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書店は必要なのか

書店・青山ブックセンター本店の店長として、現場で働きながら考えていること、本(これから入荷する、読んでいる、読んだ)の紹介などを月4、5本お届けするマガジンです。

先日、ある報道番組の中の特集に出演依頼があり、事前に話を伺いたいとのことで、ああだこうだと話しました。なかなか大きい質問が多いので、我ながら面倒くさい奴だと思いつつも、そもそもこう考えているのですがと話していて面食らわせてしまった感触でしたが、以下、その一部抜粋を中心に増補した形です。

-どんどん減っていますが、書店の魅力と問題点は何ですか?

出版不況と書店が減っていくという枕詞がどうしても使われがちですが、ピーク時に2万店舗を超えていたのが恵まれていただけで、今も1万店舗あるのは多いと思っています。もちろん都市部を中心に書店が固まって存在し、書店がない地域が増えていることは問題です。
また、そもそもの前提として、今ある1万店舗ある書店を一括りで「書店」と呼ぶことが無理だと思っています。大規模、中規模、小規模なチェーン店、当店みたいなチェーンではないけど中規模な店舗、いわゆる独立系書店(好きな呼び名ではないのですがしょうがなく)の個人でやられている店舗、カフェなどと一体になっている店舗など、規模も形態も本当に様々です。なのであくまで中規模な書店の当店の視点から考えるというこになりますが、大丈夫でしょうか。

-はい。
当店が考える魅力は、自分自身の無意識を意識化できることです。スマートフォンが浸透し、インターネットによって、twitterやinstagram、tiktokなどで放っておいても、情報などが流れてきます。でもそれらはあくまで受動的なものです。書店の棚を巡れば、並んでいる本から、より能動的に自分が興味があることに気付けますし、逆に自分が興味がないことにも気付けます。特に普段関心がないジャンルの棚を前にすれば、より顕著です。それによって、よく偶然の出会いやセレンディピティともいわれますが、自分の世界が広がる入口に立つことができます。オンライン上のレコメンデーションのアルゴリズムでも可能は可能ですが、棚を俯瞰で見ることができること、棚担当者がお客さんと双方向で畑を耕すように棚を作り込んでいくことで、元々欲しかった本以外にも手を取ってもらえることが増えていくと思います。そうやって能動的に無意識を意識化して、世界を広げていくきっかけになることができるのが書店の魅力と考えています。

 僕たちはあるがままの世界を見ているわけではない。自分を取りまくすべてのもののなかの、ごく一部にだけ関心を寄せ、そのほかのほとんどを見ないことで意識を節約している。問題はこのとき、自分には何が見えていないかを、自覚するのが難しいことだ。僕たちは、自分の無関心について、かなり無知なのである。(森田真生『僕たちはどう生きるか』)


-問題点はどうでしょうか。

これは割とどの規模でも共通ですが、書籍の販売の粗利率が20%前後と低いことです。もちろん再販売価格維持制度でどの規模の店舗でも本の価格は基本的に同じ価格ですし、委託制度によって返品可能なので、書店側のリスクが小さくなっているという恩恵があるからというのもわかっています。ただそれでも規模を維持したり、人に投資することがどんどんできなくなっています。特に利益が大きかった時に、人に投資をしてこなかったから現状を招いた一端があると思います。これは書店に限らず、出版全体にいえることかもしれません。

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