世にも奇妙な実話 野坪の蠅 #4
レトロ屋敷につどう魂
人並み外れた直感と霊視力。怪人並みな能力を持つ霊能者。口コミで壱心の存在が広がると、レトロ屋敷には一般人だけでなく、業界人や大手芸能プロダクション関係者、社会的地位がある多くの人たちが訪れるようになった。
わたしはレトロ屋敷でいろんな人生を送る人たちに出会った。
笑顔の下に隠された悩み、恐怖体験を語ってくれた人たち。
それはどこかで聞いたような話。
もしかしたら、そう。
知人、またはあなたの体験かもしれない。
*
【第一話】母がユタになれ
沖縄では古くから伝わることわざがある。
「医者半分、ユタ半分」
ユタの霊能力で病気を治す。ではなく、医者の治療を受けながら精神部分はユタに癒される意味らしい。ユタは沖縄と奄美群島に存在する霊能者で、霊的問題の解決やアドバイスを生業としている。血筋で継承される状態がほとんどで、圧倒的に女性が多い。
レトロ屋敷で取材を受けてくれた沖縄出身の与那嶺(よなみね)ヨシ子は、息子の問題、夫の死と自身の病気を抱えていた。悲しい顔をせず、クチャっとした笑顔とマシンガン・トークがとても印象に残った。聞き取りの合間で壱心がヨシ子に言い放った。
「母が息子のユタになれ。それが息子の立ち直る早道だ」
息子の立ち直る早道がどうしてユタなのか。そもそも「ユタになれ」といわれてユタになれるのか。素朴な疑問の中に何か意味があるような気がした。
わたしはユタをもっと知りたくて一冊の本を読んだ。完読する前で、疑問の隙間から沖縄の太陽が注がれたような気がした。
ヨシ子は沖縄のコザ市(現在・沖縄市)出身で、高等学校を卒業すると同時に集団就職で東京に上京した。3日間船に揺られ就職した先は、所沢にある縫製工場だった。
集団就職で東京に仕事を求めて上京していた同郷の夫と結婚し、子宝に恵まれた。特に末っ子の息子は手が掛かるぶん愛おしい。他人より不器用な性格もあって、息子は学校でいじめられていた。
沖縄では、祖先を崇拝(すうはい)することにより、平和と繁栄が続く信仰がある。祖先の霊は、いつも日常の私たちを見守っている、と強く信じられた。ヨシ子の叔母がユタをしている影響もあり、霊の世界は身近にあった。
時代は占いブーム。本やテレビの情報を鵜呑みにした息子が、不幸の原因を「水子の祟り」ではないかと騒ぎ出した。心配したヨシ子が最初に相談した相手はユタではなく、息子が会いたがっていたテレビで有名な占い師だった。
「息子は、精神が病んでいる。ご主人は、このままだと死ぬよ」
原因は「夫と息子に水子の霊が憑いている」状態だと断言された。鑑定結果に、占い師を崇拝している息子が大きく頷いた。墓地に水子地蔵を設置し、10万もする鑑定料を支払った。なのに数か月後、夫が病気で亡くなった。供養が足りなかったのか。ヨシ子は何度も自問を繰り返した。
「鑑定の通りになった。あの先生の所へ行こうよ」
すっかり気を落としたヨシ子に、息子が再度占い師の名前を口にした。
「墓が悪い。黒い墓は、良くない。犯罪者、離婚者が出る」
墓が悪いから不幸が起こる。だから墓を建て替えろ、と。それにしてもおかしな話だ。全国の黒墓は悪いと否定しているようだ。占い師の本性が現れたと思った。
「ウチにはお墓を買うお金がないし、仏壇もありません。そちらを購入しないと……」
仏壇購入を取り上げれば墓の話を諦めてくれるのではないか。ヨシ子の言葉に占い師は反応した。
「それじゃ、むこうの部屋に行って」
鑑定部屋を出て、別部屋まで廊下を進む。部屋を開けると驚いた。そこには墓石屋と仏壇屋が揃って待機していたのだ。高額な仏壇を断ると相手が値段を下げてきた。それでもいずれ購入しなければ。用意できる金額まで値下げしてくれたのもあり、ヨシ子は仏壇を購入した。
占い師と墓石屋。カラクリがわかっても、息子は占い師を疑わなかった。
「お母さんは、世間を知らなすぎ。人に騙される」
本や占いでいろいろな情報を取り入れた息子が、上から目線で指摘する。霊の存在、宇宙などにこだわりが強い。自ら信じるものがすべてだと宣言するくらい捉え方のかたよりが激しくなっていく。
しだいに家の中では留まらず、とうとう外に向かって危険行動が現れてしまった。息子は包丁を振り回し警察に捕まった。
霊の世界を信じるヨシ子は、数年前からレトロ屋敷にも訪れていた。夫の命、息子の問題、ヨシ子の病気を透視した壱心が、水子の祟りが大きい原因ではないことを教えてくれた。
「息子は病気。病院に行きなさい」
霊能者でも解決できないものはある。精神不安定は、霊のせいだけではない。自分の子が病気だと認めたくない母の心も透視していた。
ある日、息子が枕の下に包丁を忍ばせ就寝していた。驚き問い質すと『包丁を持っておけ』もう一人の自分がうなっている、と真顔で吐いた。
末っ子で手が掛かるぶん愛おしいと可愛がった。全身の力が抜けた。
やはり息子は病気だ。精神が病んでいる……。
警察に相談すると、そのまま入院が決まった。事態は最悪だ。どうにかしたいと焦る気持ち。気づいたら電話をしていた。第一声で、ヨシ子の心を読んだ壱心が、「いつがいいかね」と返してくれた。
「あんたは、明るい人だね。数か月前にご主人が亡くなった感じがみられない」
困難に遭っても、明るく笑っていればどうにかなるものさ。
ウチナー精神が根付いているヨシ子は、家族の不幸を明るく話す。
家族で抱えていた問題、墓の件。とめどもなく口からあふれて止まらない。一つ一つ、問題の固まりをはがすように答えた。
半年間で急激に変化した家族。それでも、ヨシ子は顔をクチャっとしながら「息子が変わればバンバンザイ!」と両手を挙げて笑った。
取材はここで終わっているが、ヨシ子の話は続きがある。
自宅を透視した後日、壱心はヨシ子宅に出張してお祓いをした。
「家の方位が悪い。人から貰った物を捨てなさい。貰い物は、念があるからね。仏壇の上に絵を置かない。死んだ時に着ていたご主人のシャツを処分する」
霊界と人間界の結界に菊を植え綺麗にする。結界に物を置く状態はタブーのようだ。
霊界関係の本も大量に処分した。本によってマインド・コントロールまでされていたと壱心が教えてくれた。現在、息子は病院に通院しながら一人暮らしができるまで回復している。
「母が息子のユタになれ。それが息子の立ち直る早道」
神から与えられる試練を受け、多くの人はユタになる。神の試練はカンダーリィと呼ばれ、体調不良や肉親の不幸となって現れる。取材を受けてくれた時、ヨシ子は足を引きずって歩いている状態だった。
もしも家族の不幸や病がカンダーリィだとしたら、解決方法は一つしかないかも。わたしの想像カプセルは南の空に向けて高く飛んだ。
***
つづく
『世にも奇妙な実話 野坪の蠅 #5』予告
全国から集まった恐怖体験、不思議な話
週2回、または不定期に発信します。
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