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山崎令恩なりのSCP-5000 どうして の考察

■はじめに


エントリー作品に謎が謎を呼ぶ難解な作品がひしめき合ったこのコンテストのテーマは――



「Mysteryなぞ」



中にはオブジェクトクラスと特別収容プロトコルと説明が全部データ削除済になっている記事(SCP-5790)まであったほどで、一度読んだだけでは、最初に示したそのメタタイトルと一字一句同じ感想しか浮かばない。


2位にほぼダブルスコアを付けてそんな魔境を優勝で制した「この謎の塊を何とかして解こう」というのが本項目である。


というわけで、事前知識は必要ない…………と思われるが、本項目には非常に多くのクロスリンク……………言い換えるならSCPオブジェクトが大量に登場する
SCP-5000の根幹にかかわるのは著名な本家3桁ナンバーの3つだけ*1なので必要に応じて解説を挟んでいく。


申し訳ないのだが、現時点では完全に解けない。というか意図しない謎の残っている可能性も非常に高いので、「推理」が働く名探偵がいらっしゃったら是非、追記・修正してほしい。


前置きが長くなってしまったが、そろそろ報告書本体に移ろう。






▷ 目次



■特別収容プロトコル・説明

[部分編集]

要約すると以下の通り。

  • SCP-5000は起動してない状態で標準的なロッカーにしまってあるよ

  • SCP-5000に入ってた全ての情報はサーバーに保存されてて、要請があれば閲覧できるよ


……まさかの模範的Safe。ちなみにSCP-X000がKeterでもThaumielでもないのもこれが初。
脅かしておいて申し訳ないが、SCP-5000そのものは、キリ番オブジェクトとは思えないほど異常性が小さい。当記事は「おまけが本編」というやつなのだ。謎が無いとは言ってないが……。


そして次に説明。


SCP-5000はパワードスーツ。服の形をした、装着者を強化してくれる機械である。
これの内部回路図からすると、どうやら財団が設計した「絶対的除外ハーネス」で、後述の説明からして宇宙服みたいに装着者を保護し、有益な効果を及ぼす異常機能が大量に搭載されていたようなのだが、今は壊れていてファイルのデータを読み書きするくらいしかできない。
そりゃSafeだ。


また、SCP-5000には高所から落下死した財団職員ピエトロ・ウィルソンと遺伝的に一致する死体が入っていた。


まぁスーツなのだから着る人がいてもおかしくないが、除外サイト-06*2に勤めて今も元気に生きているピエトロさんは、財団の本人確認も取れているし、SCP-5000も入っていたデータについても何も知らない。


……何やらキナ臭くなってきた。財団の設計したはずのスーツの説明が推測混じりなのは収容経緯が関わってくる。


SCP-5000は2020年4月12日に現れ、財団に収容された。
しかし、財団はコイツを「確保」はしていない。どういうことかというと、SCP-5000は突如、他のオブジェクトの収容室に閃光と共に現れたのだ。


なんでや、という疑問はひとまず置いておくとして、その「他のオブジェクト」がまたとんでもないヤツだった。


SCP-579 ([データ削除済])


これは「財団の収容するオブジェクトの中でも特に訳が分からない」有名なオブジェクトの一つである。

そのナンバーを聞いただけでも、『異常放送、2485MHz』を思い出す読者もいるのではないだろうか。


そろそろ、本記事を読み解く指針を示そう。


……リセットスイッチは再び押されたのだ。


SCP-5000もといピエトロさんは、未来かそれに類する世界で何らかの異常な現象に遭遇し、苦難の果てにSCP-579を利用して現在の財団世界にリセット、あるいは変貌させたのである。
覚えのない財団製パワードスーツと生きているはずのピエトロさんの死体は、その副産物。


では、いったい世界に何があったのか、なぜピエトロさんはSCP-5000やSCP-579を使用して現在へとやってきたのか、そしてなによりこの記事にどれだけ謎が積み重なっているかを確かめていこう。


そのためには内容を余さず眺めねばならない。
要約しても長く、どこにどういう手がかりが潜んでいるか分からないせいで下手に省略できないので、7つに分けさせていただく。





■アーカイブ(第1部)

[部分編集]

◇日誌01

私の名前はピエトロ・ウィルソン。何が起きているのか分からない。生き残ったのは私だけかもしれない。



着用した人の思考をそのままデータにできる夢の技術はともかく、こちらと同様に除外サイト-06に勤めていたピエトロさんは何らかの敵対的な存在に攻撃されて、彼以外は全滅してしまったらしい。


◇日誌02

動転しているが、落ち着いた頃に彼は付近のセーフハウスで連絡を取るために移動していることを前置きして事件の詳細を語る。


全ては6時間、もしかしたら7時間ほど前に始まった。機動部隊ゼータ-19(“ロンリー・オンリー”)だと称する一団が - インサージェンシーの潜入スパイだろうか? - 適切な身分証明その他諸々を携えてサイトに入場し、全員を食堂に集めた。そして撃ち始めた。



財団の機動部隊が、普通の同僚を虐殺していた。
それもただ単純に、そして念入りに職員を皆殺しにするためだけに。
★謎01: どうして除外サイト-06の職員は機動部隊に虐殺されたのか

→☆答01へジャンプ


また、このスーツには「知覚フィルター」というステルス機能が備わっていたらしい。これを着て、フィルターが作用している限り、彼は他人から認識されることがない。正確には、

私が周りから見えなくなる技術ではなく、私が見えるという事実を周りが認識できなくなる技術

光学的作用ではなく、認識改変による迷彩機能だろうか。

まぁ要は同じだ。

ともかく石ころ帽子状態な彼は凶弾から逃れることができた。


◇日誌03

彼は砂漠を何時間も歩き、ようやくセーフハウスに着いた。まあ除外サイトだし地理的にも隔絶されているんだろう……。
SCP-5000は水を飲まなくても身体機能を維持してくれる優れものと明らかになったが、それはそれとして精神的に疲れたので水は飲んだ。
少し休んでからシステムにアクセスしてみるという。
道中遠くで何回か爆発音を聞いたので、財団が別の機動部隊を派遣してくれたと思った。











そうではなかった。










◇日誌04

どういう事だ。


◇ダウンロードファイル1

彼らはこれを地球上の全ての政府、報道機関、異常組織に送付した。ふざけるな。


以下はO5評議会の総意によって作成されたメッセージです。

現時点で私たちの存在を知らない方々へ: 私たちはSCP財団という組織を代表しています。



★謎02: どうしてこの財団は人類を滅ぼすなどという狂行に及んだのか


→☆答02へジャンプ
→☆答02-2へジャンプ





■アーカイブ(第2部)

[部分編集]

財団の使命は『異常存在を収容し正常な世界を守ること』。
その「正常な世界」には人類も含まれている。


しかし財団は『絶滅させる』と宣言し、財団ならではの方法で行動を開始した。


こんな狂行の理由なんてこの時点で推量できるわけがない。



◇編纂ファイル1

声明の発表直後、全世界に宣戦布告した財団は総攻撃を開始した。どうやら収容されていたアノマリーの解放、あるいは兵器転用を始めたらしい。
財団ネットワークで詳細な情報を調べたピエトロさんは、これを見る誰かのために記録し始めたのだが、

……もうこの時点だけでも正気の沙汰とは思えない内容がリストアップされている。


なお、みんな大好きクソトカゲは——


解放


ここまで絶望的な二文字がかつてあっただろうか。


◇ダウンロードファイル2

周辺がえらいことになっているGOCの避難テントにいるレポーターによるニュース中継映像。描写はここでは省くが、


「もし友人や家族が、えー、いえ、失礼しました、友人や家族がはっきりと、えー、ミントのような香りを発し始めた場合は速やかに隔離」


まで言ったところで映像が切れた。後にピエトロさんの知ることになったことによると、この瞬間全世界のテレビとインターネットが停止したらしい
一体どんな破壊工作をしたのやら……あとミントってなんだミントって。そういえばあのスライムは死体に触れてはいけなかったが、こんな大惨事の中に存在しているってことは……?


