YuNiを支えたチーム、YUC'eをはじめとしたYuNiの周囲の人間のみならず、私たちゆにチルへの感謝を伝えるものであるのだ。

 「光風声月」は、以下の歌詞で締め括られる。

果てない膨大な未来
こんなにも自由な世界
小さな光から繋がるから

――『eternal journey』歌詞カードより引用

 これは紛れもなく、「透明声彩」のサビで使われる「果てない厖大な未来/小さな光に願い 歌を歌うんだ/透明な声は きっと からっぽじゃない」のオマージュである。「透明声彩」を書いたYUC'eであるからこそ書ける、最高の「透明声彩」に対するアンサーであるが、よく見ると「透明声彩」では「厖大」の字が使われているのに対し「光風声月」では「膨大」の字が使われているのだ。「厖大」と「膨大」では、特に意味の違いはないと言われているが、強いて言えば「膨大」の「膨」の字には「ふくらむ」という意味も含まれているため、より無限な世界観を描いていると考えられるだろう。YuNiの『eternal journey』は、これからもまだまだ続くのだ。


終わりに

 YuNiメジャーデビューアルバム『eternal journey』は、YuNiにとって今までの歌手人生の総集編であり、またこれからの道標となるような、正しく無限に続く旅を一つの物語とした一枚であった。一つのアルバム全体を通して聴くよりも、様々なアルバムの中から好きな曲を選り好みして視聴する人が増えたサブスク全盛の現代において、これほどアルバム全体のストーリーを考え、一つひとつ丁寧に作られたアルバムは珍しいだろう。YuNiはこのアルバムを通して、また7月末に開催されるライブ「UNILOCK」を踏まえて、Vsingerとしての新たな一歩を踏み出していくことであろう。

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