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映画レビュー「青いカフタンの仕立て屋」

観終わった後、ジーンとした時間を過ごす。
この何ともいえない愛おしさ、せつなさ、優しさ。
そんな感情が体を覆った。

立場も環境も一致する点はひとつもないが、
こんな夫婦のようになれたのならきっと幸せな生涯。
そんなことを思わせてくれた。

静かに流れる時間は心地いいが、お互いを想う気持ちは辛い。
それが痛いほど押し寄せる。
騒がしい若者の恋愛ではなく、理解し合った大人の恋愛。
いや、恋愛という言葉が軽く聞こえてしまう。

それに代わる言葉が見つからない。
長年培った信頼感に基づいた愛情。
それも適切な表現とは言い難いが、そんなようなもの。
映画を観た方なら理解してくれるだろう。

本作はモロッコ映画。
フランス・モロッコ・ベルギー・デンマーク合作ではあるが、
舞台はモロッコ。
モロッコ作品は初めて観たんじゃないのかな。

昨年のカンヌ国際映画祭に出品され、
国際映画批評家連盟賞を受賞しているが事前情報はゼロ。
ジャストタイミングで観たに過ぎない。

いろんな意味でこの作品を観れたことに感謝。
まずは舞台となるモロッコ。
昨年のW杯ベスト4という知識しか持ち合わせず、
どんな文化なのかも知らず。
伝統的な民族衣装カフタンを通して、
その文化や街並みを知ることができた。

時代設定はいつだろう。
現代ともいえるし、20~30年前ともいえる。
スマホもPCも登場しない。
僕とほぼ同世代の夫婦は仕立て屋を営みながら、慎ましく暮らす。
決して裕福ではないがお互いの愛情に包まれた生活。

しかし、いくつかの問題を抱えている。
ネタバレになるので言いたい気持ちは抑えるが、
その問題に寄り添いながら生きている。
感情に揺さぶられることはなく、静かに向き合う。

それが悲しくも美しい。
男性らしい寡黙さと女性らしい気遣いがお互いを支える要因。
理想的な夫婦像。
乗り越えるハードルを乗り越えない。
受け止めてハードルと共に歩んでいく。
そんな気がしてならない。

タイトルにある「青いカフタン」。
とても美しい。
それを妥協せず丁寧に仕上げる仕上げる職人芸。
これも美しい。

ラストシーンも感動的。
本作は同年代の方に観てもらいたい。
ある程度、人生を過ごしてきたからこそ感じるものがある。

まだまだ知らない世界は多い。
映画を通して国や文化や人間の価値を学ぶことはできる。
観終わった後の余韻を楽しめる作品でもあった。

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