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ビーチリゾート「シアヌークビル」が大好きすぎて。

 カンボジアといえば、アンコールワット。あるいは首都プノンペン。どちらも行って街歩きをした。

 普通に「ほーう、こんな感じなんだね」とプノンペンの街歩きをしたらわくわくしたし、「昔のクメール王朝の建物はすんごいなあ」とアンコール遺跡をみて驚いたし、アンコール遺跡を街内移動のためのママチャリをひいひいこいでアンコールワットまでいって達成感も味わった。

 それとはまた別種の憧れる場所があった。カンボジア、シアヌークビル。そういう街がある。九龍城のようなアングラなビルではない。

 バックパッカーの頃は、旅仲間から「シアヌークビルでぬーくぬくしようぜ」なんて言われるくらい海辺でぬーくぬくできるゆるゆるなところでありました。

 ところがタイのB級情報を発信するザビエル某さんは、高頻度でシアヌークビルのダメ中国人逮捕情報をツイートする。中国人の同胞を拉致監禁して逮捕とか、中国人プログラマーのブラック労働環境があるとか、中国人の運転するプリウスが衝突(プリウスロケット)とか、カジノや闇風俗でまとめて数百人強制送還とか、刺さるツイートをするのだ。

 ともなると、「やべぇ、こんな面白そうな場所があるのか!」と行きたい気持ちがふつふつと湧くわけで。湧きますよね?

 いったいどんな世界が広がっているんだ。中国人に拉致されるかもしれない?いやいや、中国本土と同じで行ってしまえば報道ほどひどくないでしょう、そこに普通の生活はあるでしょう、と。日本人が中国人同士の抗争に巻き込まれて被害を受けているわけでなし。それに絡まれてもこれまで中国で散々「写真撮るな」と言われ恫喝されたり、保安に連れられて詰所に入れられて「みっしみっし!」と言って日本人観光客をアピールして難を回避したのだ。問題はなかろう。


 で、2019年10月、巡り巡ってホーチミン空港からシアヌークビルへ。いよいよホーチミンから修羅の土地のシアヌークビルに行ける。高鳴るわけですよ。

 ホーチミンの空港ですら興奮するのに、シアヌークビル着いたら中国の空港そのまんまのあふれる簡体字に、見るからにダメなおっさん、机の上に置かれた王老吉、もういよいよたぎるんですね。

 既に期待値が高まっているのに、シアヌークビルの街中に行くと「おおっ!」と声をだし笑顔でスマホで写真を撮りまくるあやしい中国人(カンボジア人からすると見た目は一緒)になってしまった。なにせそこは中国の小田舎と同じ光景が広がってるんだからパラレルワールドはたまた異世界に入った気分に。

 ダメ中国人がいて逮捕者続出でカジノがあるのは情報として知ってたけど、そこに西川口以上の中国の生活空間があるなんて思ってもいなかった。考えてみれば中国人好みの生活コミュニティができてるのは当然なんだけど、一部地域は店のほとんどが中国人向けで、あまつさえ中国の”小区”の街づくりまでそのまま建設しているなんて思いもよらなかった。

 鎮にありそうな宿も商店も中国そのままの中国人向けのが無数にあり、中国語で話してふらりと入って泊まることができた。マッチョマンや黒社会の人が商店を経営しているのではなく、中国のどこにでもいそうな気の弱そうな夫婦が年老いた親を連れて経営している店も。

 まさに中国の小田舎なんですよね。

 しかもホテルの「7天連鎖」「漢庭」、食事の「周黒鴨」「海底撈火鍋」「外婆家」、家電の「蘇寧電器」、スーパーの「大潤発」「永輝超市」「百佳」、病院の「同仁医院」など、中国でお馴染みのブランドが並んでる。で、これが多分全部ニセモノ。本家サイトを見るとシアヌークビルに展開している情報はない。知っているブランドだけど、それがあるとは思わず、遠い海外で大量に見かけるからもう子供のように「これ知ってる知ってる!」モードになるわけで。

 あまつさえ、デリバリーの美団の服を着た配送員が食事を運んでたり、突然中国人が夜のサービスの名刺を渡してくる。イベントがおこるたびに「おおっ!」と笑顔になる。海外でもシアヌークビルが特別面白いのは「知っているもの×予想外」のコラボだからこそ。初めての土地でここまで面白いのはなかった。ネタバレした2回目はここまで興奮しないだろう。

 じゃあシアヌークビルで中国飯を食べたいかと言うと、ひとり飯となるとなおさらあまり行きたさはなかった。海外で中国飯が食べれる!といっても腕のあるシェフがつくるわけではなく、オールドラッシュについてきたおっさんらであり、中国なら鎮のその辺にある油ギトギトの中華料理なのだ。雲南の田舎旅行で仕方なく食べる外食と同じレベルなのである。

 しかもここはカンボジア。中国食材は輸入品だから日本並みか、それ以上の値段で、「ここお勧めだよ」と宿屋の清貧オーナー夫婦に言われて入った水餃子屋の水餃子が8ドルとか、カジノの近くのオイリーなチャーハンで5.5ドルとか、げんなりするわけですよ。

 そこで掌返しとばかりに、カンボジア人の昔ながらの家屋の食堂に「ス~スデ~」と笑顔で入るんですね。海の家っぽい感じかな、経営家族が斜め上の先にあるブラウン管テレビをぼーっと見てたり、青年がスマホでゲームをしていたり。上では頼りなくファンが音を鳴らして回っている。

 そこでバックパッカーばりにカタコト英語でこれとこれたべたいと言えば、1ドル2ドルかで美味しいカツレツ定食やおかゆなどが頼めて、食事を運んできてついでに湯呑に茶を注いでくれる。そこらで食べれて、息が抜けて「ぷはぁーーー!」っと幸せになれるわけです。

 そんな掌返しができるのもまた、中国に足を踏み入れちゃった人のカンボジア旅行の楽しさなのです。

(オシャンな写真でビーチリゾートが好きそうな人を釣ろうとした。後悔していない)



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