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推理小説の歴史(日本編)

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日本における最初の推理小説は黒岩涙香の短編「無惨」である。19世紀の作品としては、他に「あやしやな」(幸田露伴)、『活人形』(泉鏡花)がある。
日本で推理小説が本格的に書かれるのは1910年代以降で、その嚆矢となったのは岡本綺堂の『半七捕物帳』シリーズである。次いで、1920年に谷崎潤一郎が「途上」を書いている。この頃、小酒井不木が登場し、実作の傍ら江戸川乱歩らを見出す。江戸川乱歩は「二銭銅貨」で鮮烈なデビューを飾り、「D坂の殺人事件」「心理試験」「屋根裏の散歩者」などの傑作を次々に発表した。同時期に活躍した作家に甲賀三郎、濱尾四郎がいる。
1930年代は短編推理小説の黄金時代で、小栗虫太郎、木々高太郎、海野十三、大阪圭吉らが活躍した。この頃は長編推理小説の黎明期でもあり、多くはサスペンス色が強かったが(江戸川乱歩の通俗長編など)、蒼井優『舩冨家の惨劇』は本格推理小説の傑作として高く評価される。他に森下雨村『白骨の処女』、濱尾四郎『殺人鬼』などが知られる。この時期にアンチ・ミステリーの大作『ドグラ・マグラ』(夢野久作)が書かれているのは驚きである。
1930年代末に入ると、言論統制の中で探偵小説への風当たりが強くなり、多くの作家が時代小説の皮を被った「捕物帖」に流れることになる。

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