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歴史民俗資料(文化財)の受け入れと収蔵(奈良県の事例から)

奈良県立民俗博物館が、空調の不具合等から臨時休館することが決まった。空調の故障で収蔵資料に影響が出るかもしれないという。今回は、それに関連した山下奈良県知事の発言が波紋を呼んでいる(詳細は下記記事参照)。

奈良県立民俗博物館

奈良県立民俗博物館を巡る奈良県知事の発言に対して、自分も専門家の端くれ(学芸員資格を持つ者)として声を上げているが、別に知事が維新の会所属だから敵視しているわけではない。維新の会支持者になぜか文化財に対する解像度が低い人が多いのである。
かつて、橋下知事時代の大阪府が、文楽(重要無形文化財)への補助を凍結したり、それに前後して美術館設立構想の頓挫後に現代美術品を地下駐車場で保管していた実態を見ればわかるだろう。

もっとも、一般市民は基本的に文化財には無頓着なものなので、そうした層にどうやって文化財と文化財保護の大切さを伝えていくかは我々学芸員の重要な使命。ただ、上記例から見てわかる通り、身内である公務員や議員、首長に文化財への理解がない場合があるので、一般市民より先に、そちらへの普及啓発が必要だったりする。外に向かって啓蒙を進めていても、足元が無理解ではどうしようもない。
資料を無尽蔵に受け入れることは現実には無理なので、どこかで取捨選択の線引きが必要なのが実情。実際に、焼印や墨書があるなど、資料価値がより高いものに限って受け入れている自治体もすでにある。収蔵庫確保の問題もあり、収蔵資料の選択破棄も最終手段として必要かもしれないが、文化財保護の理念からすればそれはあってはならないこと。博物館に収蔵されているということは、文化財としての価値が充分認められたということだからだ。それに、比較研究のため、民具は(いや、民具に限らず資料は)一定数を確保しておく必要がある。製造元の違いによる差異などもあるので、標本が一点あればいいというものではないのだ。鉱物だって、産地の違うものを複数集めるだろう。それと同じである。

博物館の収蔵庫(熊本)

しかし、現状は集めた資料が展示や活用がされないまま死蔵されているのが殆どで、もったいない話である。そのような状況であってみれば、「同じものを複数所蔵していて何の意味があるのか」という疑問が出てくるのは自然である(今回の場合、その発言が普及啓発する側である自治体首長から出たのが問題だと思う)。死蔵されている民具に、なんとか活用の機会を見出してやりたいものだ。


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