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藤原和博『60歳からの教科書 お金・家族・死のルール』朝日新書

著者の主張は、「人生は掛け算だ。」という一つのことである。署名に60歳とあえて入れたのは、60歳を今の時代の新しい成人ととらえたからである。平均寿命84歳として、60~74歳の自由時間を1日11時間とし、75~84歳の自由時間を1日5.5時間として計算すると、40年間働いた時間に匹敵する。60歳は、20歳と同じスタートラインに立つことになる。

稼ぎの本質は希少性(めずらしさ)にある。希少性は情報編集力(納得できる仮説を生み出す力)がものをいう。時代は、ますます希少性と情報編集力が重要になっていく。

社会人の初めの一歩(一点目)は、ほとんど希望どおりにはいかず、「事故」のようなものであるが、5年~10年、1万時間その仕事を続けるだけでスキルをマスターできる。二点目は、異ジャンルで1万時間かける。営業であったら企画。広報だったら宣伝。経理だったら財務。人事異動で別のキャリアを重ねる。

三点目が決め手である。三角形を広げる「サプライズ」があることである。社会的ニーズや、共通の目的(錦の御旗)があればなおさらよい。3つの点で描く三点魔方陣(三角形)を大きくすることで希少性が高まる。

人生全体の信用(クレジット)の量で、ピラミッドの体積が示される。60歳からは、三点魔方陣(三角形)に高さを出(立体化)してピラミッドをつくる。

お金を「収入」と「支出」とに分けて考え、自分の人生を一つの事業と捉えて構想する。まずは現状を把握する。高齢夫婦の年金などの給付が20万円前後、支出が25万円で5万円程度の赤字となる。このとき、自分の信用度も問われる。

さらに、2×2のマトリックスを使用して、およそ60万時間となる人生について具体的に考える。縦軸の上部を「個人的な時間」、下部を「組織的な時間」とし、さらに、横軸の左側を「処理的な時間」、右側を「編集的な時間」とする。左下の組織的で処理的な時間を右上の個人的で編集的な時間に充実させると良さそうである。

個人的な時間を増やすための「時間の断捨離」を行う。経済的価値を重視するか、または経済以外の価値を重視するか、さらに権力志向か、またはプロ志向かを考え、どこを目指すかを決める。そのうえ、自分の希少性が上がるお金の使い方をする。プロの力を借りる。自分のできないことをやってくれる人を支援する。コミュニティづくりにお金を使う。

「家族」との関係では、「ベクトルの和」を求める。同じ目標を目指して、同じ方向にベクトルの矢を向ける。このアイデアは、会社と個人との関係でも役に立つ。

仕事相手のベクトルを最初に確認し、自分自身のベクトルと融合させて「お互いにプラスになるいい仕事をしましょう」と働きかける。「頼まれ仕事」でなく「自分ごと」として、仕事における高いシナジー効果を生み出す。状況を正確に見極め、さまざまな情報を集めて分析する「情報編集力」が必要となる。

人生のエネルギーカーブは、「昭和・平成」期、富士山一山型で良かった。「令和」を生きる私たち世代は、八ヶ岳連峰型でないと充実した一生を過ごせない。「連峰型エネルギーカーブ」で人生に大きな山をいくつも描くために必要な土台は、「裾野の広さ」である。

本業・本職といった「本線」とは別に、いくつもの「支線」をつくる。その支線が、いずれ山へと成長する可能性を秘めた裾野になる。裾野をつくる近道は、本業とは別のコミュニティに参加して、そこで得た知識や人間関係を育てていくことである。会社を離れたあとの居場所となるコミュニティを確保することが、あと数十年続く人生にとっての死活問題となる。

「朝礼だけの学校」を主宰する著者による60歳からの人生の教科書ではある。実は60歳になるよりずっと前に読んだ方が役に立つと思われる。著者によるこれまでの人生経験に裏付けされた生き方ガイドブックである。



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