番外編)うちのお兄ちゃん
2つ上の兄との再会は3年ぶりだけど、相変わらず太っていた。
お兄ちゃんは太っているけど清潔感がある。
顔は中川家の礼司を親しみやすくしたような感じで、身長は私の方が5mm高い。
肌は白くてもちもち、毛穴は目視できない。
人のカタチの風船をふくらませたような愛嬌のあるフォルムをしていて、とにかく首が太い。
その時々で太っている理由がコロコロ変わるお兄ちゃんだが、今太っている原因は甘い飲み物(いちごオレとか)のせいで、家の隣に出来たコンビニでつい買ってしまうらしい。
健康診断にひっかからないのが不思議でしょうがない。
リプトンの甘いミルクティーを片手に、そう教えてくれた。
お兄ちゃんは19年間ずっと同じアパートに住んでいる。
大学進学で上京してから、220回くらい毎月おなじ口座に家賃を振り込み続けてきたことになる。
もう何人もの住人の入学と卒業を見送ってきたと、目を細めて語ってくれた。
「15年間勤めた職場だけど今後もずっと働くのは無理だと思う…そしたら長野に帰ろうかな」と言うので、体力的に?と返すと、「通勤時間が長い」とのこと。
都内で引っ越せばいいのでは?と思うけど、彼にその選択肢はなぜか存在しない。
お兄ちゃんは18歳から変わらず、家からいちばん近い店で散髪している。
ラッキーなことにおしゃれ夫婦が営むアットホームな美容室に当たったっぽい。
アインシュタイン博士のステッカーを貼った原付きに乗った兄を、不審者にしないでくれてありがとうございますと会ったことないけど感謝し続けている。
趣味は相変わらずゲーム(今はゼルダ)とドラゴンズ。
中日の二軍選手の打率まで追っているし、ひとりで名古屋ドームまで観戦に行っている。
数年前からガンプラも始めたらしい。
積みプラの中からその日のやる気に合う1つを選ぶ。
3〜5時間で組み立て終わり、箱に仕舞って、また積む。
パチパチと部品をはめる瞬間に脳汁が出るらしく、塗装は眼中にない。
本人は「質より量派」と自分を称していた。
「そんなひと聞いたことがない」と言ったら、「俺も聞いたことない」とのこと。
この4月にガンプラが趣味の新卒の男の子が職場に入ってきたと喜んでいた。
当然「量より質派」であろうその人に最近カミングアウトしたらしいが、一瞬キョトンしただけで軽蔑された感じは受けなかったという。
いい子で良かった。
小さい頃はお兄ちゃんといっしょによく遊んだ。
裏山の防空壕をこじあけたり、藁で家をつくったり、サワガニとかサンショウウオとか採りに行ったり、野球したり、プロレス技かけられたり…
さんざんいっしょに野や山をかけずり回った。
絵を描くのがとても上手だったし、中学生になった私にブルーハーツやエゴラッピンを教えてくれたのもお兄ちゃんだった。
「おまえのポテンシャルが羨ましいよ」とか、ちょっとよくわからない言葉で高校生の頃から変わらず褒めてくれる優しい兄。
snsは一切やっていないし、テレビもほとんど見ない。(ガンプラに隠れて見えない)
お兄ちゃんは自分が子孫を残すことは諦めたらしい。
わたしが子どもを産んだら、会うたびに子どもに1万円を渡して1万円おじさんと呼ばれたいとか、俺の全財産を突っ込むなどと言っている。
お兄ちゃんと同居すれば、わたしそれで暮らせるみたい。
お兄ちゃんが長野に戻ってきたら、日本全国いろんな場所で雑談しながらキャッチボールをする中年兄妹YouTuberになろうと約束をして別れた。
お兄ちゃんとはもう数え切れないほどキャッチボールをしてきた。自信はある。
だけど、便利な都会はめんどくさがりでシュールなお兄ちゃんをまだしばらくは離してくれなさそう。
早く帰ってこないかなーと、今日もハシゴの上から東の方を向いて肩を回す妹なのでした。
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