◇日誌05

SCP-5000は飢餓や脱水はもちろん、装着者をさまざまな危険から守ってくれる。加えて、物資があるセーフハウスにそのまま引き籠もっていれば数年は生きていけるだろう。
しかしピエトロさんはセーフハウスを出ることにした。
彼は子供時代、シャーロック・ホームズのような探偵物語が好きで、とにかく身の回りの謎を解きたがった。
ときに「好奇心は猫を殺す」という教訓を彼に与えることもあったが、それでも——


しかし、私は何もしないよりは何かする方を選ぶ。
私は世界の終わりの観光者である。目的地: サイト-19。最も近場にあるマトモな財団施設だ、理に叶っているだろう。
私は答えを手に入れる。


◇記録ファイル1

数日後、彼は財団職員と遭遇した。
しかしその行動はさっぱり訳の分からないものだった。


遭遇したのはSCP-3942などでも出てきた機動部隊イプシロン-6(“村のアホ”)、兵士9人+指揮官1人。
指揮官は 「検査を行う」 と言ったのち、兵士一人一人の肩にナイフを突き刺していく。しかも刺されたほうはまるで反応がない
……と、そこで8人目だけ顔をしかめて 「ぐあっ!」 と声を上げた。すると指揮官は「生存者を発見!」と叫ぶや否や、兵士らと共に銃を構えて8人目を蜂の巣にした。……ナイフの刺し傷は一応、検査後に手当したようだ。


★謎03: どうして他8人は「生存者」とみなされず、またナイフ刺しに反応していないのか


→☆答03へジャンプ
→☆答03-2へジャンプ


◇記録ファイル2

古いラジオから聞こえた奇妙な放送のループ。


七。五。私の声が聞こえるか? 君の瞼の間の穴の中に光り輝く穴がある。私は今までヴェルサイユに行ったことが無い。私は愛されたい。九。私は今君の後ろに立っている。五。私は私たち二人で、今君の後ろに立っている。女神が海中の都を食べる。九。床に穴があってその中で答えが待っている。七。見よ、君は孵化している。君は孵化している!


第五主義感があるが、もしそうならアレはただでさえ全く分からないので分からない。
ピエトロさんがラジオを裏返すと、修理のしようがないほど壊れていた。そのことに気づくと、メッセージは止まった。
……彼は自分が正気かわからなくなってきた。


★謎04: どうして壊れているはずのラジオから音声が流れたのか、そもそも本当にラジオの音声だったのか。また内容はどういうことなのか

☆答04へジャンプ


◇日誌06

不意の遭遇に怯えながら森を行軍する中で、今更感のある発見にスーツに写真機能もついていることが判明する。
サイト-19は近場のはずだが、依然として到着しなかった。
というのも、彼は車を使うつもりだったのだが、スーツのステルス機能が隠してくれるのは彼自身だけ——つまり乗り物に乗ると丸見えになることを失念していて悪態を吐いたりもした。
考える時間のできた彼はサイト-19に向かう理由を自問する。


「答えが知りたいから」。


たとえその後死ぬとしても。





■アーカイブ(第3部)

[部分編集]

この部分が、おそらく全体の中で最も重要な情報であると思われる。


◇編纂ファイル2(前半)。


ピエトロさんはほとんどのアノマリーが解放されてボロボロなサイト-19にたやすく侵入した。
これまでと同じように、これまでも同じことをしてきたかのようにどうすれば最大効率で人間を殺せるかを議論している財団職員たちの目を見たピエトロさんはゾッとした。
生気がなく、何か大事なものが欠けているように思え、もはや生きていると……人間とさえ思えなかった。


上級スタッフの資格情報を盗んだ彼は重要なデータにアクセスする。
すなわち、宣戦布告直前に何があったか


2019/12/16:
O5が“PNEUMA”というプロジェクトを上級スタッフの特殊機密に指定する。
どうやら、これはKALEIDOSCOPE*3と同じような大規模記憶処理プロジェクトで、専ら人間の集合的無意識、心理空間、何と呼ぼうと勝手だがそういう方面を重視していたようだ。その心理空間をマッピングするにあたり、何らかの重大な発見があったらしい - 編集済にされているせいで、それが何なのかは分からない。典型的だ。



ピエトロさんは「O5評議会は何かのミームエージェントを送って、全職員を自分たちの意思に従わせたのか?」と推測したが、この情報によって浮かぶ謎を書き下すのなら次のようになるだろうか。


★謎05: PNEUMAプロジェクトは一体何を発見したのか
★謎06: それに対し、O5と倫理委員会はどのような決定を下したのか
★謎07: どうして自殺者や辞職者が多発したのか
★謎08: 配布されたファイルには何が仕掛けてあったのか
★謎09: どうして人間アノマリーだけでなく人間への共感性を示すアノマリーが終了されたのか


→☆答0506070809へジャンプ
→☆答05-206-207-208-209-2へジャンプ


上の二つが解ければほとんど全ての謎も解けるだろうがまだ答えを得るには遠く、これだけでは財団が人類を滅亡させようとしていることの説明がつかない。


しかしこの時点で謎01は解かれた。


★謎01: どうして除外サイト-06の職員は機動部隊に虐殺されたのか
☆答01: 任務の一環だ。


除外サイトがおかしくなっていなかったことを考えると、何らかの大きな改変があった可能性も考えられなくはないが、管理官らの自殺・辞職のせいか、問題のファイルが除外サイト*4ゆえにか届いていなかったのだろう。


◇編纂ファイル2(後半)

財団のばら撒いているアノマリーについての手の情報源はここしかない。
なのにそこかしこに[編集済]。
キレるピエトロさん。


だって、世界の終わりだぞ、物事を編集する意味が何処にある? 誰が気にする?! 何が起きているか教えてくれよ!


とりあえず何があったかを確認すると、


SCP-1440 (どこでもない地からの老人)については妙な記述を見つけた。


SCP-1440は機動部隊ニュー-22(“ロケットメン”)によってあちらこちらの難民キャンプに移送され、その異常な影響力で逃亡した人々のコミュニティを急速に荒廃させている。奇妙な話だが、ファイルに含まれるこれらの出来事の記述を見る限り、SCP-1440に割り当てられた財団職員は影響を全く受けていないように思える。


コイツはシンプルに「近づくと人間に関わる存在全て(自分以外)がことごとく壊滅する超絶不幸おじいさん」でオブジェクトクラスはKeter。財団も何回か収容しようとはしたがサイトが崩壊するわフェイルセーフの核爆弾が誤爆するわでえらい目にあっており、今は諦めて人を近づけないようにしている。
だが、今それが財団職員に何故か影響していない。


★謎10: どうして財団職員は人間に無差別的に作用するはずのSCP-1440の影響を受けていないのか


→☆答10へジャンプ
→☆答10-2へジャンプ


もはや、彼らは本当に人間ではなくなっているとでも言うのか……?


