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バカンスのススメ。

朝起きるとカーテンの向こうに死神が待っていた。

こちらが起きるのを待っているようだ。
「もしもし?」
声をかけると、
「早朝にお訪ねして申し訳ありません。わたくし死神と申します。」
そう挨拶をしてきた。丁寧な挨拶なので悪い人(神)ではないのだろう。
「わたくし差し出がましくも神を名乗らせていただいておりまして…」
自信なさそうに死神は、自己紹介をはじめた。
「死神といいますのは、他の古今東西の神が敬われますのに対しまして、疎まれる立場にございます。わたくしはただ生まれながらにして死神というだけですのに…」
なんだか朝から人生相談ならぬ神生相談が始まってしまった。
「あなたは死神という生き方といいますか、職業が嫌なのですか?」
「わたくしは死神ですが、人の死を招くなんていうことをしたくはないのです。」
カーテンの向こうからすすり泣くような声が聞こえてきた。
「しかし、朝になりますと仕事盛りだといわんばかりに駆り出されます。好き好んで死神に生まれたわけではないのに、なぜ人様に死を招かねばならないのか?仕事が苦痛なのです。」
本当に辛そうな声で話すのを聞いていると、どうやら死の勧誘どころではないような気がした。
「少し仕事を休んでバカンスにでも出かけてみたらいかがです?」
死神のすすり泣く声が一瞬止んだ。
「バカンスですか?」
「そうです。バカンスです。人間にも猫にもウサギにもバカンスが必要なように死神にもバカンスが必要なのではないですか?そうです、南の島なんていかがですか?白い浜辺でピニャコラーダを飲むのもいいですし、イルカと泳ぐのも気持ちよさそうですよ。ちょっとお待ちください。今格安で行ける航空券を探していますから。航空会社の指定などありますか?どこかの会社のマイルを貯めているとか?」
「いえ、特にはありません。」
「モルディブなんていかがですか?モルディブはサンスクリット語で、島々の花輪という意味だとか。なんだか死神さんの気分もパッとしそうじゃないですか?」
「しかし、わたくしのような死神に青い空、青い海、爽快なイメージばっちりの南の島なんて似合わないような気が致しますが…」
死神はもごもごと話す。
「何をおっしゃるんですか。似合う、似合わないなんて南の島にも死神にも関係ありませんよ。あなたはバカンスに行くのです。」
死神はおどおどしながらも、小さくうなづいた。
「航空券の手配はしました。これからホテルの手配もします。ホテルに何か条件はありますか?」
「わたくしは非喫煙者ですので、禁煙ルームですとありがたいです。」
「わかりました。手配します。では、死神さんは今すぐ荷物の準備をして空港に向かって下さい。手荷物は最小限にするのがバカンスを楽しむコツですよ。」
カーテンの向こうでうずくまっていた死神は立ち上がって言った。
「こんな通りすがりの死神をご親切に助けて下さって、本当にありがとうございます。」
「いえ、お互い様ですよ。どうぞ良い休暇を。」

そうして死神は荷物をまとめて、モルディブへバカンスへと向かった。南の島で存分にリフレッシュするといい。


死神を見送ったわたしは、天井からぶら下げていたロープをしまい、本当に助かったと安堵の息を漏らしたのだった。

死神バカンス

ちょっとした一言:

バカンスはデトックスです。

Y△MiY△Mi

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