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eSportsの未来は少し明るいかもしれない:WoT甲士園

 eSportsに対してネガティブな記事ばかり書いていた私だが、(少なくとも私にとっては)未来が明るくなりそうなインタビュー記事が掲載された。

 それについての感想と、現在のeSports界隈における歪さズレについて述べる。
 珍しく、短い記事。

1.WoT甲士園のインタビュー記事

 戦車アクションゲーム「World of Tanks」の大会「甲士園 2021」が行われている。私も一時期はWoTをそこそこプレイしていたので、その大会の甲士園も何試合か観戦した。

 7月12日に、4Gamer.netにその大会のスポンサーディレクターの方たちによるインタビュー記事が掲載された。冒頭を引用すると、

 甲士園の話と共に,両社にとってeスポーツとはなにか,という部分を重点的に聞いたので,World of Tanksをプレイ「していない」人にも,ぜひ読み進めてもらいたい。

 このインタビューの中での4者の意見が、かなり私の考えるeSportsの理想のようなものに近いと感じられた。

谷氏:
 マーケティングだけの観点で見れば,ほかのことをした方がずっと効率がいい。それでもeスポーツに協賛するのは,日本でeスポーツを盛り上げたいという思いがあるからです。商品をPRする場というだけではなく,大会を一緒に盛り上げていったその先に,ブランド認知などの製品のマーケティングがあると思っています
森畑氏:
 eスポーツだけでなく,ゲーム業界に対していろんな貢献ができたらいいなと。ゲームの楽しさとか,ゲームを取り巻く環境は楽しいんだよっていうことを伝えていけたらいいなと思っています。
アレックス氏:
 僕がイメージしているのは,プロがしのぎを削るようなトップレベルの大会ではなく,だれでも参加できて,誰もが大会の緊張感を味わえるというものです。それがWorld of Tanksのコミュニティの活性化につながると思っています。
亀山氏:
 コミュニティに根差した大会が,非常に大切だと思っています。仲間と一緒に遊ぶ,みんなで勝ちを目指して遊ぶ楽しさというのを知ってもらいたいんです。プロのようにすべてをかけて頂点を目指すのは,普通のプレイヤーには難しいですが,それでも「仲間と練習して勝ちを目指す」ことを楽しんでもらいたい。そのための甲士園です。

(※いずれも一部省略。太字は筆者によるもの。)

 すべてを抜粋していくとキリがないので、インタビュー前半の一部を引用した。これらの内容は、私の考えるeSportsの理念に合致したものだった。

 上の2つの私の過去の記事でも述べているが、私のeSportsに対する主張は、

eSportsはゲームを競技として楽しむこと全般である。「観戦」だけでなく、「競技としてプレイを楽しむ」という観点も忘れてはならない。

・eSportsというのは「プロ」や「視聴興行」ありきのものではないし、それが目的でもない。

というようなものである(もちろん他にも色々とあるが)。

 eSportsについて語られるとき、そのほとんど全ては「視聴興行」についてである。このゲームは見ていて面白くないとか、日本のチームは弱いから応援したくないとか。
 それは間違ってはいないだろうが、「eSportsをプレイすること」について語られることが少ない。eSportsの「競技」人口が少ないから、それは当たり前なのだが。

 eSportsは「視聴興行」が全てではない。まずは「競技を楽しむ」というところからではないのか。というのが私の意見であるが、上記のインタビュー記事でも同じような意見を、それもスポンサーやディレクターといった主催側の人たちが持ってくれていた。

 そういう意味で、この記事タイトルのように、「eSportsの未来は少し明るいかもしれない」。

追記:
 インタビュー記事の、「楽しむ」という部分に注目してもらいたい。昨今のゲーム界隈では、「「ガチ」ではなく「カジュアル」が「楽しいこと」」という風潮が少なくないように感じられる。
 私の過去の記事でも触れたし、インタビュー記事でも述べられているように、「勝利を目指して競技をする」のも楽しいはずだ。
 このあたりの「ズレ」も、以下の内容に関わってくるだろう。