ピエトロさんは 「ここを出る前にもう少し調査して、見つけられる限りの情報を得るつもりだ。」 とのことだし、元記事にはもう一つあるが割愛しよう。


サイト-19に収容されているとあるオブジェクトの存在を、ピエトロさんは未だ知らない。




■アーカイブ(第4部)

[部分編集]

◇日誌07

ピエトロさんは国を横切る道半ばにいた。
体には身に覚えがない傷や包帯での治療跡があり、手にはブリーフケースが握られ、サイト-19でなされた記録からは3ヶ月もの空白………正確には記録されていたファイルが削除されている。
削除できるのはピエトロさんだけだが、ピエトロさんの記憶もすっぽり3ヶ月抜けているという。


SCP-5000は損傷していないらしく、何があったのかもわからない。ブリーフケースの中身も思い出せないが、不思議と理解していることが2点ある。


  1. ブリーフケースに入っているものは丸くない

  2. これをSCP-579のところまで持っていかなければならない


サイト-19、思い出せない、丸くない。
彼はその正体がわからないが、第四の壁の向こうの我々ならわかる。これが重要なオブジェクトの2つ目で、元記事にはご丁寧にリンクが貼られている。


SCP-055 (正体不明)


SCP-579と似て異なる性質の「わけわからん」オブジェクトである。


また、なぜこれをワケワカラン・フレンズSCP-579の所まで持っていかねばならないかという点も推測はできる。
そう……冒頭で紹介したSCP-2998 (異常放送、2485MHz)での用法である。端的にいえば、


「丸い釘を四角い孔にはめ込むことは出来ない。」


というわけで、055と579を合わせることでこの状況をリセットするのが狙いではないかと推測できるのだが……


★謎11: どうしてピエトロさんは055と579を合わせればよいという結論に至ったのか


→☆答11-2へジャンプ


この結論がピエトロさん自身の思索によって到ったものなのか、誰かに吹き込まれたものなのか、それすらもわからない。
空白の3ヶ月間にそれを知りうる何かがあったのだろうが、今や記憶も記録も失われてしまっている。


しかし彼はSCP-579の元に向かう。何もしないよりは何かする方を選ぶのだ。


◇日誌08

SCP-579が収容されているサイト-62Cに向かうピエトロさんは、そのへんで死んでいる一般人に対して大分ドライになっていた。


暫く前、物資を得るために侵入した家で、幼い少年の死体に出くわした。
最初は頭を撃たれたのかと思ったが、彼を埋葬しようと近寄った時、皮膚の下で何かが蠢くのを見た。
私が触れた瞬間、小さな青白い蠕虫が数百匹も溢れ出した。どれも全て少年と同じ顔だった。どれも全て笑っていた。排水溝に素早く逃げ込んでいった。

こんなもん見たら、そりゃ相手する気もなくなるというものだ。


しかし、あれだけ[データ削除済]まみれになっている579を収容するわけだから、当然その場所なんて知りようがないし、明かされるはずもないが、彼はそれが記された文書を持っていた。
例によってどこでどうやって手に入れたのか覚えていない。
これも解けない謎だが、それほど大事なことではない。そうピエトロさんも言っている。




◇編纂ファイル3

ブリーフケースの中身はさっぱりわからない。が、耐え難いほど辛くなったときに開けてみると、気づいたときには遠く離れた場所まで移動しているし、何やら励まされたように心が温まる。
移動時間をスキップできるのは上手いこと反ミーム的性質を利用したものだと思われる。
心情の変化については後述するが、どうもブリーフケースの中身=SCP-055は元気づけるに足りる、何か善いものらしい。それが何なのかは忘れてしまうが、まぁ便利なもんだ。
彼はこれは天の恵み、スキップボタンだと評している。
実際はリセットボタンの片割れのようだが……。



そして森の中で土に埋もれて死んでいたエージェントのPCから、またしても財団の新たな情報が見つかった。


データには他に2つのオブジェクトについても記載があるが割愛する。しかしうち一つには 「ガンジル包囲戦の支援に派遣された」 とあり、財団はGOCの要塞攻略に苦戦しているらしい。
また、アノマリーの複製すら可能になっているとほのめかされている。




■アーカイブ(第5部)

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◇日誌09

偶然GOCの兵団に遭遇したピエトロさんは、認識はされないままで一緒に焚き火を囲んだ。もう「観光客」というより「幽霊」に近い精神状態だ。


GOC兵士らは、もはや目的地などなく彷徨っているように見える。助けを求めようかとも考えたが、リスクが高いと判断したようだった。
その理由は、スーツによって引き出したGOCのデータベースを見れば明らかだった。


◇ダウンロードファイル3

ガンジル内部で記録されたインタビュー……いや、尋問記録。
声明文に 「今後の意思疎通は行われない」 とあったのに、終始冷静に尋問に応じた音声があるのが奇妙だった。
尋問するのはGOCのモリソン指揮官、同席者にロードス博士
尋問されるのはガンジルに忍び込もうとして捕獲された機動部隊オメガ-2(“秘密の守り手”)の隊員、サミュエル・ロス


どうしてお前は会話するのか聞かれると、 「過去の合同任務でモリソン指揮官の顔を見たことがあるから」 と答えた。


これまでに抵抗勢力に捕獲されたその全てで財団職員は一切口を利いていないのに、たったそれだけで?


なぜこんなイカレたことをするのかと尋問が始まったが、サミュエルは笑った。虐殺を嗤う意味ではなく、 「俺から情報を得たとして、それをどうにか役立てるほどの余裕は君たちにはない。遠からずこの街は真っ二つに引き裂かれる。なぜ君らはまだ打つ手があるかのように尋問するんだ?それこそイカレてないか?」 という意味だった。*7


そしてここから、事態が急変する。


モリソン指揮官: もし戯言ばかり話し続けるようなら、いつ強化尋問を始めてもいいんだぞ。望んではいないが、私は実行する。



「痛みを感じない」。ここからの記録は極めて重要である。


サミュエル・ロス: 分かった。 [不明瞭]



サミュエルが放った言葉が何だったかは分からない。ただそれは確実に致命的認識災害だっただろう。
超大規模で連鎖的な鎌鼬でも起こしたのだろうか? そして更に謎が増える。


★謎12: サミュエルは何を言ったのか。認識災害だとすれば、なぜGOC側の対策をすり抜けたのか


☆答12-2へジャンプ


サミュエルが口を利いた真の理由はガンジルを内側から破壊するためだったことは想像に難くない。そうしてガンジルは陥落した。


GOCはもう終わりかもしれない。


◇日誌10

GOCが瓦解したことでピエトロさんの希望はさらに小さくなった。もはや彼は、財団のばら撒いているだろうウイルス系オブジェクトを恐れて一切飲み食いしなくなり、SCP-5000の生命維持機能に頼るようになった。
実際、彼はここまで通ってきたすべての州で死体を見てきたし、その一部は動いていた


ブリーフケースを開けても、スキップの間に進む距離も、心の回復も鈍くなって無感動になってきていた。*8


どうしてSCP-579に向かっているのか、その意味も見失いかけていた。




■アーカイブ(第6部)

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◇日誌11

しぼんでいく彼の心に追い討ちをかける、 「奇妙なものを見かけるようになった」 という記述。
いや事が起こってからずっと奇妙だったがいつも以上に奇妙だったらしい。見かけたそのような存在は2つ。


まず1つ、「瞬き像ブリンカー」。
その特徴は、見つめられている間は無害だが少しでも視線をそらすと滅多切りにすること。腕がカマキリのように刃物になっており、眼窩がない兵士の形をした……アノマリー兵器


アレは増殖しだしたらXK-クラスを起こせるというTaleがあるのだがそれがほぼ現実になってしまっている。
もしそうなのだとしたら、これを開発できた財団職員には間違いなくSCP-173の異常性が影響しない状態になっている。
でもなければ危なくて研究開発ができるはずがない。やはりもう彼らは人間ではないのか……?


