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YuNi史上最大の攻撃力を持つ新曲「キライ」レビュー

 どうも、ヤンです。

 先日、我らが推しのYuNiがこのような告知を行いました。

 突然の配信告知、「重大発表と大切なお話」という重苦しい語り、深夜帯にも関わらずアーカイブは残らないという緊急感、そしてサムネイルに映るYuNiの不穏な気配から、ゆにチル(YuNiのファンネーム)一同は非常に驚きました。

 そして、極め付けはその深夜に呟かれたこのツイート。

 普段の明るいYuNiなら絶対に呟かないであろうこのツイートによって、ゆにチルの不安は増大いたしました。それでも、YuNiからの久々の大型告知に対し、ゆにチルの楽しみも次第に増えていきました。


配信の告知内容

 そして、ゆにチルがワクワクドキドキしながら見守ったその配信では、以下のことが告知されました。

・2021年4月16日よりYuNiのメジャーデビュー第一弾「キライ」配信開始
  作詞ゆよゆっぺ/作曲DJ'TEKINA//SOMESHING
  楽曲配信リンク

・2021年6月16日にメジャーデビューアルバム『eternal journey』発売
  アルバム予約リンク
・2021年夏(目安としては7月下旬)に池袋harevutaiにてライブ開催予定
・5月〜7月の3ヶ月間、月・水・土の毎週3回一発撮り動画UP
・それに加えて月1回通常歌動画UP

 YuNiの口より告げられた情報の数々は、YuNiがTOY'S FACTORYよりメジャーデビューし、本格的にプロの歌手として活動を開始することを示すものでした。YuNiは放送の最後に、ほんの少しだけ涙ぐみながらも、覚悟を持って今後は活動を続けていくと語っていました。ついてきてほしいと。


先行配信楽曲「キライ」レビュー

 さて、本稿の本題である、アルバムに先行してデジタルリリースされた新曲「キライ」の考察を行っていきたいと思います。

 この曲は、YuNiが今まで歌ってきたエレクトロポップとはまた一味違う、激しいアップテンポな曲となっています。あえて感情を殺して歌っている1番、サビのはじめと終わりでサウンドを消してボーカルのみにする手法、間奏で流れるエレクトロニックな重低音、ラップのような響きを持つ2番Bメロとそれを機に復活するYuNiらしい感情を顕にした歌い方、そしてラスサビの転調。「最近の人ってこういうのが好きなんでしょ」というのを集めたような、先行リリースに相応しいインパクトを持つ作品だと思います。

 しかし、作品のサウンド面が素晴らしいのは言わずもながら、「キライ」で特に言及するべきはその歌詞にあると思います。"キライ"という、強い攻撃力を持つ単語を繰り返し使う今回の歌詞は、「透明声彩」や「花は幻」で見せてきたような今までの"儚い"路線とは一線を画するからです。


YuNiはなぜ"キライ"を歌にするのか?

 以前にYuNiは、Real Soundのインタビューにて、「YuNiのテーマは"儚さ"」であると自ら弁明しています。

ーーもともと、YuNiさんからYUC’eさんにどんな曲のテーマを投げたんでしょう?
YuNi:「透明声彩」は本当に初のオリジナル曲で、最初は「どんなものにすればいいか」自体が、もう全然分からなくて(笑)。それで、まずはYuNiの「好きなもの」「嫌いなもの」も含めて色んなものをリストアップして、「そこに共通するものって何だろう?」って考えることにしたんです。「どういうゲームに感動するか」とか、「どういう映画に惹かれるか」とか、「一番涙する瞬間はどんなものか」とか、そういうことを全部出していったんですよ。

ーーそれは面白いですね。自分自身を改めて見つめ直してみた、と。
YuNi:そうすると、自分が一番心を揺さぶられるのは「ひとり/孤独であること」とか、「命の大切さ」のようなことだと分かってきて。そこから、YuNiがバーチャルな存在だということも含めて、「儚さ」というテーマが出てきました。

 このように、YuNiは初のオリジナル曲「透明声彩」の頃より、"儚さ"を一つのテーマとしていました。この"儚さ"という方向性で作られた歌詞が「透明声彩」と「花は幻」です。

 「透明声彩」はこのインタビューで語られているとおり、「ひとり/孤独であること」と「命の大切さ」をテーマに綴られた歌詞であり、その辺りの考察はみつしまあかりさんのnoteに詳しく書かれています。

