インタビュー「お茶のスペシャリストが考える、人に優しい農業」

静岡県牧之原市の大石製茶の大石直弘さんはお茶を中心に柑橘、紅芯大根を生産している農家です。
お茶は全国茶品評会の深蒸し煎茶部門で牧之原市トップの成績を収めた腕前を持っています。
直弘さんとの出会いは自分が農薬メーカーの営業だったときです。
直弘さんがJAのお茶の指導員に異動になってから、自分は農薬の営業に行ってました。
農家さんを第一に考える姿勢や、職場の周りに対する気遣いなど、リスペクトすべき点が多いと思いながら営業に行っていました。
自分が退職してからも仲良くさせて頂いてます。
JAを昨年3月で辞められて2022年4月からは農家としてスタートを切られたということで、農閑期を狙ってこれまでの経緯や考え方など話を伺ってきました。
(インタビュー実施日2023年1月31日)

元々お茶農家の生まれということで、「いつかは自分がやるだろう」という気持ちがあったそうです。
ただ、なんとなくその時を迎えるというよりは戦略的にキャリアを重ね、満を持して農家になったとのことでした。
そんな直弘さんの強みは生葉生産から商品開発、販売までのすべての流通過程を経験していることです。

通常お茶が消費者の手に届くまでは以下の流通過程があります。
生葉生産→荒茶製造・販売→仕上げ加工→商品開発・包装→市販
一般的には生葉生産から荒茶の製造までを農家が、荒茶の販売をJAなどが、仕上げ加工から市販までをお茶問屋さんが行っており、畑から湯呑までには多くの人が関わっているのがお茶業界です。

直弘さんは農家になる前は、お茶問屋にて仕上げ加工から市販までを、JAで茶販売担当(農家が作る荒茶を売る仕事)と生葉生産、荒茶製造指導担当をしていました。
若手ながらお茶畑から消費者の手元に届くまでのすべての過程を職務経験しており、それぞれの立場のことを理解しています。

直弘さんは前職での経験を活かし、より多くの人に飲んでもらえるお茶作りを目指しています。
「たくさんの人に美味しいと言ってもらうことが農家の喜びだと思ってる」と信念を語ってくれました。
農家として生葉生産から荒茶製造までを手掛けていますが、買ってくれた方が喜んでもらえるように高品質なお茶の製造を心がけているとのことです。

特にこだわりが見られるのは肥料の部分です。
お茶の栄養となる肥料ですが、通常は年に6回施肥するところを8~10回施肥されています。
ただ肥料をやるだけではなく、お茶の成長に合わせたタイミングで適切に選ばれた肥料をあげることでよりお茶の味を引き出しています。

また自分のお茶の魅力を最大限に引き出してくれるようにお茶問屋さんとのコミュニケーションも重要視されてます。
前述のように、直弘さんの作った荒茶はさらにお茶問屋さんの手で市販されるお茶に加工されていきます。
つまり、自分の作ったお茶は自分の手だけでは急須に辿りつかず、お茶問屋さんにその運命を託すことになります。
当たり前ですが、お茶問屋さんが自分のお茶の魅力を最大限に引き出してくれるという信頼と、そのためにはお茶問屋さんが望む形を共有し形にするという信頼が必要です。
「『良いお茶』はお客さんがそれぞれ決めることだから、お客さんの要望に合わせられたらそれが『良いお茶』。自分が良いと言ってもあんまり意味無い。相手(お茶問屋さん)もお茶のスペシャリストなんだから、自分のお茶を1番美味しくする使い方をしてくれる。」とお茶問屋さんの立場も経験しているからこそ、相手をリスペクトし繊細なコミュニケーションをしながら美味しいお茶を提供しようとされてます。

直弘さんの目標はこれまで以上に多くの人に自分のお茶を飲んでもらうこと、そしてより多くの人に美味しいと喜んでもらうことです。
そのためには人と人とのつながりを大切にし、自身も含め、関わる人すべてに優しい農業を目指していくとのことです。
「買ってくれた方にも喜んで欲しい。そのためにはちゃんと継続的な経営をしていかないといけない。自分が継続的に良いお茶を作っていくことが大事」と力強く語ります。
また「自分は色々な人にお茶のことを教えてもらってここま出来るようになった。だから自分が知ってることはどんどん伝えていきたい」と、困っている農家に対して積極的な情報提供やアドバイスを意識して行われています。
実際に多くの若手農家さんに栽培、製造、販売など多岐に渡るアドバイスをされてました。
現在お茶を取り巻く環境は厳しいものになってきています。
その中だからこそ、自身や周りの農家の農業経営も持続可能なものにしつつ、自分のお茶を買ってくれるお客さんに満足していくお茶を作り続けることが、直弘さんの大きな目標となっています。

HPやInstagramアカウントなどがないので、プロフィール紹介やお茶の購入先などを紹介することは出来ませんが、お茶に少しでも興味を持って頂けたら嬉しいです。

直弘さんにお話を伺って自分が学んだことは、「経営継続をすることがお世話になった方々への恩返し」ということでした。
お客様や周りの協力で経営が成り立っているとするならば、経営を続けていくことは、お客様や周りの方の期待に応え続けることと言えると思います。
自分はまだ満足に農業で収入を得られていない立場ですから、いち早く自立し、周囲の期待に応えられるように野菜を届け続けたいと思いました。

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