また困ったことに、ピエトロさんが瞬き像を見つめている間も、それらの像は停止していた。
……つまり瞬き像は誰かが自分を見ていることは把握しているのだ、SCP-5000のステルス効果をもってしても。
もしヤツらが目の前を手当たり次第斬りはじめたら、いくらなんでも敵わない。絶対に避けねばならない存在の登場だった。


もう1つ、彼が見たものはもっと奇妙だった。説明しづらいため、引用する。

地平線に見えたそいつは、背伸びしている人間のように見えた - いや、この表現では不十分かな。
それの周りの空間が、お粗末なフォトショップ加工のように、身体に沿って引き延ばされているような感じだった。
地面から雲に届くほどの身長で、顎が直角に開いていた。
そして裂け目が、黒い空間の裂け目が、翼のように身体の周囲に存在した。そいつはただそんな風に浮かんだまま前進していた。

これ自体もそりゃまあ奇妙だが、アノマリーとしては分からなくもない。
問題は、これに遭遇した財団職員がそれと戦っていたのだ。


★謎13: 目撃されたこの【背伸びした人間のようなもの】は何なのか


→☆答13へジャンプ
→☆答13-2へジャンプ


◇日誌12

今日は女の子が死ぬのを見た。助けられたはずだった。助けなかった。



……つらい。
彼の精神状態はどんどん悪化していた。


◇編纂ファイル4

そして財団のアノマリーバラ撒き一覧もこれで最後となる。


他にもいくつか記述があるが*9、ここまで執拗にアノマリーをばら撒かれると、新たな謎が浮かぶ。


ガンジルの件でも触れたが、ミサイルでも使えばよかった場面で財団はわざわざSCP-1290を移設している。
そもそも財団なら大量殺戮兵器にできる非異常の先端技術などは大量に持ち合わせているのではないか?
いくら人類の淘汰が目的とはいえ、不必要なまでにオブジェクトを収容違反させる理由はあったのか?


★謎14: ここまで収容違反を起こしてよいのか、起こす必要はあったのか


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→☆答14-2へジャンプ


このファイルの最後の記述はどんどん落ち込んでいくピエトロさんの状態を如実に表している。


こんなのどうせ誰も読まない。




だがこの後、話は少しだけ好転した。
正気の財団職員を発見したのだ。……いや、訂正する。元々狂ってるけど正気な財団職員を発見したのだ。


◇記録ファイル3

ある放棄された宝石店の中の映像記録。
10代の少女が即席の焚き火の前に座っている。
それを見たピエトロさんはこれまで一度も切らなかったSCP-5000の知覚フィルタを切った。
なぜなら、少女の首にかかっていたものは……。


(少女は後ろへ飛び退き、警戒した様子で、錆びたパイプを武器として拾い上げる。)



珍妙奇天烈で財団内で有名な問題児、ブライト博士は真っ先に問題の「ファイル」を見ているはずの管理職だ。


どうして正常で正気いつもと同じなのか?


それは一旦置いておいて、自分以外に正気の財団職員が見つかったのはいいニュースだが、だからと言って事態は何も変わらない。
とりあえず逃げるためにシリアスな両者が情報を交換する。


少女: 随分と素敵な小道具を手に入れたね。 (身振りで首飾りを指す) 交換しない?



ああ、間違いなくブライト博士だわ。


そして、話は事の始まりに移る。ブライト博士曰く、結論から言うと自分も何が起こったのかは把握していないという。


管理職として計画は聞かされていたはずだが思い出せない。
また例の「ファイル」は卵、木々、宗教的なあれこれの全て画像で、おそらくSCP-963のせいで意図した通りの結果にはならなかった。


ミームエージェントか……とピエトロさんは返したが、その体質上および性格上、起きうることは何でも(もちろんミームエージェントも)体験したことがあると豪語するブライト博士が言うには、そのファイルを見たときに感じた感覚はミームエージェントのような「強制」ではなく、むしろ何かからの「解放」だったというのだ。


★謎11(再掲): 配布されたファイルには何が仕掛けてあったのか


ミームエージェントでないなら何なのか……そして「解放」とは?


ピエトロさんはSCP-579に向かっていると伝えると、ブライト博士は 「自殺願望があるなら、もっと簡単な方法が幾らでもあるぞ」 と笑った。
そうやって心配してくれたのだろう。彼も、というか彼でさえ579の正体は知らない。


ブライト博士はこれから多元並行宇宙へのポータルに小便してから首飾りを放り込むつもりだという。
どちらも完全に死出の旅だ。


そうして二人は、お互いの探し物が見つかることを願って永遠に別れた。




■アーカイブ(最終部)

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◇日誌13, 14

SCP-055入りのブリーフケースを携えたピエトロさんは、ついにSCP-579が鎮座するサイト-62Cに到着した。
予想に反し、サイト自体はしばらく前から放棄されているようだった。
とても厳重に収容されていたはずのSCP-579があるサイトなのだが警備員の姿は見えず、保安体制も解除されている。
……もうどうでもいいのだろうか?


そう記録し、 「どういう形であれ、間もなく全てが終わる予感がする。これより入場する。」 とドラマチックに日誌13を締めくくった彼だったが、たった30秒後に日誌14を始めた。


サイト-62Cに近付いた瞬間、誰かが後頭部に銃を押し付けているような感覚に襲われた。
まるで私が屋根の端に立っていて、誰かの手が背中に密着して押す準備を整えているようだった。
俗に言う闘争・逃走反応だろうが、いきなり限界までキツいのをお見舞いされた。



SCP-579のには知性、意志、またはそれに類するものがあり、少なくともサイト-62C一帯を知覚する能力と、ピエトロさんに何らかの破滅的な行動をさせようという方向性をもつのだろう。



◇記録ファイル4

彼は誰もいないサイト-62Cに入った。しかし……。


(サイト-62Cの廊下を撮影した映像。壁には深刻な損傷が及んでおり、あたかも大振りのナイフで傷付けられたように見える。頭上の照明が点滅している。)



警備員よりもタチの悪い、瞬き像が配置されていたのだ。
ついにピエトロさんとSCP-5000に刃が襲い掛かる。


◇日誌15, 16

警備兵として統制されているのか、危惧していた通り、ブリンカーはピエトロさんの存在に気付き、目の前のあらゆるものを斬りつけるように動いていた。


片脚に刃が食い込んだ。死ぬほど痛い、しかし動き続けなければ。


幸いまだSCP-5000も壊れてはいないようだ。ピエトロさんも目で追えないはずのブリンカーもまた579の下へと向かっている。
じっと見つめ続けながら、そして奴らより先に到着しなければならない。



そして……。


やったやった (やった (やった)) やったぞ、やった!やった私はやったぞ。!!