 また、「花は幻」は同じく人の一生の儚さを歌った曲です。前回、私が歌詞考察させていただきました。

 しかし、新曲の「キライ」からは"儚さ"のようなものは感じられず、むしろYuNiの内面にあるであろうトゲのようなものがいくつも飛び出ている歌詞になっています。先程サウンド面で「強いインパクトを持つ」と申し上げましたが、歌詞のインパクトはそれとは違う、逆方向のインパクトを感じている方も多いのではと思われます。この歌詞を持つ歌を先行リリースするという采配はかなり強気とまで感じますね。


 では、YuNiにとって"キライ"とは何なのか?実は先程のReal Soundの記事の引用部分にその答えが見えてきます。

ーーもともと、YuNiさんからYUC’eさんにどんな曲のテーマを投げたんでしょう?
YuNi:「透明声彩」は本当に初のオリジナル曲で、最初は「どんなものにすればいいか」自体が、もう全然分からなくて(笑)。それで、まずはYuNiの「好きなもの」「嫌いなもの」も含めて色んなものをリストアップして、「そこに共通するものって何だろう?」って考えることにしたんです。(注:太字引用者)

 このように、YuNiは「透明声彩」を作るにあたって「好きなもの」「嫌いなもの」のリストアップを行なっています。作詞作曲がYUC'eとは180°違う方々である以上、一概には判断できませんが、この「YuNiが嫌いなもの」への回答が「キライ」という言葉、「キライ」という曲に込められているのではないでしょうか。


そもそも"スキ"と"キライ"は相容れない存在である

 そもそも、YuNiがリストアップしていた「好きなもの」「嫌いなもの」は、心理学の分野では相容れないものであるようです。

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↑引用先よりお借りしました

 1980年にアメリカの心理学者ロバート・プルチックが提唱した、「プルチックの感情の輪」と呼ばれるものがあります。これによれば、人間は主に「喜び」「信頼」「恐れ」「驚き」「悲しみ」「嫌悪」「怒り」「期待《予期》」の8つの基本感情を持っており、図のように輪の中に当てはめられます。そして、輪の中で対角上に位置する基本感情同士は対の関係になっており、同時に発現することはないといいます。

 この8つの感情の中で"キライ"に最も該当しそうな感情は「嫌悪」でしょう。この感情の対になる存在として「信頼」がありますが、この「信頼」という感情、また「信頼」と「喜び」の混合感情である「愛」という感情はいわば"スキ"にあたるようなものだと考えられます。そして、先ほども申し上げた通り、「嫌悪」と「信頼」「愛」は同時に発現しにくいと考えられるのです。

それは
何度でも何度でも繰り返し轟いて
心を塗りつぶしてる
それは
「大好き」や「愛してる」なんて
コトバじゃなくって
強く飲み込んだ痛み
「キミガキライ」

 これは「キライ」のサビの歌詞ですが、プルチックの感情の輪の理論を適用すると、非常に面白い解釈ができると思います。この曲の歌い手は、「それ」に対して「大好き」や「愛してる」という感情を当てはめようとしたけれども、そのような感情ではうまく表現できず、逆に「キミガキライ」という、真逆の感情が露出しようとしています。しかし、このような露骨にネガティブな「コトバ」を世間一般に曝け出すのは危ういと判断したのか、その感情を「痛み」として強く飲み込んでいると伺えます。この歌詞は、「大好き」や「愛してる」という感情が当てはまらないものに対して、"キライ"という感情が浮き出ることは不自然な話ではないと訴えている気がします。


YuNiが本当に"キライ"なものとは何か?

 では、YuNiが「キライ」という歌を通して、自分が"キライ"だと語りたかったものは何なのでしょうか?

「キライ、キライ」
覗き込んだ
気付きたくない深淵のCode
「辛い、辛い」
虚空に舞った
聞こえることない言葉
「キライ、キライ」
知らなかった
その傷はもう想像以上だ
「痛い、痛い」
立ち止まった
知らない場所で

ありふれた日々の中に
芽生えて、根を張る
窺い知ることなどない
意識の外側
消えない消せない
癒えることはない
ずっと深くに焼き付いた

 1番の歌詞から順番に見てみると、この曲の中で"キライ"なものは歌い手の心を日常の中から普遍的に痛み付け、苦しめていることが伺えます。しかしながら、その"キライ"なものは何なのかを歌詞から紐解くことは難しいです。

