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ナザールは合法ドラッグだ


ナザールという薬を知っているだろうか。


鼻水や鼻づまりのときに直接鼻に噴射することで鼻のとおりをよくしてくれる点鼻薬だ。

友人が使っていたので名前ぐらいは知っていたが、実際に使ったことはなかった。鼻に薬を噴射している様は少し滑稽だし、鼻に水が入るのは水泳だけで十分だと思っていた。


しかし今年は違った。去年の3倍の花粉の量だと聞いた。去年も一昨年の6倍なんて言っていたが、どこまで増えれば気がすむのだろうか。

小学校から花粉症を患っている僕も今年は特につらかった。会社の同僚とランチに出かけただけで、すぐ鼻水ダラダラの状態になっていた。

そんな僕を見て同僚が「ナザールいいよ。」と教えてくれた。

僕が「なんか怖くない?」と一瞬拒否しても、「一回だけなら大丈夫。すぐやめられるよ。」と少し強引に誘ってきた。

正直怖い気持ちはあったが、鼻水がつまってつらい現実を忘れたかった。一度だけなら大丈夫かと思い、その足で薬局に向かった。


購入してすぐ同僚と一緒に、ナザールを鼻に噴射した。最初は鼻にツーンときたが、数十秒もたたないうちに鼻のとおりがよくなってきた。僕の体質と相性がいいのか、完全にキマったようだ。

そこからの僕は久々の快適な呼吸を楽しんだ。パソコンで作業をしても、打ち合わせをしても、いつもより楽しめた。これがハイになるということか。

しかしそんな時間も束の間。ほんの1,2時間で効果が切れてきた。鼻水が出てきたのだ。

ただもう僕にはナザールがある。鼻水なんて怖くない。さあナザールをキメようとしてナザールの裏面を見たところ、【使用間隔は3時間以上あけてください】と書いてある。


絶望である。


もう僕はナザールなしでは生きられなくなってきていた。1日24時間で3時間おきにキメるとしても1日8回しかキメれない。睡眠は二の次だ。

そんなことを考えながらもう少し詳しくナザールの説明書を読んでみると、【1日の使用回数は6回までにしてください】と書いてある。

僕は同僚の元に走った。するとそこには先ほど同じタイミングでナザールをキメていた友人がすでにナザールを鼻に注射しているところだった。

「おい3時間間隔で1日6回以内を守らなくていいのか...?」僕の不安そうな質問に同僚は「俺は15回はヤッている。大丈夫。みんなヤッてることだから。」と花粉症で赤くなった虚ろな目で答えた。

僕は鼻水の混じった唾をゴクリと飲み込みながらも、ナザールを鼻に差し込んだ。



それからの僕はナザールをキメることだけに夢中になっていった。一度キメたその瞬間から頭の中は次のナザールのことでいっぱいだ。

次はあと3時間か、少しだけなら早めにキメてもいいだろう。そんな考えでどんどんナザールの量は増えていった。毎年増える花粉の比ではない。

特に夜が快感だった。ナザールをキメてから布団に潜り込んで行う睡眠は完全にトンでいた。朝までトンだまま帰ってこれないくらいだった。意識のないまま幻覚を見ることも多々あった。完全にトリップしていたのだ。


しかしその反動は大きかった。

トンでいる間はナザールをキメることができない。つまり鼻水がどんどんつまっている状態だ。意識のない中、口呼吸だけを続けるので、朝には喉が完全にやられていた。

目が覚めたときには首から下がなくなっているんじゃないかと思うくらい喉がカピカピに乾いていた。完全にバッドトリップだ。気分はダウナーだ。

起きてすぐ、急いでナザールをキメる。そんな毎日だった。


このままではダメだと思い、ついに病院に足を運んだ。精神病院か耳鼻科か迷ったが、素直に耳鼻科にいくことにした。

そこには多くの患者があふれていた。子供から年寄りまで多くの患者がナザールを使った自分を恥じているようだった。全員マスクをして顔を隠し、鼻声にして声色を変えていた。さらによく見ると目が充血していた。おそらくナザールをキメすぎた副作用だろう。


長い間待たされてついに医者と対面する。体と頭を固定できる椅子に座らされる。おそらくナザールが切れた患者が暴れることがあるからだろう。

そこで症状を聞かれて鼻づまりと答えると、医者は僕の鼻に管をとおしながら、「あれ意外と鼻水ないですね。もしかしてナザールやってます?」と尋ねてきた。

「やばいバレた。」僕は頷くことができず、冷や汗が止まらなくなっていた。ナザールを使う前の鼻水くらいでていた。

そんな僕を見て医者はゆっくりと諭すように、しかしそれでいて力強く話す。


「ナザールは使い過ぎるとさらに鼻がつまるのでやめてください。」


僕は驚いて言葉がつまった。言葉のつまりも喉にナザールを噴きかければ治るかなと思ったくらいナザールを信じきっていたからだ。

鼻のつまりを改善する薬によって、鼻がつまるとはどういうことだ。僕の頭はナゾでいっぱいだ。ナゾがナゾを呼んでいる状態で混乱していた。

そんな僕を横目に医者は続けて薬の説明をしていく。

「飲み薬と一緒に点鼻薬をだしておきますね。ナザールをやめて、1日1回こっちの点鼻薬を使ってください。」

僕は頷くことしかできなかった。ナザールを恋しく感じながらも出された処方箋に目をとおす。新しい点鼻薬とはどのようなものだろう。




ナゾネックス!!!


僕はこれからも、さらにドラッグっぽい名前の薬をキメてトブのだ。



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