彼はSCP-579の監視室に辿り着いて強化ドアを閉めることができた。
久しぶりに思考転写が微妙だが、ブリンカーが斬りつけているドアも数分ぐらいは持つ。


◇日誌17

監視室に入ったピエトロさんが、SCP-579の特別収容プロトコルを見ると、収容室のサイズは30メートル立方と定められている。
サイトに入る前から感じていた579のもたらす何らかの感覚……それは未だ続き、監視機器などが無かったとしても、


目を細めると*10辛うじて見える。穴がある。真下に通じる穴が床に空いている。


579は監視室の真下にあるようだとわかった。
ともかく、SCP-055を接触させれば目的は果たされる。
ブリーフケースを穴に放り込むべく、彼は穴を覗き込む……


……が、そんな上手い話はなかった。


高さは30メートル。穴の角度と579の位置からして、ブリーフケースを落としただけでは579にかすりもしない。


できることはただ一つ。


空中でブリーフケースを579に自ら投げつける。


ただ、それが彼の人生最後の行動になるはずだ。


不公平だ。
しかし私はやったんだ。こんなのは不公平だ。


ここからは財団職員ピエトロ・ウィルソンの、無念と悲哀に満ちた遺言となる。


今まで生きてきてようやく悟った、私は探偵になれるような人間じゃない。私はただの殺人被害者だ。他人の物語のために死ぬ奴だ。
そして人類全体が私と同じ立場にいる。誰が犯人かも犯行手段も分かっているが… それらは明白だった。
誰もがそれを知っている、初めから手渡された情報だ。何故なのかが分からない。結局、私は何一つ突き止められなかった。



彼はこの殺”人”事件の真意を、突き止めることができなかった。
かつて探偵にあこがれた彼は推理も解決も何もできなかった。


何かを探し出そうとして打ちのめされた。


それは悲しいことに、今も同じだった。



どうしてこんな事が起きている? どうして財団は人々を殺している?
どうしてこんな事が起きている? どうしてO5は皆にファイルを送った?
どうしてこんな事が起きている? どうしてガンジルは陥落した?
どうしてこんな事が起きている? どうして私は世界を旅してこのブリーフケースを運んで来た?
どうしてこんな事が起きている?!



財団が犯人で、アノマリーをばら撒いて人類を殺していることなんて誰でも分かる。


「どうしてWhy」。


その答えを求め続けてきたのに何も分からなかった。
挙句に、自分がここで死なねばならない理由すらわからない。


もう無念などと言う言葉では言い表せないだろう。
彼は探偵になれないまま、被害者として死ぬのだ。


だから、最後にこの謎の束を託すメッセージを残した。


とっくの前に 「こんなのどうせ誰も読まない」 と諦めたのに。
誰かが謎を解いたとしても、彼はそれを聞くことなく死ぬというのに。


もし万が一これを読む者がいるなら、どうか、どうか頼む、探り出してくれ。
これを私に説明してくれ。誰か… 誰でもいい。分からないんだ。私には分からない…


ここで時間切れだった。


奴らが押し入ろうとしている。足から先に落ちる。


そしてピエトロさんと、SCP-5000と、SCP-055は穴に落ちていった。










その刹那、SCP-5000が1枚の画像と1つの日誌をアーカイブデータとして保存する。


その内容が以下である。



最後の画像キャプションは「SCP-579」、日誌ナンバーは18だった。

侵略されていると言ったか? ありふれた終末の1コマかもしれないと。


そうだ。


言うな。君はもっと辛い思いをしているに違いない。それは好きじゃない物を見出した後に誰もが口にする言葉だ。


なんて事だろう。


とても数時間で語り尽くせるような事じゃない。少しだけ静かにしてくれないか? 勿論私は無理だ。ダメだ、まだだ。侵略されているという感覚。


それで構わないんじゃないか?


それを言うな!
あれに言及さえしてはいけない。


私たちは現状で良しとするしかないんだ。


私は考え続けている -- 全て終わらせた方が、私たちが発見したモノと縁を切る方が良いんじゃないか。
彼らはどれだけ長い時間をかけるつもりだろうか? しかし、あれはそういう感じのモノじゃない。私の全てだ。彼らが何と言うか君にも分かるだろう。


これが私だ。
もう終わったんだ。
時間がかかるだろう。


君は潔癖症なんだね?


返答を受け取ったか? 私たちは見るべきじゃなかったんだ。君もだよ。この先誰かが他の物事を話題にするかどうか疑問だ。


気分が悪い。


























なんなのだこれは、一体どうすればいいのだ!


■推理の材料

[部分編集]

ピエトロさんの無念を晴らすため、なんとか手がかりを探して謎を解かねばならない。
無論だが、ここからの推論はあくまでこのページの執筆者の意見であり正しいという確証はないことに注意願いたい。


そのためにはまず、元記事に隠された文章を見つける必要がある。
また、最初で言った「根幹にかかわる他オブジェクト」の3つ目が出てきていないのをお忘れではないだろうか。いや、正確にはもう出てきてはいるのだが。


◇PNEUMAプロジェクトは一体何を発見したのか?

まず全ての元凶であり、最大級に重要なこの謎を起点に解いていくことにする。


コレの極めて重要な手がかりとなる文章が、記事中に隠れていた。
だが、断言するが記事を読んだだけでこれを発見するのは極めて難しい。てか常人には無理だ。


どこかというと、最後の真っ黒な画像。
これには、ステガノグラフィーという技術を用いて文章がエンコードされ隠されている。わかるか!
その内容が以下である。


書類を持つ手が震える。「これは確証されたのか?」



ワンとテジャニというワードからして、これはO5-1と倫理委員会の委員長オドンゴ・テジャニの会話であろう。彼らはタンホニーの提言にも出てきた。
そしてもう1つ、新たにオブジェクトへの言及があった。間接的な表現だが、SCPで「忌々しいトカゲ」なんてアイツしかいない。
これが最後の根幹オブジェクトである。


そのナンバーは、SCP-682 (不死身の爬虫類)
あらゆる生命への憎悪を振りまき続ける不死身のチートアリゲーター。とりわけ人間を嫌っているように見える。
そしてPNEUMAが発見した事実は、我々人類全てに対して682の憎悪が向けられる理由を正当化するものだというのだ。
というより、財団が人類を滅ぼすようになってからの振る舞いは682のそれに通じるものがある。


これをメタ的にも示すものが2つある。
まず当記事が参加していたSCP-5000コンテストは参加作に「優勝できなかった際に希望するナンバー5つ」を明記するというルールになっていた。
そこで当記事が希望したナンバーが以下だった。

5579
5055
5682
5670
5123

これを見れば、少なくとも682が無関係ではないことは伺える。


そして何よりの証拠が、サミュエルへの尋問記録である。
今一度終盤部分を引用する。


サミュエル・ロス: 分かった。 [不明瞭]



そして、以下がSCP-682の報告書に載っているSCP-682へのインタビュー記録である。


██████博士:さあ、なぜ農夫たちを殺したのかい?



偶然では片づけられないほどの相似性があることがお分かり頂けるだろうか。
明らかに、サミュエルはじめあっち側に行ってしまった財団職員は682と同じような価値観になってしまっているのだ。
そして彼らが人類を攻撃する、またもともと682が人類を攻撃してきたその理由は、PNEUMAの研究していた人類の無意識の奥底に発見されたものにある。
またこれはO5-1の言うとおり「治療」が可能なものらしい。
いったい何を見つけたというのだろうか。


◇記事末尾の隠し文章

前述の画像の他にも、SCP-5000の記事には隠し文章が存在する。
こちらはステガノグラフィほど難解ではなく、元記事の最後の部分にある不自然な空白部分をドラッグ・コピーして適当なテキストエディタなどにペーストするか、元記事のソースを見れば普通に読める。
内容は以下の通りであり、何者かと何者かの会話のうち片方の台詞だけを抜き出したものと思われる。


侵略されていると言ったか? ありふれた終末の1コマかもしれないと。



書かれた場所が場所だけにかなり重要な情報であろう。
ピエトロさんが死んだ後の部分に隠されていること、片方の反応が全く書かれていないことからして、SCP-055とSCP-579の会話ではないか、という話もある。
「私たちが発見したモノ」というフレーズから、O5-1や倫理委員会の委員長オドンゴ・テジャニ、PNEUMAのスタッフといった者の可能性も考えられる。
……しかし、非常に、非常に断片的な情報であり、残念ながらここから読みとれることは少ない。


◇ラジオについて

原文では全ての文が一続きになっているが、いくつかのまとまりごとに「(数字*11)。」が挟まるように置かれているという特徴がある。
以下にそれぞれのセンテンスについて考察してみる。


七。五。私の声が聞こえるか? 君の瞼の間の穴の中に光り輝く穴がある。私は今までヴェルサイユに行ったことが無い。私は愛されたい。

「ヴェルサイユ」の語源はラテン語versareであり、これは「回し続ける」「引っ繰り返す」を意味するという。リセットないしループを暗示しているのだろうか?


