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夕映に染む

 また、この季節がやってきた。


 あの日と同じ場所。ポケットにしまった文庫本。空を見ると鳥が一羽、宙を舞うのが見える。

 ねえ、夏葉、あなたが死んでもう三年が経ちました。


 制汗剤の匂い、涼しい風の匂い、夏のお日さまの匂い、甘いパルプの匂い、眩しい夢の中は色々な匂いで満ちている。あなたのいないこの世界と同じように、懐かしい匂いで満ちている。

 気楽なあなたは記憶の彼方、上澄を掬えば救いとなる。


 ねえ、夏葉、私だけのこの唯一無二の感情を歌にする勇気をくれたのは、あなたではありませんでした。

 それが悲しいわけじゃない、苦しいわけじゃない、こうしてあなたとの思い出が上書きされるたびに思うのです。

 生きていくしかない、生きるしかないって。


 この本を読み終えた時、私はちゃんとあなたに伝えることができるだろうか。


 さよなら、って。



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