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送りバントについて

僕は、送りバントに対してあまり価値を見出せません。
例えば、初回やイニング前半から中盤にかけての無死一塁での送りバントは作戦や複数得点の可能性を自ら狭めているような攻撃だと感じるので、送りバントをする価値がないと思ってしまいます。
価値を見出せない理由は、以下の通りです。


上の3つの理由を見て、バント肯定派の皆さまがいらっしゃったら、ゲッツーの可能性を減らし、1点をより確実に取りに行く場合を考慮されていることと思います。
 僕は全てのケースで送りバントを否定したい訳ではないことだけは、根拠を述べる前に分かっていただきたいです。
トーナメントなどのような、負けたら終わりの試合での1点を争う終盤戦や、プロ野球ならセリーグでいったら投手の前の打順のバッターが出塁したケースでは、送りバントをした方が良いと思います。
絶対にありえない話ですが、申告敬遠のように申告送りバントというルールがあれば送りバント肯定派に考えを変えるでしょう。

今回は、プロ野球のデータと、データサイトであるプロ野球データパークさまの状況別得点期待値(https://baseball-datapark.skr.jp/2023y/arekore/run-expectancy/)と個人集計によるデータを用いています。
打者や走者、イニングや相手投手などの様々な要因によって作戦選択はなされますが、考えやすくするために、主に昨シーズンのプロ野球データの平均値を用いて送りバントの価値について書いていきます。

送りバント肯定派の方にはもちろん、送りバント否定派やいらっしゃるか分かりませんが中立派の方もご覧いただけますと幸いです。

・送りバントをしても100%成功するわけではない

野球を何試合か観ていれば一度はバント失敗を見たことがあると思います。実際どのくらいの確率でバントが成功するのか、調べてみます。
プロ野球のバント成功率は大体70%程度と言われていますが、昨シーズンのバント成功率を算出してみました。

2023年シーズン1年間のバント成功率は下記のとおりです。
セパ合計バント成功率:83.1%
セリーグバント成功率:82.2% (投手のみ:78.3%)(野手のみ:83.8%)
パリーグバント成功率:83.9%(投手のみ:66.7%)
※パリーグ投手のバントは交流戦で3回企画され2回成功しています。

野球観戦中はバント失敗のイメージが強く残るので、個人的には思ったよりも成功している印象です。

しかし “バントを試行して2ストライクに追い込まれてからヒッティングに作戦を変えた場合” は、記録では送りバント企画にはならないので、バント成功率には影響していません。
送りバントが内野安打になった場合も、記録が安打になるのでこの場合もバント成功率には影響しません。(この辺りは考え出すと守備側のエラー等も考慮しなきゃいけなくてキリがありませんが。)

打者によりバントの上手い下手はあるのはもちろんですが、1アウトを犠牲にする作戦が8割程度の成功率ということがわかりました。

8割といえば、かなり確率が高い印象を持つ方もいらっしゃると思います。例えば、無死一塁の状況が併殺により二死走者なしになってしまうケースを想定すると、8割の成功率でも送りバントの有効性があるように感じる方も多いのではないかと思います。

ここからは、得点期待値というデータを見ながら送りバントについて言及していきます。

・多くの場面で、送りバントをしても得点期待値が上がらない

得点期待値とは、1イニング中に平均して何点取る望みがあるのかをケース別(アウトカウント、ランナー別)に算出した値です。

2023年一年間の各ケースの得点期待値は以下の通りです。得点期待値の表を見ると、アウトカウントが一つ増えるだけで得点期待値と得点確率がかなり下がることがわかります。

状況別得点期待値 (括弧内は得点確率)

送りバントの是非について考えるために、無死一塁と一死二塁の得点期待値を比較してみます。
無死一塁:得点期待値=0.696(得点確率=36.0%)
一死二塁:得点期待値=0.578(得点確率=36.3%)

2023年シーズンでは、無死一塁と一死二塁のケースの比較では、一死二塁の状況の方が得点確率はわずかに上がりますが、得点期待値は無死一塁に比べて下がっています。
得点確率についても無死一塁よりも0.3%差とほとんど誤差の範囲内で、得点期待値が0.1点以上下がっています。前述のとおり送りバントの成功率は80%程度ですので、極論ですが無死一塁で送りバントをすることは、20%失敗のリスクを抱えながら得点期待値や得点確率上あまり変わらない状況をつくろうとしている非合理的な選択だと考えます。
もちろん、投手の打順や打率の低い打者に対して送りバントをさせるという選択は間違っていないと思いますが、無死一塁では送れば状況が好転するというわけではないことがお分かりいただけると思います。

得点期待値を見てバントをする価値が十分にあるケースは、無死二塁と無死一二塁のケースだと思います。そして無死二塁のケースでは、二塁走者はサードでのアウトの仕方はタッチプレイなので併殺が殆どないため、右打ちによる進塁打、あわよくばヒットによるチャンス拡大を狙う方が合理的ではないでしょうか。

・作戦を限定させるため、盗塁や連打などでのアウトにならないチャンス拡大の可能性がなくなってしまう

送りバントが成功したらヒット1本で得点できる可能性が上がるという点や、打って併殺だったらチャンスを潰してしまうなどの考えに関しては間違いではないと思いますが、送りバントはスリーバントがファールだとアウトになってしまう性質上、作戦選択としては基本的には初球からバントの企画をします。そのため、作戦に含みを持たせることが難しくなってしまいます。(バスターなどはたまにありますが)
僕が感じる送りバントの最大のデメリットは、盗塁成功によるチャンス拡大や、無死一二塁などへのチャンス拡大の可能性を潰してしまう点にあると考えています。では、実際のチャンス拡大の確率はどの程度なのかこちらも平均値を見ていきましょう。

昨年の各リーグ打率、出塁率、盗塁成功率を下記に記載します。

セリーグ平均打率.244
セリーグ平均出塁率.306
セリーグ平均盗塁成功率.652
パリーグ平均打率.241
パリーグ平均出塁率.309
パリーグ通算盗塁成功率.686
(セリーグの方が、平均打率が高かったことがかなり意外でした。)

ざっくり考えると、プロ野球では平均して30%の確率で打者が出塁できるということが分かります。無死一塁から送りバントをしない場合、平均して30%の確率で無死一二塁以上の状況を作ることができます。上の得点期待値や得点確率を見ると、無死一二塁を作れた場合、平均して1点以上は得点が期待でき、50%以上は得点が見込めます。

さらに、平均して65%で盗塁が見込めることを考慮すると
無死一塁の状況で
・送りバントをして80%の確率で一死二塁(得点期待値=0.578(得点確率=36.3%))の状況をつくる
・盗塁をして65%の確率で無死二塁(得点期待値=0.970(得点確率=59.4%))の状況をつくる
この2パターンを考えたときに、80%で成功しても得点確率が36.3%なら、65%の成功率でも、59.4%の得点確率の状況を目指した方がリスクに対してのリターンが大きいと思いませんか?

・最後に
今回は、送りバントについての自分のなかでの抽象的な考えを言語化しようと思い書き始めましたが、データを調べたり集計して考察していくうちに無死一二塁の状況ではバントが有効だとわかったため「結論としては状況によっては有効だった」という微妙な結果になり、有効性を見出せない状況に対してのみ否定的な考えを持つ、部分否定派になってしまいました。

用いるデータがすべて平均値だったため、バント成功率や盗塁成功率、打率や出塁率の考えとして実際の試合中の状況(打者、走者、投手によって当たり前ですが変わります。)とのズレはあり、机上の空論というよりは机上の暴論になってしまいましたが、参考程度にご覧になってください。

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