九。私は今君の後ろに立っている。
五。私は私たち二人で、今君の後ろに立っている。女神が海中の都(the city in the sea)を食べる。

5の後ろに2人の何かがある。これは5「79」を示すという解釈ができる。
あるいは、5が何かの後ろに2人いると捉えて、0「55」という読み方もできる。この場合、9は君(複数のyou)の後ろにあると捉えて、57「9」となるだろうか。


もっとも、五、七、九の数字に意味はなく、SCP-055とSCP-579の2人が彼のことを後ろから見ている、という意味かもしれない。
サイト-62Cに近付いた際、ピエトロさんは後頭部に銃を突きつけられる、または誰かが背中を押そうと待ち構えているような感覚、そして視線を感じていた。


また推理作家として知られるエドガー・アラン・ポーの詩に、『海の中の都市(The City in the Sea*12)』というものがある。本記事のテーマがミステリーである以上、関係性は無視できないだろう。
『海の中の都市』について簡単に解説すると、この詩は死神(死)に支配された海辺の町を描くものである。悍ましいほど平穏で、しかし空虚なその町が、地獄にすら敬意を示されながら下へ下へと沈んでいく……という内容である。死神はまた、「町を睥睨する高い塔とその影」としても表され、「神殿の門が開き、墓が口を開ける」「偶像のもつダイヤモンドの目」「塔の屋根が霞む空に隙間を空ける」「下へと沈んだ」といった気になる記述も登場する。


九。床に穴があってその中で答えが待っている。
七。見よ、君は孵化している。君は孵化している!

実際、床に穴はあり、その先で答えは待っていた。
原文では Look, you're hatching. You're hatching! であるが、ひょっとすると「(答えを見たとき)君は孵化するだろう!」*13ということかもしれない。


さて、これらの内容は明らかに、無差別的に大衆に向けたものではなく、やがて答えへと会いに行くピエトロ個人に向けて発信されたものである。
ラジオはとても機能するような状態ではなかった。
そして本インシデントにおいては、人間一人一人の奥底にある何かに焦点が当てられており、またSCP-579が空間を隔てて影響を及ぼす様なども描写されている。
放送内容にも「君の後ろに立っている」等と、放送者と受信者との距離の近さを示すフレーズがあった。
これはもう、ラジオから聞こえた音声などではないだろう。ラジオを手に取ったことが放送のトリガーだったのかもしれないが。


★謎04: どうして壊れているはずのラジオから音声が流れたのか、そもそも本当にラジオの音声だったのか。また内容はどういうことなのか
☆答04: ラジオというのは錯覚で、ピエトロの頭に直接聞こえていた。内容は一連の出来事の真実と未来を謎かけのように表している。


◇【背伸びした人間のようなもの】について

日誌11の記述を再び引用する。

地平線に見えたそいつは、背伸びしている人間のように見えた - いや、この表現では不十分かな。それの周りの空間が、お粗末なフォトショップ加工のように、身体に沿って引き延ばされているような感じだった。地面から雲に届くほどの身長で、顎が直角に開いていた。そして裂け目(gaps)が、黒い空間の裂け目が、翼のように身体の周囲に存在した。そいつはただそんな風に浮かんだまま前進していた。


これの正体についてであるが、財団が攻撃していたということから、まずは人間ではないかという推測がたつ。
元記事のディスカッションにはSCP-3555ではないかとの声があった。


また前述の『海の中の都市』、この詩の中には、「そびえ立つ塔が霞む空に隙間(a void)を空ける」という描写が登場する。隙間、という言葉は裂け目と言い換えてもよい。
この塔は町を支配する死神を表すものでもあり、その死神へと財団職員が攻撃を加えている……と考えると何か象徴的な構図が見えてきそうである。
ひょっとすると、この背伸びした人間のようなものこそ、人間たちの町の玉座に座る死神ではないだろうか。


★謎13: 目撃されたこの【背伸びした人間のようなもの】は何なのか
☆答13: 人間、SCP-3555のようなアノマリー、死神、もしくは財団の真の敵、元凶


◇蛆虫について

日誌08には、少年の死体とそこから湧き出た蠕虫(Little pale worms)が描かれている。
関係があるかは定かでないが、これもまたエドガー・アラン・ポーの詩に、『征服者 蛆虫(The Conqueror Worm )』というものがある。
あらすじを説明すると、これは形のない巨大な何かに操られる道化=人間が演ずる、狂気や罪、恐怖の芝居についての話である。
傀儡師を捕まえようとしても、閉じた円を回るように永遠に捕まえられない。
傀儡師は禿鷹のような翼を振るって、目に見えない悲しみを撒き散らす。
そんな道化芝居を天使が観劇しているのだが、突如として舞台に這い出てきたものがある。
それは蛆虫で、蛆虫は血にまみれながら道化たちを餌食にする。
そして嵐のように緞帳が下りると、天使たちは青ざめ、これは「人間」という悲劇であると、そして主役は征服者、蛆虫であると叫ぶ。


この詩にもまた、人間についての認識や、円、蛆虫など、本記事の出来事を思い起こさせる描写が含まれているように思われる。解釈に関するヒントとなるだろうか。
さらに言えば、這い出た蛆虫は「孵化」したとも言える。これは前述のラジオ放送を想起させる。


◇現時点で解けそうにない謎

何よりもわからないのはSCP-055とSCP-579関連である。
既に挙げた、


★謎11: どうしてピエトロさんは055と579を合わせればよいという結論に至ったのか


だけでなく、

  • ピエトロさんが最期に055を579に投げつけたとき、正確には何に対して何が起きたのか

  • どうして5000とピエトロさんの死体は579の収容室に現れて、財団は5000というスーツの存在を把握してなくて、ピエトロさんは普通に除外サイトで生きているのか

  • どうして最後の579の画像は真っ黒で、しかも事態の核心的な会話文がエンコードされているのか

  • そもそも055と579は一体何なのか

はまともに手がかりがない。


上二つは「世界のリセット」「平行世界への移動」といったものが考えられるが、どちらにも決定打はない。
リセットと考えると、SCP-2998と違い、今回ピエトロさんの体が二つある点が妙である。しかし除外サイトという場の特殊性が生んだ現象かもしれない。
平行世界への移動と考えると、ピエトロさんの死体と壊れたSCP-5000が、SCP-5000を開発していないこちらの世界に飛ばされたというのが表面上は自然に見える。しかし前例がないし、その前提で考えると、ピエトロさんの必死の努力はピエトロさんの元いた世界に対する何の助けにもならず、彼は無駄死にしたということになる。
つまりわからない。


下二つに至ってはもうお手上げである。






■仮説


以上の内容から、PNEUMAプロジェクトの発見したものの正体、また財団の行動の真実について、考え得る仮説を以下に挙げていく。


◇仮説1:「【山崎令恩】とは異常存在である」説

[部分編集]


ここで言う人間性とは、「痛みを感じる性質」や「人の痛みを思いやる性質」である。だから「痛み」と言い換えても差し支えない。
PNEUMAとは古代ギリシャ哲学においては「存在原理」を表す言葉であるということもこの核心的な事実を補強するかもしれない。
時系列順に説明する。


