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K君への手紙1)いまひきこもってるK君へ

 やっほー。ひさしぶり。
 小学校ぶりかな? あ、違う、かかわりはあんまりなかったけど、中学と高校も一応おなじだったね。
 わたし? わたしは、いまは「やまのうえのきのこ」ってペンネームで活動してるんだよ。Twitterで絵を発表したり、グッズを売ったり…。
 いや、ぜんぜん儲からないよ(笑) 無収入。そうだな、たまに知り合いが買ってくれるくらいかな…。

 突然、K君のことを思い出して、お手紙書いてるよ。瓶につめた手紙を、ネットの海に放てば、ひょっとしたら届くんじゃないかって。

 うーん、なにから書けばいいのかな…。
 元気にしてる? ご飯の味はする? お母さんが作ってくれてるのかな、自分でコンビニにでも買いに行ってるのかな。おいしく食べれてたらいいんだけど。
 眠れてる? いや、寝れないよね(笑) ごめん。

 ごめんね、いまの君をなんにも知らないのに、わかったようなことを言って…。
 じつはわたしもさ、大学はいってメンタルを病んで、慢性のうつみたいな…、いや結局、病院に行きたくなくてさ、診断名をもらっていないから、よくわかんないんだけど、身体も精神もわりとコマギレの、ひき肉ミンチみたくなったからさ、K君もきっとしんどいだろなぁと、憶測ですが思ったわけです。

 眠れないのがいちばんつらかったな。なんたってさ、寝れないんだよ。朝が来ない。寝ようとしてもさ。
 それで、眠れないから疲労も抜けないしさ、頭じわじわするし、なんだろ…。頭脳明晰の真逆なんだよね。わたし、こんな頭わるかったっけ、って呆然とする。けっこうさ、自分でいうのもなんだけど、わたしもK君も頭いい方だったじゃん。学校の成績もよくてさ、優等生ポジションだった…。そういう人が、急に頭の回転わるい自分を自覚すると、よりどころを失うというかさ、自分のアイデンティティが揺らぐんだよね。ぐらぐら。今までの自分の存在価値を失う感じ。

 K君もそんな感じする? どうだろ。
 わたしは、したよ。大学の最後にね、卒論書かなきゃいけないんだけどさ…。それまでの大学生活では、小中高どおり、成績もよくて、頭いいポジションを確保できてたんだよ(笑) でもね、卒論でさ…、卒論でも、いいもの書かなきゃ!って気張るあまり、眠れなくなって、本の内容が頭に入ってこなくなって、ますます焦って、眠らずに勉強して…っていう感じで、わたしは悪循環に入ってしまった。
 まったく…。今思えば、休むのが下手だったな。上手に手抜きするとかじゃなくてさ。上手にからだの力を抜いて、息を深く吸って、安心して眠ることが不得意だった。だれもそんなこと教えてくれないんだもんな。学校でそういう技術を教えてくれよ(笑) がんばってがんばって、気張って気張って、力んで努力しても、労多くして実のり少なしだよ、って、だれか教えてくれたらよかったのになぁ…。

 うちの親はさ、努力して努力して、苦労して苦労して、報われたタイプの人間だったから(たぶんね、わたしの見てるかぎり)、子どもにもせっせとハッパをかけたんだろうなぁ。父親もね、不登校になったことがあったらしいんだよ。あと、鬱になって休職したりね。でも、まあ、がんばって乗り越えてきて、そんで今は地方の公立中学で教員やってるような人だからさ、やっぱり、子どもにも、「がんばれ、困難を乗り越えろ」って言っちゃうよね。しょうがない、しょうがない。うちの家族は、みんな努力家で、なんやかんや優等生ポジションなんだよ。社会における優等生ポジションを、ずっとキープしてる。
 だから、それを失うのがこわいんだと思う。こわいというか…。どういう感じか、想像もつかないんだろうな。そういう不安感があるの。未知だからこその恐怖感が…。
 そういうのがさ、子どもにも感染っちゃうんだと思うんだよね。子どもが、優等生ポジションを失いかけているときに、もう、なんか、この世の終わりくらいの恐怖感があるんだと思うの。うちの家族はおわりだーっ、みたいな。
 過敏、そう、過敏なんだよね。親の反応が、だよ。
 けっこうさ、子どもの反応が過敏みたいに言われるじゃん。でも、子どもって、周りの反応から学んでいるものだからさ。子どもの中にあふれるような不安感があるとしたら、その起源は、まあ親とか周りの大人たちでしょうな。
 たぶん、家族や親せきのなかに、ひとりでも、なんか…、大企業辞めて、脱サラして田舎でのんびり楽しく農業してます、とか、ヒッチハイク得意で、世界中旅しながらライターしたりしてます、とか、そういう…わけわかんない人がいたら、ちがったんだと思う。
 あ、学校うまくなじめない? 就活うまくいかない? まあなんとかなるよ~、あの人もけっこうなんとかなってるみたいだし、ってね。さらっと受け流せたんじゃないかな。
 K君の家庭環境は、わたしはほとんど知らないけど、でも、けっこういい感じのおうちに住んでたから、わたしの家族とも似たようなところがあるんじゃないかと思って…。全然ちがってたらごめんね。

 長くなっちゃった。だいじょうぶ? 疲れてない? 
 あんまり画面をずっと見ててもよくないからね、今日はこのくらいで切り上げるよ。(ん、君は疲れてないって? わたしが疲れたんだよ…(笑))
 また手紙書いてもいいかな? 返事なくても、また書いて送っちゃうかも。うん、近いうちに、また手紙かいて送るよ。書く内容が特になくても、なんか書いて送る。
 とりあえず、K君がどこかで生きてて、これ読んで、ちょっとでも呼吸が楽になってくれたらうれしいかな。
 今夜はよく眠れますように。じゃあ、またね。

                           20XX年X月X日
                         やまのうえのきのこ


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