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シリーズAラウンドの資金調達と、MBOを終えて

DROBEの山敷です。DROBEはファッション領域でパーソナルスタイリングEC(https://drobe.jp/)を提供している会社で、2019年4月に三越伊勢丹ホールディングスの子会社として創業しました。

創業から2年と少しを迎える2021年5月、DROBEは、フェムトパートナーズから5億円の資金を調達し、それに伴い、経営陣が議決権の過半数を保有するかたちのMBO(マネジメント・バイアウト)を完了しました。

大企業からのMBOの事例はあまり多くなく、先行事例が少ないことで自分たちも正直とても苦労しました。

なので、経緯や自分自身が学んだこと・感じたことなどをお伝えすることで、これから起業を考える人に、MBOがスタートアップ立ち上げの一つの選択肢になれば嬉しいなと思い、このnoteを書くことにしました。もちろん、DROBEに興味がある方や、資金調達のリアルに興味を持っている方にも読んでいただきたいです。

プレスリリースでは書ききれなかった、MBOに至った会社設立の背景から、資金調達の過程について、記載していきます。

前身は三越伊勢丹とBCGDVの共同プロジェクト

DROBEは、三越伊勢丹とBCG Digital Ventures(以下BCGDV)の共同プロジェクトを前身としています。

▼プロジェクト時代に取材いただいた記事はこちら

どういうことか簡単にまとめると、

・BCGDVはBCGグループのデジタル×事業立ち上げの専門部隊
・三越伊勢丹のデジタル戦略の策定をBCGがサポートし、その流れでBCGDVが事業立ち上げプロジェクトを行うことに

という背景で、私含め現経営陣数名は、当時はBCGDV側のプロジェクトメンバーとして、現在のDROBEのMVPを検証していました。

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(写真)当時のオフィスの一角、自分たちで箱詰めしたり、届けたりもした

ファッションは私の趣味の一つではあったのですが、やるからには多くの人に届くサービスをつくりたいという個人の思いと、具体的な事業案がなかなか合致しませんでした。そんな中での三越伊勢丹さんのプロジェクトの話。「これなら何か大きなことできるかもしれない」と大きな期待を抱いたことを覚えています。

私自身、新卒で入ったDeNAを辞めるときには、次は自分で事業を興すことを考えていたので、BCGDVの入社の際はプロジェクトから会社を立ち上げることを前提にしていました。当時のBCGDVではそれを歓迎する雰囲気があり、DROBE以外にも、Onedotなどが大企業とのプロジェクトから会社を立ち上げています。

結果的に、三越伊勢丹とのプロジェクトを通して事業案が固まり、共感する創業メンバーが集まって会社を立ち上げる意志が固められたことは非常に幸運でした。三越伊勢丹とBCGDVにはとても感謝しています。

狙いは大企業アセットを活用した「垂直立ち上げ」

なぜこのような特殊な形態の創業になったかというと、シンプルにいうと「普通のスタートアップ的な戦い方だと難しい」と考えたからです。

我々が運営しているパーソナルスタイリングECなるものは、実は決して新しいサービスではなく、近しいところだと過去にZOZOさんがおまかせ定期便というサービスをやっていたり、他にも多数のベンチャーが挑戦し、そして撤退しています。
参考:“ZOZO流”服のサブスク「おまかせ定期便」、1年でサービス終了

この事業を成立させるためには、「商品」「テクノロジー」「スタイリング力」がどれも必要です。それをDay1から高いレベルでもつために、アセットを初期的に借りたというのが背景になります。

詳細に話すととても長くなってしまうので、ひとつ、「商品」を例にとりあげます。

パーソナルスタイリングといったサービスの特性上、ひとりひとりに合ったものをお届けするためには、多種類の商品が必要となります。それはリリース時でも変わりません。

洋服選びは、予算、サイズといった条件に加えて、カラー、アイテムカテゴリ(スカートとかパンツとか)、シルエット(フレアとかタイトとか)、デザインディテール、素材...などなど、多くの要素の掛け算で成り立っているので、型数が少ないと致命的になってしまうからです。

例えば、「白いMサイズのスカートで5,000円台」という条件の商品が1つしか無い、という状態が起きてしまうと、その他の要素を加味したスタイリングとしての介在価値に到達すらできません。

この問題を解決するためには、既に多くのブランド・メーカーと取引があり、システム的な連携もできている大企業としてのアセットを活用することがとても重要なことでした。

が、率直に言えばメリットだけではなくデメリットもあったと思います。

大企業子会社であることで、私を含むメンバーの意識が知らずしらずのうちに「かしこまって」しまったような部分があり、ここはもう少し気をつけるべきでした。このあたりは今回のMBOを期に刷新したVision、Mission、Valueなど含め、組織編で書きたいと思います。

想定外に難産だった初期開発と、そこからの立ち上がり

パーソナルスタイリングという構想にたどり着くまでは早かったものの、そこからの開発はやや難産でした。

創業前のプロジェクト時代のMVPとテストマーケで、市場の確かなニーズは確認できていたので、あとはそれを形にするところからのスタートだったのですが、開発すべきものが多く、リリースまで想定外に時間を要しました。

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(写真)MVP以降のロードマップ、全然この通りにいかず・・