まず、上の通りの事実をPNEUMAが発見した。O5-1が「そいつ」とか「奴」と呼んでいることからして、「人間性」とは全ての人間に感染している病気とかミームのようなものによりもたらされる異常性質であり、対抗する試みにはまた対抗してくることが考えられる。


★謎05: PNEUMAプロジェクトは一体何を発見したのか
☆答05: 人間性が異常存在であるという事実。


異常存在なのだから財団は収容しなければならない。
幸いにも、財団はこの影響を「治療」する技術を持っていた。ならばそうするだろう。


しかし正直人間性や痛みは「正常性」の範囲に含まれるのでは?と思うのは当然。
否、その疑問すらも異常存在である「人間性」に言わされているのだ。我々は既に自分を正常と思い込んだ異常に憑りつかれている。
そういうわけで人類を正常に戻すべく、O5と倫理委員会は手始めに財団職員を「治療」することにした。


★謎06: それに対し、O5と倫理委員会はどのような決定を下したのか
☆答06: 「人間性」を治療する。向こうに対策されないためにまず財団職員から。


これに当たって、ブライト博士やギアーズ博士など上級スタッフにはこの治療計画の概要が明かされた。
しかし、正常な世界を熱望する財団職員の中には「自らこそが異常だった」と言う事実を突きつけられたら、「財団にいる資格がない」とか、最悪の場合「生きている資格がない」と思い込んでしまう者がいることは不自然ではないだろう。これも「人間性」によるものなのだが…
特にギアーズ博士はその真面目な性格上「財団にいる資格がない」に該当したのだろう。


★謎07: どうして自殺者や辞職者が多発したのか
☆答07: 自分が異常であることを知り、財団職員の信念に反したり生きる理由を見失った者がいたから。


少し遅れて、治療薬が配布された。つまりあの「ファイル」である。


★謎08: 配布されたファイルには何が仕掛けてあったのか
☆答08: 「山崎令恩」を除去するための何か。恐らくはミームエージェント。


これにより自殺したり辞めたりしていない職員は人間性を失い、これからそうする理由はなくなった。だから自殺と辞職が止まったのだ。
ブライト博士は人間性は失わなかったが、ファイルの目的が「人間性という異常からの解放」であることは部分的に理解できたのだろうか。


さて、最大の問題はその人間性を失った職員たちがそれからどう考えたかになる。
彼らはもはや痛みを、思いやりを一切持ち合わせていない。
そんな状態で自分たち以外世界中の人類がみーんな「人間性」を持つことを理解したら。
もしかして、SCP-682が人類を憎んでいた理由もこれだったのかもしれない。
「人間性」とは、これを持たない者からしたら尋常でないほど忌まわしい異常性だったのかもしれない。


ここに、最大の謎への一つの答案を示す。


★謎02: どうしてこの財団は人類を滅ぼすなどという狂行に及んだのか
☆答02: 人間性を失った職員が、その他のまだ人間性を持つ人類をSCP-682と同じように最大級に忌まわしきものとみなしたため。


そうして、財団の使命は人類滅亡になった。




使命を変えた財団が最初にやったことは、唾棄すべき「人間性」を持つにもかかわらず今まで懇切丁寧に確保・収容・保護していた人間アノマリーと人間への共感持ちアノマリーの粛清だった。
「人間への共感」とは「思いやり」、つまり人間性だ。人間でなかろうと許せるものではなかった。


★謎09: どうして人間アノマリーだけでなく人間への共感性を示すアノマリーが終了されたのか
☆答09: 人間への共感は忌まわしき人間性の一側面だから。


そののち、次に手近な「先日の件で辞めたばかりの財団上級職員」「ファイルが行ってない除外サイトの職員」を抹殺し、それが済んでから他の人類すべてを滅ぼしにかかったという流れだろう。


「人間性」を失った彼らはやはり、もう人間ではない。これは人間を人間たらしめる概念だった。
それ故に彼ら自身は駆逐対象に含まれないし、人間に効果を発揮するアノマリーは彼らには影響しなかったのだろう。
だから一切危険を冒さずにアノマリーの研究ができるし、複製や応用ができるのも納得できる。
また「痛み」を失っているということでもあるので、ナイフを刺されても拷問されても反応なんてしない。


★謎03: どうして他8人は「生存者」とみなされず、またナイフ刺しに反応していないのか
★謎10: どうして財団職員は人間に無差別的に作用するはずのSCP-1440の影響を受けていないのか
☆答03・10: もはや人間ではないから。


またアノマリーを多用して攻撃していた点とほとんどのアノマリーの収容が放棄されていた点だが、これはサミュエルの台詞がヒントになる。


俺たちが光の中で戦うことによって、君たちは暗闇で死ぬことができる。


これは「SCP財団とは」のページに載っている以下の”管理者”の台詞、およびそれを基にしたSCP-3000コンテストの紹介文に対応していると思われる。


人類が健全で正常な世界で生きていけるように、他の人類が光の中で暮らす間、我々は暗闇の中に立ち、それと戦い、封じ込め、人々の目から遠ざけなければならない。


我々が暗闇の中で死ぬことで、あなたは光の中を生きられる。


見ての通り、前後が逆転している。
この「暗闇」は世界のダークサイト、つまり異常存在の暗喩である。今や、異常なのは財団職員以外の人類の方なのだから、暗闇の中で死ねと言っているのだろう。
では元々暗闇だった他のアノマリーの方はどういう扱いになるのだろうか。
もしや、これも反転して「正常」ということになっているとは考えられないか?
正常なSCPオブジェクトを使って異常な人類を絶滅させる、正常性を守るという点では変わっていない。


★謎14: ここまで収容違反を起こしてよいのか、起こす必要はあったのか
☆答14: 彼らからしたら正常なものを使っているのだから問題ない。



◇仮説2:「【生きている】ことが異常存在によりもたらされた有害な状態である」説

[部分編集]


9人の兵士と指揮官の話を思い出してほしい。
8人目の兵士が彼ら財団にとって望ましくない反応を返し、彼を射殺する際、指揮官はこう叫んだ。

生存者を発見!

これは逆に考えれば、指揮官や他の兵士ら、もっと言えば現在活動している財団の職員らは 「生存者ではない」 という事実を示している。
このことを複雑に捉えようとせず、単純に、現在の職員らは 「生きていない」 状態にあると仮定してみよう。
それを念頭に置いて読み進んでほしい。


続けて蛆虫についての項。
『征服者 蛆虫』の詩には、何者かに操られる道化=人間が、恐怖や苦痛に満ちた劇を踊らされつづけるという記述がある。
とすれば、世を生きる上での恐怖や苦痛はその何者かがもたらすもので、操り糸から解放された人間には与えられないものなのではないだろうか。
傀儡師の操り糸から逃れること……これはつまり、「生きていない」状態になることである。


さらに詩では、突如として舞台に上がり込んだ蛆虫が道化たちを血祭りに上げ、操り人形としてではない、主役としての振る舞いを見せたのち緞帳が下りる。
生きた人間を血祭りにあげる、操り糸のついていない主役たち……これはまさに、財団のしていることと合致しないだろうか。
彼らはPNEUMAプロジェクトによって操り糸の存在に気づき、自らそれを外す手段を見つけ、蛆虫として孵化した。
そして未だ操り糸の付いた道化たち、つまりは他の人類を殺害することで、彼らを「生きていない」状態として恐怖と苦痛の糸から解放した。
そういった解釈ができるのではないだろうか。