それは
何度でも何度でも繰り返し轟いて
心を塗りつぶしてる
それは
「大好き」や「愛してる」なんて
コトバじゃなくって
強く飲み込んだ痛み
「キミガキライ」

 サビになってようやく、"キライ"なものが「それ」や「キミ」という代名詞によって言い表されます。しかしながら、ただの代名詞でしかなく、具体的なモノの名前ではありません。これは2番以降の歌詞でもずっと受け継がれており、この曲全体で"キライ"なモノが何なのかが明かされることはありません。

 私はここで解釈に行き詰まり、Twitterで曲の感想を募集したりYuNiのインタビューを漁ったりしました。(感想を教えてくださったゆにチルのみんなに感謝!)そして、ふとYuNi公式HPでのニュースを見返すと、「キライ」という曲に関して非常に興味深いことが書いてありました。

いつも元気で明るいYuNiが次なるステップに進む「旅」の中で、負の感情と向き合うことを表現したエレクトロポップな1曲となっています。クリエイター陣と共に前進するYuNiの新たな「旅」の幕開けとなる作品です。
音楽と向き合い、歌を武器に徐々に活動の世界を広げているYuNi。彼女の歌に対する意気込みを本作でぜひ味わってください。

 この「キライ」という曲は、YuNiの「旅」=「eternal journey」の中で「負の感情」="キライ"と向き合った曲であると書いてあります。そして、YuNiの「eternal journey」の大部分を構成する要素は、やはり彼女の最大の武器である「歌」であり、「音楽」なのです。それならば、YuNiが"キライ"なものも、何かしら「音楽」に関係するものではないでしょうか?


 ここから先は、私がこの曲を考察する上で導いた、かなり尖った"キライ"という像の解説を行います。人によっては不快に感じられるかもしれません。予めご了承くださいませ。


 YuNiは先の生放送の時に、途中から若干涙ぐみながら話を進めていました。私はその涙に関して、YuNiの話の流れから、クオリティの高いアルバムの情報をようやく出せたことに対する安心感と、ライバルに対する遅れをとっていることに対する焦燥感を感じました。特に後者に関しては、YuNiの口から再生数などの数字を気にするようなセリフもありました。このようなセリフを吐くYuNiに対して、私は「らしくない」と思いつつも、メジャーアーティストとして、プロの歌手としてこの部分は絶対に譲れないという意志をも感じました。

 YuNiがメジャーデビューの準備をしている間に、VTuberの音楽業界は様変わりしました。テレビアニメ「宇崎ちゃんは遊びたい!」のEDとして採用された「ココロノック」のMVは公開8ヶ月後の現在25万回再生と、当初の予想より伸びている数字とは決して言えません。そして、Kizuna AI × 花譜の「ラブしい」が7ヶ月で148万回、Rain Dropsの「オントロジー」が5ヶ月で221万回、常闇トワの「Pallet」が1ヶ月で130万回、富士葵の「シンビジウム」が3週間で52万回、Kotoneの「Autonomy」が2週間で56万回などと、ライバルに大きく差をつけられている状況であると言えます。YuNiが毎週のように歌動画の頃に比べて勢いが衰え、求心力が落ちていることは火を見るより明らかです。

 このような状況下で、YuNiが真っ先に"キライ"だと思っている対象は誰か。真っ先に挙げられるのは、YuNiの歌を聴かなくなり、離れていったリスナー、あるいはもともとYuNiに興味のないVTuberファンでしょう。YuNiは彼ら新規リスナーを受け入れるため、彼らに対して「大好き」や「愛してる」の感情を向けたいはずですが、本心では彼らを"キライ"と思っているのではないでしょうか。しかし、そのような感情をいざ表に出してしまうと新規リスナーは近づくどころか離れていくのは間違いないので、YuNiはその感情を強く飲み込んで殺すしかないのでしょう。

 また、ライバルがどんどん成果を上げていく中でなかなか結果が得られないYuNi自身に対する"キライ"の感情を表している可能性も大いにあります。つまりは「キミガキライ」の「キミ」とは、「YuNi」であるとする説です。YuNiは去年8月のメジャーデビュー発表以降、大きく活動頻度を落としていますが、恐らく自分が求める歌のクオリティになかなか辿り着けなくて悶々とした日々が続いていたのではないでしょうか。そして、そのような自分に対して"キライ"と思ってもおかしくはないでしょう。

 その上で考えると、この「キライ」という曲は自分の歌を聴いてくれない、一度離れてしまった層やまだ見ぬ新規層へ激しく訴える曲であり、また自身を"キライ"になったこの苦しい期間を総括する曲でもあるのではないでしょうか。このように考えると、歌詞の面でも先行リリースにこの曲を選んだ理由が窺えるのではないでしょうか。


後半以降噴出するYuNiの感情は何か?

