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樋口恵子『老いの知恵袋 あっぱれ!ころばぬ先の知恵88』中央公論新社

1983年、「高齢社会をよくする女性の会」を結成し、介護保険の実現にあたって、強力で絶大なる応援を行った元気なおばさんが、88歳になって、老いの当事者になって新たに発見したことを、若い人を含めて、ころばぬ先の杖(知恵)として、不安解消の一助となるよう著わした痛快エッセイである。

70代半ば頃、京都駅の和式トイレで用を足して、突然、立ち上がれなかったエピソードが書かれている。これを老いを実感した思い出したくない「トイレ記念日」だそうである。足がダメになったのである。認知症や歩行困難を防止するため、老人に外に出ようと言っているが、そのためには公衆トイレの洋式化を提案しているが、全く同感である。

著者は、加齢により、心身の活力や、筋肉量が減少することを「ヨタヘロ期」と名づけて、ヨタヘロ期を安全に、できるだけ楽しく暮らすかについて、試行錯誤している最中だそうである。

10年ほど前に大動脈瘤の摘出手術を受けたあと、筋力も心肺機能も低下したため、デイサービスを利用することで、介護保険を実際に体験したという。リハビリをしてくれる間、お仲間とのなにげない会話があり、いろいろな人と触れ合うコミュニケーションの場であり、半年で元気となり、デイサービスは打ち切られたという。これを読んで、著者の介護保険実現の功績を思うとともに、おじいさんも、おばあさんと同じように喜んでデイサービスに行けば、もっとよくなるのだろうと思う。

著者は、体が弱って子どもと同居するような場合、家の権利者や預金通帳、年金証書など、すべてを子どもやお嫁さんに渡す人がいるが、これに反対だという。ただし、認知症などの影響で判断能力に欠ける場合が増える場合について、これがよいという政策がないという。後見人制度も、面倒で、お金がかかると不評なことは残念なことであると思う。

BB(貧乏ばあさん)にならないためには、まずは一人ひとりがBBB(貧乏ばあさん防止作戦)をいますぐ始めたほうがいいという。第一歩はHB(働くばあさん)になることで、①人と接する機会が生れる。②人の役立つ。そのために能力向上できる。③現金収入が得られる。40代、50代の方に、早いうちに仕事に戻ってくださいという。働くばあさん=ハッピーばあさん(HB)への道が開けるという。遺族年金で暮らすのはリスクがあるともいう。

女性は、①妊娠・出産、②夫の転勤・転職・リストラ、離婚など、③家族の介護の3つのすべり台で、落ちてももとのコースに戻れるよう、政策でもって女性に笠をかぶせてあげる必要があるという。

二番目の連れ合いが脳梗塞で、完全寝たきりの状態になった事例を引き合いにして、延命治療の意思表示も、その状況にとって、本人の考えがいくらでも変わるから、そのときの気持ちを確認してほしいという。

子ども食堂だけでなく、じじばば食堂がほしいともいう。食・職・触が元気のもとという。実際に子ども食堂に、じじばばも来ていることからも、地域の集いの場になることができるようにも思う。

東大の新聞研究所を出たが、新聞社への就職試験に落ち、お見合いでエンジニアと結婚したが、娘が4歳のときに死別したが、夫の会社の広報宣伝課に勤務したことから、言葉の魔術師樋口恵子が誕生したという。著者の本領発揮のエッセイであるように思った。人生100年時代のヒントがつまっている。




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