見出し画像

水族館で働きたいあなたへ

「水族館で働きたい!」そんな夢を持っている人へ、僭越ながらメッセージを贈ります。役に立つかはわかりませんが、一つのケースとして考える材料にしてもらえたら嬉しいです。

こんにちは
私は北海道の北見市という街にある「北の大地の水族館(山の水族館)」という小さな淡水魚の水族館で館長をしています。毎年何人もの進路に迷う方からTwitterのアカウントにDMをいただきその都度できる範囲でお答えしてきました。この記事ではなるべく普遍的な内容で、水族館で働くための進路に関してどう考えればいいのかをお話したいと思います。

1.水族館でなにをしたいのか

まずはここから始めましょう。一口に水族館と言ってもうちのような小さな水族館を除けば、飼育員やトレーナーや獣医師だけでなく、案内係、企画、広報、営業、など様々な職種の人が働いています。あなたが水族館でやりたい仕事はなんでしょう?もし自分のやりたいことが水族館の中でどんな職種に当てはまるのかわからなければ一番近くの水族館に問い合わせたり、実際に行ったときに聞いてみるのもいいでしょう。きっと答えてくれるはずです。ただし本稿では基本的に飼育員やドルフィントレーナーなどの動物と直接関係する仕事について解説をしていきます。

2.私の場合

イレギュラーなタイプなのであまり参考にはならないかもしれませんが、まずは私がどのようにして今の水族館へと入ったのかを書いておきます。
簡単に経緯を書いておくと、農業高校→専門学校→大学と進み直接今の職場へと就職をしています。
高校時代は農業高校で小学校からずっと勉強は苦手だし嫌いでした。小さなころから生き物が好きで自室ではずっと水生生物を飼育していたこともあり、水族館の飼育員になりたいなとぼんやり考え、勉強しないでも入れる地元の専門学校(水族館飼育員のコースがある)へと進学しました。
専門学校時代は実際に多種多様な生物を飼育したりときには海外の水族館を見に行く機会などもあり、それはそれで勉強になったと思っています。しかし、転機は専門学校1年生の春休みでした。友人3人と車中泊をしながら様々な水族館をめぐる旅をしている中で訪れたある東北の水族館に一目惚れをし、旅から帰るなりその水族館へと実習の申込みをしたところ、そこは(少なくとも当時は)専門学生の実習を受け入れていませんでした。また別の九州の水族館でも同じように実習の受け入れを専門学生だからと断られたことがありました。このとき明確に、自分が考える「良い水族館」に勤めるには大卒である必要があるのではないかと思い始めました。また単に大きな生き物をたくさん飼育する現場で働きたいという気持ちから、多くの人に野生で生きる生き物の魅力を伝える場としての水族館で働きたいという考え方に変わったのもこの時期でした。
ちょうどその頃、懇意にしていた専門学校の先生から、水族館で社会教育や標本の管理を担当したり展示や研究を主導する「学芸員」という資格があるので君は大学へ進学してそれを取得してはどうかとアドバイスを受けました。そうして北里大学の海洋生命科学部へと進学を決めました。
具体的に私が大学へ進学してよかったと考える点、水族館就職に有利だったと思う点は以下の3点です。
・勉強の仕方を学べた
・最先端の向上心ある先生と出会えた
・自然と向き合う方法を学べた
最初に書いたとおり、私は勉強が苦手で嫌いで成績は悪かったです。小中学校までに全く勉強をしていなかったため、大学で体系的な「学問」を学べたことは今仕事で必要な勉強をする上でも大いに役立っています。また大学は専門学校とは違い研究施設という側面も持っているため、専門学校とは比べ物にならないレベルの先生、教育環境、研究環境が揃っています。また実験やレポートを通じて日本語力の向上や科学的な思考を多少は身につけられたと感じています。
様々な研究や授業を通じて多様な人と交流を持つことができたことも水族館の就職に有利でした。事実、恥ずかしながら不出来な人間のため就職活動はうまくいかず、結局は研究室の先生のコネで就職をしています。

3.大卒か、専門卒か

相談内容で一番多いのはこれです。多くは専門学校に行こうと思っているが大卒の方が良いかという相談です。結論から言ってよほどの場合を除けば大卒の方が良いでしょう。向上心が強く、目的が明確で、勉強が好きで得意な方は専門学校だろうと大学だろうと関係ありませんが、迷っているなら大学をおすすめします。上の項でも書いたとおり、勉強の仕方や研究者との交流は大学のほうが得られるものが多いです。あなたがもし水族館が博物館であり研究施設であり社会(※1)教育施設であると考えているのならば、そしてその中で働きたいのであれば答えは自ずと導かれるでしょう。
ただ、もちろんいくつかの例外があります。ここでは一つだけ、ドルフィントレーナーだけを目指す場合です。その場合は専門学校のほうが有利でしょう。なぜならドルフィントレーナーは女性が多く離職率が比較的高くその多くが有期雇用契約でかつ即戦力が求められる事が多いためです。専門学校のドルフィントレーナー養成コースは現場で必要な知識を一通り教えられる他、長期間の実習なども可能なため園館側も雇用しやすく、ドルフィントレーナーになる事だけを目的とするならば、専門学校進学の選択は悪いものではないでしょう。

4.資格は必要か

相談内容のツートップに数えてもいいでしょう。資格は必要ですか?についてです。飼育員やドルフィントレーナーになりたい場合、これに関しては過去の水族館の求人を確認しておけば問題有りません。普通自動車運転免許、潜水士、必須で求められるのはこの2つ程度です。あとの資格はあったほうが良い程度だと考えてください。そんなことよりもあなたは何ができるのか、自分にしかない価値を作る方が遥かに重要です。

5.最後に

最初に書いた通り、あなたが水族館で成し遂げたいことはなんですか?
自分が魅力的だと感じた生き物を、自然の世界を、その価値を世に知らしめたいと思っているのであれば、水族館人という世界を選択しても良いのかもしれません。そして、水族館人になるというのはゴールではありません。日々目の前の生き物と向き合いつつ、よりよい展示を考え、論文をよみ自然を感じ、その成果を発信する。アップデートされ続ける自然科学を翻訳し来館者へと正しく楽しく伝える、それが水族館の本質だと私は思っています。欠員募集であること、なりたい人が多いことから正職員として採用されることは狭き門とも言われます。正しく準備をして天命を待つことしかできない部分もあるでしょう。水族館就職に正解も近道もありません。それでも水族館で成し遂げたいことがある、という人は学生のうちに自分のやりたいことを貫ける自分を作ってください。そして興味関心を広く持ってください。クラゲが好き、ペンギンが好き、イルカが好き、大いに結構です。でもそれらの命は繋がっていて、生き物は単体では生きていないし、水族館では自分の好きな生き物の担当になれるとは限りません。色々な角度から好きを見つめられる人になってください。応援しています。

※1.「社会教育施設」の「社会」が抜けていました。ご指摘がありましたので加筆しました。5月31日13:45

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?