 さて、再三申し上げている通り、この曲では前半は感情を殺して歌い、後半では感情を顕にする歌い方で歌唱されています。その理由は何でしょうか?2番以降の歌詞を見ていきましょう。

「キライ、キライ」
綻んだ結びめから目を逸らして
「長い、長い」
果てのない道のりに身を委ねた
「キライ、キライ」
期待していた
溶けて無くなってしまえばいいな
「怖い、怖い」
色彩が奪われるようだ

 2Aでは、1Aと同じく「キライ」という感情に対する気持ちをぶつけているように感じます。ちなみに、「道のり」という単語からはこの曲やアルバム全体を通してのテーマである「旅」=「eternal journey」、「色彩」という単語からはYuNi初のオリジナル曲である「透明声彩」が連想されるような気がします。

言わない聞かない触りたくはない
絡み合うUnknown感情
口を閉ざし抗う
To protect yourself…

 2Aの後には、1Bとは異なるメロディのフレーズが来ます。このフレーズはラップのようにも感じられ、またYuNiの感情が強く復活しているようにも感じられる瞬間です。ここで出てくるのは「Unknown」=「まだ見ぬ」感情です。この「Unknown」という言葉は、先ほど出てきたまだ見ぬ新規リスナーについて語った言葉でもあるかもしれませんし、"スキ"や"キライ"といった感情とも違う"第三の感情"のことを言い表しているのかもしれません。また、「口を閉ざし」という言葉からは1サビで出てきた「強く飲み込んだ」というフレーズと同じ匂いがしますが、「抗う」と続けることで1サビとはまた違ったただならぬ雰囲気があります。

 そして「To protect yourself」とありますが、この言葉は「yourself」=「キミ自身」という言葉をどう取るかが重要になります。「キミ」が新規リスナーとするならば、この言葉は新規リスナーを受け入れるために"キライ"という感情を心の内に留めておくことヲ意味しますし、「キミ」が「YuNi」だとするならば、自分の心象を第一に優先し護ることを意味しますね。

それは
何度でも何度でも繰り返し囁いて
正しさを顕にする
それは
「大好き」や「愛してる」なんて
キモチじゃなくって
いつまでも、いつまでも
響いてる

 2サビでは1サビと似たような内容が続きますが、大きく注目すべきは「正しさを顕にする」の部分でしょうか。これもまた「強く飲み込んだ」と対になるような印象があり、やはり1番までとは心象が何か変わったように見受けられます。

向き合って気づいたありのままの景色
肯定も否定もない世界

 そしてCメロの分析です。このフレーズでは、YuNiお得意のエッジボイスを効果的に使い、感情を最も顕にして歌っている部分です。そしてそれがYuNiにとっての「ありのままの」姿かたちであり、誰も肯定ないしは否定することができない、私にはそのように聞こえました。


それは
何度でも何度でも繰り返し轟いて
心を塗りつぶしてる
それは
「大好き」や「愛してる」なんて
コトバじゃなくって
強く飲み込んだ痛み
「キミガキライ」

 ラスサビは1サビと全く同じ歌詞が続いています。しかしながら、1サビの時と違ってキーが一個上に転調しており、よりガツンとしたインパクトを感じられますね。よって1番とは全く異なる感情を持っていることが考えられるほか、"キライ"の意味ですら変化しているのでは、とまで思われます。


まとめ - アルバムへの期待を込めて

 以上が私ヤンによる「キライ」のレビューとなります。

 歌詞の解釈は1つではありません。今回私はかなり踏み込んだ歌詞の解釈をしたのではと自覚しているのですが、これが正解であるとは少しも思っていません。ぜひ皆さんがこの「キライ」という曲に対して率直に思った感覚を大事にして、この曲と向き合っていただきたいです。

 YuNiにとっての「eternal journey」は、まだ始まったばかりです。なんならアルバムが発売されていない以上、出発してすらいない可能性もあります。しかしながら、YuNi自身が発売予定時期を遅らせてでもクオリティに拘った今回のアルバムは、きっとYuNiの旅路をより豊かなものにさせてくれるものに間違いありません。アルバム発売のその瞬間を心より期待してお待ちしております。

 ここまで閲覧していただき、どうもありがとうございました。

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