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『ファシストになるより豚の方がマシさ』

春休みに姉がヨーロッパへ訪れるというので、行き先を決める参考にしようと思って見返した何度目かの「紅の豚」。
最後に見たジブリ作品である「君たちはどう生きるか」が、個人的に見辛くあまり好きになれなかったこともあってか、エンタメチックかつこころに残るシーンで溢れた今作は、ジブリの中でも特に大事な作品になった。

書きたいことは色々あるが、今作の鑑賞を通して何より再度痛感したことは、「ジブリ作品を鑑賞すると日本語の美しさを再認識できる」ということだ。飛空挺のシーンに見られるジブリ特有の臨場感のあるスピード描写や、愉快で愛らしくて気持ちの良い登場人物達といったエンタメ要素に加えて、多くを語らずとも社会的背景や人物の複雑な人生を仄めかすセリフに、ジブリの日本語という言語で脚本を作る上でのこだわりのようなものを感じられる。

今作主人公の豚、ポルコ・ロッソは、元イタリア空軍のエースパイロットであり、1920〜1930年のイタリアを舞台に退役後は空中海賊を相手にする賞金稼ぎ。作中全体を通して男らしくウィットに富んだセリフが印象的なキャラクターで、この記事の題名にもしたセリフは、ポルコが旧友である軍人・フェラーリン少佐に、空軍に戻るよう説得されるシーンの一言から。

物語の一部にしか登場しないフェラーリン。かっこいい。

フェラーリン「なぁマルコ、空軍に戻れよ。今なら俺たちの力でなんとかする」
ポルコ「ファシストになるより豚の方がマシさ」
フェラーリン「冒険飛行家の時代は終わっちまったんだ。国家とか民族とか、くだらないスポンサーを背負って飛ぶしかないんだよ」
ポルコ「俺は俺の稼ぎでしか飛ばねえよ」
フェラーリン「飛んだところで豚は豚だぜ」
ポルコ「ありがとよ フェラーリン。みんなによろしくな」
フェラーリン「気をつけろ やつらは豚を裁判にかける気はないぞ。あばよ 戦友」

男の友情、第一次世界大戦後のヨーロッパ社会の政治的混沌、双方の信念、色々なことを想像させる最小限のセリフ。すごく心地がいい。

もう一つ、17歳という若さながら職人顔負けの飛空挺整備士としてポルコの力になる(サブ?)ヒロイン・フィオに、ポルコが飛空挺の設計を任せることを決意するシーン。

フィオ。ポルコ行きつけの整備士・ピッコロ親父の孫。
明るく、17歳という若さながらも芯のある強い女性。可愛い。

ポルコ「翼の取つけ角を図面より0.5度増やしてくれ。あとはこのまま進めていい 」
フィオ「やらせてもらえるのね! ありがとう!一所懸命やるわ」
ポルコ「だがな お嬢さん。 一つだけ条件がある。徹夜はするな。睡眠不足はいい仕事の敵だ。それに美容にもよくねえ」
フィオ「フフ…そうするわ」

やはり可愛い。

ポルコの飛空挺に関する知識、プロフェッショナリティ、尊敬の意を伴って少女であるフィオを仕事相手かつ女性として扱う言動、フィオの素直な性格。ここも好きなシーンの一つ。

作中ところどころに戦争、民族、世界恐慌、ファシズムといったキーワードが散りばめられるも、反戦をおおっぴろげなテーマにした映画でもない。恋、喪失、飛行艇乗りの男達の誇りとドラマといった要素から、あくまで大人から子供まで何かをこころに抱くことができる娯楽映画。いつか必ずアドリア海に行こうと決めた。

ちなみにあなたはジーナとフィオ、どちらが好きですか?俺は明るくて力強く、しかし時折弱さや可愛げの垣間見えるフィオがタイプです。かなり。

ホテル・アドリアーノのオーナー、ジーナ。3人の飛行艇乗りと結婚するも、
全員を戦争などで失っている。ポルコの古い友人で、作中彼ととある”賭け”をしている。

こんな感じで娯楽鑑賞のこともいっぱいあげていくつもり。
結構楽しい。


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