つまり、


★謎05: PNEUMAプロジェクトは一体何を発見したのか
☆答05: 「生きている」ことが異常であるという事実。


★謎02: どうしてこの財団は人類を滅ぼすなどという狂行に及んだのか
☆答02: 「生きていない」状態に戻して異常存在の影響から解放するため。


である。
傀儡師にあたる異常存在の影響として、我々は「生きている」という状態にあるのだ。
なお、その異常存在については後に詳しく考察する。


★謎06: それに対し、O5と倫理委員会はどのような決定を下したのか
☆答06: 人類を「生きていない」状態に戻す。傀儡師に阻止されないよう、まずは財団職員から。


★謎07: どうして自殺者や辞職者が多発したのか
☆答07: 「生きていない」状態になるための手段が未完成だったため。


自殺は方針としては正しいが、人手のほしい当面においては望ましくない。辞職はもちろん望ましくない。
恐らく、この時点では手続きが☆答08ほど洗練されておらず、現実を受け入れられない職員などが現れて混乱を招いたものと思われる。


★謎08: 配布されたファイルには何が仕掛けてあったのか
☆答08: 「生きていない」状態となるための認識修正エージェント。


ミーム的なものではあるが、これはブライト博士が言うように「強制」するものではない。同じ読みなら「矯正」になるだろう。
本来そうあるべき形を心にしっかりと堅持させることで、操り糸から解放する。
そうした処置の結果として、ガラス玉のように生気の宿らない瞳や、樹脂のように痛みを感じない体といった特徴が表れるようだ。*14


ところで、首飾りによって生に縛り付けられ、早く憩いたいと願うブライト博士が、真の意味での生からの解放にこうして抗い続けているのはなんとも皮肉である。


★謎09: どうして人間アノマリーだけでなく人間への共感性を示すアノマリーが終了されたのか
☆答09: 踊らされる道化に含まれる範囲の話と思われる。


★謎03: どうして他8人は「生存者」とみなされず、またナイフ刺しに反応していないのか
★謎10: どうして財団職員は人間に無差別的に作用するはずのSCP-1440の影響を受けていないのか
☆答03・10: ☆答08によって「生きていない」状態になったから。恐怖や苦痛といったものは、操り糸で演じさせられているにすぎない。また、SCP-1440は影響の結果として死ぬオブジェクトである。


★謎12: サミュエルは何を言ったのか。認識災害だとすれば、なぜGOC側の対策をすり抜けたのか
☆答12: 「生きている」ことについての真実を口にした。ミームエージェントとは似て異なる善性のものなのでチェックをすり抜けた。


このときロードス博士らが陥った状態についてだが、『征服者 蛆虫』の詩には傀儡師が撒き散らす風が、また『海の中の都市』においては町が沈む先駆けとなった並を騒がす風についての言及があるのでそれかもしれない。
中途半端に真実を知ったため、これらを意識してしまうことになったのだろうか。


★謎14: ここまで収容違反を起こしてよいのか、起こす必要はあったのか
☆答14: これまで忌まわしいと思われていたものが、全く忌まわしくなかった可能性がある。


これについては根拠に乏しいので、確度の低い推測として述べる。
人の世の恐怖や苦痛がまやかしであると判明したため、これまで危険で忌まわしいと思われていたオブジェクトが実は人畜無害だったり、むしろ善性に属していたと判明する、ということが考えられる。代表的なものが不死身のクソトカゲ。
よって、実はビルダー・ベアが人の耳で大玉転がしをしようが、首都圏がゾンビと肉塊で埋まろうが、実は全く悪い影響はないという可能性があるだろう。




……さて、この仮説における最も重要な点を考察する。




★謎13: 目撃されたこの【背伸びした人間のようなもの】は何なのか
☆答13: 傀儡師にあたる、人を「生き」させて恐怖と苦痛をもたらす存在




既に「背伸びした人間のようなものについて」の項でも述べたように、『海の中の都市』の詩の中にはこれと類似点のあるモチーフが登場する。
町を支配する死神、すなわち地獄すらも恐れるほどに忌まわしい町を治める存在である。
これが『征服者 蛆虫』の、人間を高みから見下ろし操る何者かと同じ、または仲好し小好しな存在であることは想像に難くない。
財団による職員の解放処置、続く世界的な人類の殺害、それらの離反行為に対抗するべく姿を現したのだろう。だからこそ職員と交戦していたのである。


ここまで考えてみると、どうにもピエトロさんのやったことは良いことではなかったのだろう。
穴を飛び降りて孵化した=死んだのはよいが、PNEUMAプロジェクトのせっかくの気づきはリセットされて水の泡。
人間を踊らせる何か、それを捕まえようとした財団は、またしても円をぐるりと回ってしまったのだ。
ラジオで語りかけてきたのも、ピエトロさんに必要な知識を与えたのも、これらの存在が自分たちのためにやったのだろうと思われる。


★謎11: どうしてピエトロさんは055と579を合わせればよいという結論に至ったのか
☆答11: 人間を踊らせる何者かにそう吹き込まれたから。


最後に一つ。
落下死する瞬間、ピエトロさんは何を見たのだろうか。
かの『海の中の都市』は、この世のものと思えぬうめき声をあげて、海の底に沈んだという。
SCP-579監視室の地下、暗い穴の底で……彼は踊らされる人間の町、あるいは落ちゆく緞帳ピエトロを総立ちで迎える観客でも見たのかもしれない。


……もし、蛆虫たる財団が舞台にあらわれ道化を食い殺すことも、ピエトロが最後に幕引きとしてやってくることも、みな劇のストーリーの一環だとしたら、救いはどこにもない。
PNEUMAプロジェクトが何をしようが、結局は再演の幕が上がれば世界はリセットされる。そして恐怖と苦痛に満ちた道化Pierrotの劇は、観客を大いに沸かせることだろう。





財団の未来は満員御礼だ。




ちなみにこの説については、騒動のそもそもの原因、この仮説で言う「傀儡師」がSCP-2718ではないかという解釈が存在する。
2718は死後も自身の遺体に感覚を宿し、無限の苦痛を味わい続けるという情報災害だが、これが情報災害ではなく一つの異常実体であり、そいつが共通無意識に寄生していたことでこの仮説の状態が引き起こされていた→だったら人類が全滅すれば死者は苦しまないし2718も死ぬんじゃね?と考えた財団が人類絶滅に乗り出した、という説である。


なお元記事の作者は「8割ほど正しい」とされる考察に言及し、その意見の中で「財団側は正気で、人間の方が何かに寄生されている」と述べている。
また、元記事には「外部エントロピー(外世界から財団世界に何かを生み出しているオブジェクト)」のタグが存在するため、

  • 人類は外の世界に由来する「何か」に寄生されている

  • それはこの世界の人類がそのままである限り不変/普遍である

  • 「何か」は財団のある別のタイムラインにも影響することができる

  • PNEUMAはこの「何か」を発見してしまった

  • クソトカゲが「忌まわしい」と言っていた「奴ら」こそがこの「何か」である

  • アノマリーは「何か」に影響されていない/「何か」のコントロールを受け付けない/「何か」の干渉を外れた存在である

  • 055と579に関する事実をピエトロさんに伝えたのは「何か」であり、財団世界がコントロールから外れるのを阻止しようとした(結果的にそれはピエトロさんの認識していた「合意された現実」を維持することでもある)

と仮定すれば大体の謎は説明できる。


また、現在は元記事のサミュエル・ロスのインタビューの部分に、この「何か」が2718であったというtale「忌まわしい」へのリンクが張られている。ただしこのtaleは別の作者による執筆なので、これが真相とは断定できないことに注意。

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