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Graham Pullin『デザインと障害が出会うとき』オライリー・ジャパン(オーム社)

本書は、2009年に出版された『Design Meets Disability』を翻訳したもので、デザイナーが義肢の制作に取り組んだらどうなるかという、当時としては挑戦的なプロジェクトにおける試行錯誤の思考記録とも言える。また、本書の後半は、著名なプロダクトデザイナーたちが障害のプロダクトに出会うまたは出会ったらということで書かれている。

なお、著者は、人を第一に考えるため「障害者」(disabled people)の言葉を使う。その人々を障害者としているのは、その人々が持つ機能障害自体ではなく、その人々の生活する社会だからである。ただし、配慮に欠けるとしたら、ご寛恕を賜りたいとする。

医療用のデザインは、目立たないようにしなければならないか、機能障害を隠すべきものかという問題がある。肌色の義肢や、超小型の補聴器は、その代表である。ファッショナブルなメガネがあるように、ファッションを取り組むことができるかという緊張関係があるという。補聴器をヒアウエア、義手をアームウエアとする考え方である。

医療エンジニアは、問題を定義し解決策を作成しようとする。そこには、美は障害に配慮したデザインに役割を果たしていないという認識がある。逆に、多くのデザイナーは、障害に配慮したデザインは工学やヒューマンファクターに属するものと見ている。障害に配慮したデザインがきわめて特異なもの、一般的なデザインと対立するものとすると影響力は限られてしまう。障害に配慮したデザインにデザインを引き留めることが重要とする。

障害に配慮したデザインにユニバーサルであれという圧力が掛けられることが多い。ユニバーサルデザインは、複雑化させるリスクを持つ。シンプルさのほうに価値を認める勇気が必要とする。デザインには、アクセシビリティー(利用しさすさ)に果たす役割がある。

WHOは、人間は誰でもある程度の障害を経験し得ることを認めている。しかし、「一般的な製品と用具」と「支援的な製品と用具」のWHOの定義は明確に異なったままである。一般的なデザインと障害に配慮したデザインの境界線をあいまいにするよう努力すべきとする。

クリティカルデザイン(批評的デザイン)は、さまざまな課題について新しい考え方を引き出すが、意図的であいまいで不愉快な形でなされることが多く、障害も対象となる課題である。不快なアイデアや不適切なユーモアであっても、障害者のための開発やデザインに内在する議論されない問題を呼び起こすためのツールとして活用できるはずとする。

医学工学の分野でのプロトタイプの制作は、臨床試験と呼ばれる利用者のテストを行うためである。一方、デザイナーたちは、総合的な体験を作り出すことに注目する。障害に配慮したどんなデザインであっても、受容されるかは生活する体験によって決まるからである。

発話機能障害や言語機能障害のある人たちとのコミュニケーションを支援する補助具の開発では、自然な発話が求められやすい。しかし、何を言うかよりも、どんな言い方をするかのほうが重要なことが多く、デザイナーは貴重な貢献ができる。

安積朋子氏が軟骨無形成症と呼ばれる成長不全の女性のために脚立を制作する件など、合計18人(うち7人が実際に出会った事例で、残りは仮定である。)のデザイナーの障害者との出会いが書かれている。

本書は、障害に配慮したデザインの伝統的な優先事項のいくつかについて異議を申し立てている。また、デザインからインスピレーションを起こして、デザインを再創造することを期待している。

デザインに携わらない人でも、発想の転換により、新しいアイデアを得ることができるのではないかと思う。また、障害者に配慮したデザインと向き合うことは、深く重いテーマであると思え、障害者がデザイナーに与える影響は大きいと思う。本書発刊の意義は大きい。


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