タイムカプセル

 中学の卒業式の日だったか、担任の男性教師から「タイムカプセルを埋めよう」と提案があった。
「何を書いても、ええ。20歳になったら、みんなで集まって掘り出そう」
 と、いうことだった。

 ★夢パック
 その頃、私は建築士になることを夢見ていた。それは書いた。後、座右の銘のようなことを書いた気もする。クラス全員、ビニール袋に紙片を、折りたたんで入れていった。ビニール袋は空き缶に収められ、花壇に深く穴が掘られた。
 1学年50人あまり。2クラス編成だった。戦後のベビーブームの余波で、まだ中学校には生徒があふれていた。
 岩肌を削り、山の斜面に中学の校舎は建てられていた。木造2階建て、教室の窓から手の届きそうな距離に金網が張られ、下は高い石垣だった。
 わずかな空き地に花壇が設けられていた。空き缶に土が被せられるのを全員、神妙な面持ちで見ていた。1967年3月のことだった。
 環境が大きく変わる慌ただしさからか、中学卒業時の記憶はそれしかない。

 ★喪失
 私たちの学年が20歳になる前年、母校は町の中学校と統合された。
 生徒や保護者の知らないところで、統合話は進んでいたのだろうか。おそらく、私たちの担任も与り知らなかったのだろう。分かっていたら、あんな提案などしていないはずだ。
 それくらいのスピードで過疎化は進んでいた。
 あいにく私は20歳の同窓会に出られなかったが、花壇に集まったという話は聞かなかった。多くのクラスメイトが、タイムカプセルのことを失念していたようだ。それに、廃校になった中学校に集まって、花壇を掘り返すわけにはいかない。タイムカプセルがあのまま埋まっていたかも疑問だ。
 有為転変。半世紀以上たった今でも、あそこに私の15歳の夢が眠っていることだけは確かだ。


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