第67回: めっちゃエエで! (Apr.2021)

 2020年3月末のロックダウン入りから1年が過ぎたこのタイミングで第二波襲来。夜10時以降は外出禁止のNight Curfewが発令され、新規開店のルーフトップレストランも従業員の帰宅時間に配慮して9時閉店。これまで何度となく再ロックダウンが囁かれたBengaluruだが、全域に強制措置が出されたのは一年ぶりだ。賑やかな日常が戻っていたが、思いがけず静かな夜が続き、同時に暑さも一段落。一雨降れば本格的なマンゴーシーズンの到来となりそうだ。現に目の前の青い実は日に日に育っているし、スーパーには早生種が並び始めた。

 日本もインドも新年度を迎え、Season’s greetingか名刺整理のついでか、久方ぶりのご挨拶を頂くことも多い。日本企業からはCovidによる中断からの仕切り直しや退避帰国からの再着任の報告が主だが、概ね一年近くの時を経て元の状態からの再起動、という話に聞こえる。再びの家族帯同は許されず駐在員本人のみが戻ったり、「リモート引っ越し」を経てそのまま帰任・交替となったり、中には駐在員を返したっきり「現地化します」という話も聞くから、戦略見直しの良い機会となったのかもしれない。

 インド企業からの連絡は相変わらずで、近況伺いや協業案件のフォローアップならまだ良い方。掴みどころのない案件・人物の紹介だったり、日本市場・日系顧客の開拓依頼だったり、唐突な資金援助・出資の依頼だったり。一年ぶりで連絡してきてこちらの都合も聞かず、今日会いたいとか、今週中に返事が欲しいとか。折角、都合して顔を合わせる時間を確保したはずが、先週来の感染拡大を受けて軒並みオンラインに戻したり、といつもながらの臨機応変さが求められる。過去にはそれなりに見知った相手もCovidを受け、どう状況・心情が変わって何を目当てに連絡してきたか分からないから、まずは距離感を測る会話が欠かせない。10年以上付き合った相手からも昨年は散々な目に合わされたのは、改めて市場との付き合い方を学んだ、と肯定的に理解するしかない。

 1月から連載している「ベンガルール通信」、幸いにも一定の関心を得ている様子。業界のプロが未来を考える為のメディアだから、覚え書き、兼、近況報告の「JUGAADのススメ」とは違って気を使う (失礼)。直近の「その4」では、Covid下の1年足らずで「スマホアプリの会社」が世界随一の「電動車メーカー」に変貌していく姿を紹介したが、どれだけの日本企業がこの動きに気付いているだろうか。残された数少ない日本の宝、半導体産業すら手放そうとする昨今、いよいよ改めて、日本の「賞味期限」が迫っている気がしてならない。進まないDXの実態は旗振り役の経産省も自認するから、動機に乏しい日本本社よりも、必然に迫られるインド事業を通じて体得していくのが近道ではないか。1年以上のブランクというかビハインドというかを本気で取り戻すなら、単なる仕切り直しに「+α」が必要だろう。

 新年度に改名されたかつての所属企業、20年前に変革を目指した際と同じ看板を掲げたのは、どういう経緯だろう。どんなに地方へ行っても街角で目にする「一般名詞」であり、文字を解さない庶民すら口にする「動詞」である “Xerox” に代わるのが “Business Innovation” というなら、「インドから始めるDX」に本気で取り組んだ方が良い。

 日本人の多くが不在中のBengaluruで、局所的な日本ブランドの成功例も目撃した。数年来、当地で開発しプロモーションしてきた食品が日本贔屓のインド人にはすっかり「一般名詞」となった様子。日本食フェアでの試食に学び、「これは良い!」と思ったのだろう。ある日、和食店を訪れたら顔見知りのインド人マネージャーが試食して欲しいと「ブランド」を告げて皿を置いた。オリジナルとは味も食感も違うね、と指摘すると、自前開発したという。「ボンカレー」は「カレーパン」の代名詞となっていた。

 先日実施した商談会では “めっちゃエエで!” の価値提案からインドへの売り込みを狙った。「今のインド」に対して、日本は何を提案できるだろうか。

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