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ソリューション・ジャーナリズムを試みる ―震災と原発事故の伝え方― scene44


 「ここのところ明るい番組ばかりを制作してきたなぁ」
そんなことを思うようになっていた。「畑の味のフレンチ」からはじまり、「まちのうた」「あさイチ」「ふくしまパラダイス」「被災地 極上旅」。これらの番組が観光や食の風評被害を払拭する一助になると信じ、自分以外に明るい番組を作る人がいないこともあり、せめて自分ぐらいはと思って制作してきた。気がつけば1年半が経過し、震災からまもなく5年を迎えようとしていた。相も変わらず、福島を取り上げる番組は“重い”ものばかりだった。放射能への不安、避難の苦しさ、戻れぬ故郷への喪失感。どこかで見たような話ばかりが繰り返されている。避けては通れないとはいえ、もっと何か違う方法があるのではないか。もし、自分がジャーナルな“重い”番組を作るならば、いったい何を作るだろうか。重く暗い番組だとしても、作るべき番組はこういうものなんじゃないかと提示したいという思いが生まれていた。視聴者にとってすでに見たことあるような気にさせない、それでいて「福島の人たちを幸せにする」テーマ。浮かんだ答えが1つだけあった。東京電力。

 半年前に制作した「あさイチ」でも取材し、短いVTRで取り上げたが、プロデューサーや出演者から「どう捉えていいのかわからない」と言われてしまい、不完全燃焼に終わった。原発事故を防げなかった原因企業として、事故直後から激しいバッシングを受け続けている東京電力。現在、裁判が進められている津波の予測やその際の対応、原発事故の後のケアなど批判を受けてしかるべきだということはわかる。ただ、この5年の間に「東電は許せない」という空気が浸透しすぎているようにも感じていた。実際に「東電が悪い」「許せない」という言葉を聞いたり、SNSで目にしたりすることもあったが、そのたびに違和感を抱いていた。許さないって、どういうこと?なんで許せないのだろう?いったいどうやったら許してもらえるのだろう?許すかどうかを判断するために知ろうとしているのだろうか?東京電力は、原発事故を考える上では欠かすことができない要素である。原発事故を引き起こした当事者なのだから。にもかかわらず、この5年間に報じられる東電は記者会見や避難所での謝罪、原発事故対応のミスなどばかりで、限定されたものではなかっただろうか。社員がどんな思いをしているのか、福島第1原発周辺で東電と住民がどんな関係になっているのか、加害企業としてどんな行動を取ろうとしているのか、メディアで語られることはほとんどなかった。東電が頑張っていることや、東電も苦しんでいることなどを伝えれば、「なぜ東電を擁護する!」と報じる側に矢が飛んでくることを恐れていたからだろう。その結果、東電は許されない存在でありつづけた。

 「東電なんか潰してしまえ」「社員の給与をもっと低くしろ」、そういう気持ちはわからないでもないが、潰れてしまったり、社員が続々と辞めてしまったりしたら避難者への対応や原発事故の後処理を誰が担うのだろうか?代わりにやってくれる人などそうはいないだろう。原発事故を防げなかった当事者だからこそ、その自覚を持ち続け、反省すべきところは反省し、二度と同じような事故を繰り返さないために行動し、避難者の生活を再建するためにしっかりと対応することが福島県で暮らす人たちの幸せにつながるのではないだろうか。そのためには「許さない」と糾弾しつづけるのではなく、どこが悪いか、どういう会社であってほしいのかをきちんと指摘できるような、東電と新しい関係を築いていく必要があるはずだ。そして、東電との関係を見つめ直すということは、原発のあり方を見直すことでもある。柏崎刈羽原発、当時はまだ廃炉が決まっていなかった福島第2原発を抱える東京電力、廃炉か継続かをイデオロギーの闘いにするのではなく、冷静に話し合える環境も必要だろう。もし、原発を継続するならば、再び安全神話に陥らないためにどういう施策が必要か。万が一同じような事故が起きたら周辺住民にはどういう避難計画を用意しておくべきか。そして賠償をどうするのか。綿密に詰める必要があるし、そのことをチェックし続けていくことも必要になる。逆に廃炉にするとしても、代わりとなるエネルギーをどうすべきなのか。それは実現が可能なのか。考えていかなければならないことがある。原発事故があったからこそ、感情的に主張するのではなく、メリットとデメリットを知り、この国の未来に思いを馳せ、国や東電だけに任せず、冷静に議論を積み重ねていくべき問題だ。加えて、首都圏で暮らしたり働いたりしている私たちのエネルギーを供給しているのは東京電力だったわけで、消費者としての責任もあるはずだろう(沖縄を除く大手電力会社は原発を持っているのだから、首都圏だけに限らない)。しかし、冷静な議論が進んでいるようには見えない。その免罪符となっているのが「東京電力は許せない」という主張なのではないか。原発事故の責任をすべて一企業に負わせることで、消費者の責任から逃れてやしないか。一度冷静になるために、東京電力を見てみよう。東京電力への取材を通して浮かんだ疑問。「東京電力だけが悪かったのだろうか」。そのことを問い直すための番組を作りたい。

 東京電力の番組を作るとなれば、さすがに明るい雰囲気のものにはできない。“重い”番組となるだろう。ただ、視聴者からは「見たことなかった」「知らなかった」と言ってもらえる興味深い番組になるだろう。そして、これまで語られてこなかったからこそ何かに気づいてもらえる可能性を秘めた番組にもなるだろう。そう思って、「あさイチ」の時にお世話になった東京電力の広報に電話をかけた。私が取材したいと伝えたのは、福島県の復興のために東京電力が立ち上げた東京電力復興本社の「復興推進活動」。避難指示がだれた区域の清掃などを社員が行う活動だ。広報のKさんはこう答えた。
「え、本当ですか?誰も取材してくれないんですよ」。

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