野坪モノクロ

世にも奇妙な実話 野坪の蠅 #3

本文に心霊写真あり。

前回の話

因縁が残る土地に引き寄せられる

「蠅のおじさんは不幸な人が好き。不幸の匂いがする場所をブンブン飛び回る」

 おじさんこと壱心が蠅の飛ぶ真似をしてにたりと笑った。
 口癖のような言葉通り、屋敷には全国から不幸な人たちが集まってくる。中には鑑定料が払えない人も受け入れ、ご飯を食べさせているくらいだ。
 同じ場所に留まる状況を好まず、2年周期で動くのが好きだという。

 壱芯が古い屋敷に身を置く理由。修行の場として好条件だという土地を聞き、わたしは身震いした。そこは前から知っている場所であった。

 車や人が行き交う駅前のロータリーには、不自然に取り残された一本の松がある。ぬくっと生えた松は軽く10メートルを越えるだろう。地元では「たたりの松」と呼んでいた。

 昔、この地域は藩の処刑場だった。首塚とも呼ばれた場所には松が多く植えられた。なぜ松が多いかと調べれば、処刑を実行すると供養として松を植えた説があった。

 松の撤去に何者かが邪魔をする。工事関係者に事故や病気など不幸が起きることから、処刑された人の因縁が残っている松と恐れられていた。

 地域には角地の一等地に大きな松が何本も植わっている土地がある。坪数は500坪くらいだろうか。この場所は交通の便も良く、古い土地なので坪単価は高い。空き地にしておくほど不動産屋もバカではない。因縁が残る問題の土地であることは間違いないだろう。

 さて、因縁の地域とどんな縁があったのか。わたしは2枚の写真を見せられ、壱心の話に耳を傾けた。

 次々と住人が引っ越すアパートの一室があった。いわくつきの物件に関しては、告知義務があり、賃貸人はそのうえで契約を交わす。ある意味「霊感がない」とか「霊の存在を気にしない」人たちが入居している。それなのに新しく入居した住人が、「幽霊が出る。気持ち悪い。ここには住めない」と不動産屋に訴えた。

 不動産屋は危機感を持った。これは除霊をしたほうがよいと。そこで壱心のもとに「霊のお祓いができる本物の人」を求めて除霊の依頼があった。

 いっとき壱心と一緒にこの物件を探した。実話を書く中でアパートの話は外せなかったからである。ところが、該当する地区を片っ端から潰したが辿り着けなかった。記憶を頼りに動いたが、お祓いで夜中に訪れた景色と日中の景色は様変わりしていた。
 首を傾げ何度も「見たこともない立派な門構えの家の前だった」を繰り返すばかり。アパートの目印を立派な門構えの家と覚えていた。鮮明に残る外観は、いまでも壱心の記憶の中で残っているのだが……。

 少し脱線をしたが話に戻る。

「幽霊が出るアパートのお祓いをしてほしい」話が舞い込んだ。慌てている様子から、すぐに行動を移した。
 真夜中、霊のお祓いにアパートに向かった人は3人。不動産屋、壱心、もう一人は不動産屋に壱心を紹介した人だ。

 部屋に入ると霊の存在を感じた。霊の存在を証明するために写真を撮る。
 1枚は、念じる前の部屋。次に恐山の写真を部屋の真ん中に置いた。
 視えないものに意識を集中させると『ここに集まれ』と、念じてシャッターを押した。

 最初にいっておく。noteに掲載した写真はあなたを不幸にしたり、霊を呼び寄せたりはしない。実際、現物を預かっている間、わたしに不幸や異変は起きなかった。また、霊が部屋に現れた現象もなかった。

 霊から伝わった感じの様子を教えてくれた。昔、ここで殺人事件があった。気が狂った母親は実母と子供2人を殺害した。この霊が部屋をさまよっている。

アパート部屋2

アパート部屋1


 左端に写る白い物体は成仏した霊。白い物体を挟む黒い物体は「もっと生きたかった」と成仏していない霊。2枚とも赤くなっている状態は写真焼けではなく、霊体が醸し出している怨念だ。
 不動産屋は告知しないで物件を貸していたようだ。事故物件の告知期限が過ぎていたからか理由はわからない。次々と住人が理由を言わずに引越し、最後の住人が訴えて霊の存在を不動産屋が知った。

 お祓いを済ませた後日、壱心はアパートが建つ隣町に引っ越してきた。住まいの住所を聞いてわたしは驚いた。数百メートル先には、先ほどの大きな松が何本も植わった因縁の土地があったからだ。

 たたりの松の話をすれば、「そうか。ここは不思議な縁があった。丑三つ時に因縁の場所にでも行ってみるか」と楽しそうに笑った。

 壱心の住まいは見覚えがあった。昔、勤めていた職場近くに建つ家。これは何かあると不思議な縁を感じた。

 洋館でもなく和風でもない建物は、昭和時代の後期に立てられたものだろう。赤レンガの塀は蔦がびっしり絡み、赤と緑のコントラストが非常に落ち着く。

 わたしはこの家をレトロ屋敷と名付け、妄想を膨らました。きっと家の中には暖炉があって、ゴージャスな椅子とテーブルが設置してあるだろう、と。

***

つづく

『世にも奇妙な実話 野坪の蠅 #4』

レトロ屋敷に集う魂、恐怖体験、不思議な話

週2回、または不定期に発信します。


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