2.eSportsの歪さ、ズレ

 1.のインタビュー記事にもあるような「盛り上がった先に商売がある」というものではなく、「先に商売のほうが成立してしまった」というような構図が、昨今のインターネットのゲーム界隈には存在している。

ず

 eSportsにまつわるゲーム界隈のイメージ図

 もともとは小さいコミュニティからゲーム大会は始まっていた。ゲームセンターどころか、友だちが集まって対戦ゲームをするとか、そんなところからだ。

 それがオンラインゲームの登場もあり、だんだんと規模の大きなものになっていき、多額の賞金が出るような国際的な大会も開かれるようになってきた。

 しかし、ゲーム大会よりも視聴興行が先に成熟し商業的にも成功するようになった。ゲーム系のYouTuberや配信者として生計を立てられている人は、いわゆる「選手」として活動している人よりも多いだろう。

 それが、eSportsやゲーム界隈に様々な歪さやズレを生じさせる結果となってしまっている。イメージ図で矢印がぶつかっている部分である。

 数年前に「プロゲーマー」や「元プロ」、「ストリーマー」と呼ばれる複数の人たちが、同じようなことを言っていた。
 「自分たちはただそのゲームが好きでやってて大会とかに出てたけど、いつの間にか周りがeSportsだとかプロだとか言うようになった」
というような内容である。

 eSportsやゲーム界隈には多数の人や団体が存在している。
 「プレイヤー」「プロ選手」「チーム」「大会主催者」「スポンサー」「ゲーム会社」、そして最も数が多い「視聴者」。

 これらの人々の、eSportsに対する意思は全く統一されていない。視聴者は「見ていて面白いか」のことを一番考えているだろうし、選手は試合に勝つことを考えているだろう。
 金銭的なことしか考えていない主催者もいるだろうし(それが悪いわけではない)、スポンサーやゲーム会社は視聴興行をいかにブランディングできるかを考えているかもしれない。

 「視聴興行」のほうが先に成熟したため、商業的に成功するためにそちらにシフトチェンジする人が多いのも当然である。例えば、「元プロが〇〇した!!」といったようなタイトルのApex Legendsの動画は山ほどある。
 そのような動画が人気が出るのは良いことなのだが、「それがeSportsの目指すところか?」という話になると、視聴者はそう思うかもしれないし、Apexの現役選手はそう思っていないかもしれない。

 WoT甲士園のように、そういった商業的な成功が目的でなく、純粋に競技を楽しもうとするプレイヤーと主催者もいる。ここに、「歪さ」や「ズレ」が生じている。
 「視聴者」のほうが明らかに多いが、もともとの「ゲーム大会」に関わる人たちは、その視聴者の要求に応えるような存在ではないことが多い

3.結:どう発展していくのだろうか

 私のようなただの一般人だけでなく、1.に挙げた記事にもあるような「eSports」の中枢に位置するような人たちにも、「eSportsは視聴興行のためのものではない」と考えている人も多いはずだ。

 谷氏の発言を再び引用するならば、『大会を一緒に盛り上げていったその先に,ブランド認知などの製品のマーケティングがある』と、私も思う。
 しかし、「視聴興行」のほうが明らかに人数も多く、市場規模も大きい

 WoT甲士園のインタビュー記事は、eSportsのルーツともいえる「ゲーム大会」の理念などを再確認するようなものであったと思う。

 この「ゲーム大会の理念」と、先に発展した「視聴興行の経済力」の二つが、どのように折り合いをつけ、発展していくのか。

 以前の記事でも述べたように、私は後者が優勢だと思い、ネガティブな記事ばかり書いてきた。
 しかし、1.でも述べたように、eSportsの主催者やスポンサーの人たちが前者のような立場であるのならば、eSportsは私の望むような「ゲームを競技として楽しむことそのものに近くなってくれるかもしれない。

 


補足:
 インタビュー記事の後半には「eSportsとはどういうものか、何が必要なのか」「競技者が敬意を持たれるようになるために」「教育という観点」などの、面白く興味深い内容が多くある。ぜひ読んでいただきたい。


 2021/07/13 山下

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