DROBEを構成する主なモジュールは、「ユーザー」「スタイリング」「物流」「商品」「ブランド連携」と多く、中でもブランド連携部分は商品情報に加え、在庫や価格といった情報を扱っています。ここは連携するブランドの仕様に影響される部分があったり、ブランドのITベンダーとの調整が必要となったり、独立して仕様を構築することが難しくなっています。さらにはそこから連携されたデータをDROBE内で統一的に扱えるように正規化して・・・といった形で、裏側に工数がかかる部分が多く、当初の想定より遥かに多くの工数が必要でした。(初期はCTO含め2-3人でつくっていた・・)

リリースをしたあともブランドが増えるたびに開発が必要で、かつ、サービスを動かしていくうちに次々と改善点も見えてくるので、暇な時期はまったくありませんでした。

そういった時期を経てDROBEは一定立ち上がり、現在では、参画ブランドは160を超え、ユーザー数は5万人をこえる規模となりました。パーソナルスタイリングECとしては日本でトップレベルとなっていると自負しています。

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「DROBE会社説明資料」より

中でもDROBEの特徴を語るなら、ひとりひとりに真面目に商品選定(パーソナルスタイリング)を行っていること、それにAIをフル活用していることです。

10万点を超える商品を人の目だけで選ぶのは限界があるので、サービスの成立のためにはAIの活用がマストだったのですが、サービスのリリース当初は当然データもないため、AIはありませんでした。なので、リリースから半年間はAIのための教師データをつくる期間と決め、裏側では、かなり人の手による労働集約なことをやっていました。

このサービスは需要はあれども、ビジネスとしてきちんと成立させることに難しさがあることを痛感していた私にとって、AIが稼働して数字がみえた瞬間は、この2年の中でもハイライトだったと思います。

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(写真)実は初期から色々試してはまだデータ足りない。。と憂鬱になっていた

資金調達の動き始め

資金調達は昨年の秋ごろから動き始めました。MBOということもあって幅広に提案がほしかったので、最終的に振り返ると30社ほどのVCとコミュニケーションをとっていました。

最初は”相手の考えていることがわからない”というなんとも初歩的な悩みから始まりました。

決まった形のプレゼンテーションをするのではなく、相手の知りたいことや、我々のサービスに対する課題感を知った上で、説明・議論するスタイルでいきたいと思っていたものの、相手方がどこにポイントを置いているのかなかなかわからず、また、質問してもうまく引き出せないといったことが続きました。

これに対する解決策はとても当たり前なのですが、自身が話すことを極力シンプル・簡潔にし、時間の使い方をインタラクティブな議論の方に寄せるように意識していきました。次第にVCの求めるポイントが理解できてきた中で、DROBEが資金調達をするに当たっての課題感が、大きく3つ見えてきました。

3つの課題:「市場」「ユニットエコノミクス」「資本構成」

1)市場
ファッションという市場が大きいことは自明ながら(9~10兆円)、ECはさておき、国内市場全体が縮小していることはネガティブに捉えられる要因の1つでした。

また、「類似のサービスモデルが成功していない中で、なぜDROBEはスケールするのか」という点も多く聞かれました。
私たちの答えとしてはファッション市場におけるユーザーの解像度からのリプレイスの余地であったり、先行サービスの失敗要因と解決方針というところを語っていきました。ソリューションとしての広がりも大事なポイントだと考えてはいますが、DROBEのステージを考えるとあくまで将来のビジョンでしかなく、投資判断に影響を大きく当たるものではなかったのかなぁと思います。

2)ユニットエコノミクス
ここは早いタイミングでVCと話して修正できた大きなポイントでした。

当初の見立てとしては、DROBEのステージではユニットエコノミクスは重要でなく、完成したときの仕上がりとそのための施策とその蓋然性で語ればいいか、と考えていたのですが、めちゃくちゃ甘かったです。

社内ではこれをやればこれだけ改善するというのは自明でも、その時点での数字が弱かったのでおそらくあまり信じてもらえていなかった気がします。DROBEのリリース当初から会話をさせていただいていたVCの1社に、「このユニットエコノミクスだと投資できない」と明確に言われ、そこからある意味調達のための証明(施策投下)を早め、実質的な数字を修正するアクションを取りました。
これ、自覚できたのが実際に調達をする10ヶ月以上前だったので、修正する時間もあったので良かったんですが、3ヶ月前とかだったら直せたところで証明できている期間も短いし...となって割と危なかった気がします。

3)資本構成
大企業子会社からのMBOというのは想像以上にイレギュラーで、かつ過去にいい例の少ない、VCからすると黄色信号案件として捉えられていたように思います。

たしかに”調子がよかったら自社で続けてるんじゃないの?””MBOといっても結局なにやら口出してくるんじゃないの?”という点には最初から明確な回答をもってコミュニケーションするべきでした。ここは私がプロダクトマネージャー出身で、プロダクトやユーザー、数字の話をすることが好き(得意)な一方で、資本や会社の機関設計といった点の説明のプライオリティを下げていた背景があったと思います。

結局、数社ほど回ってここの説明の希薄さに課題感をもち、三越伊勢丹の中でも今回の資金調達を進めようとしている/ポジティブであることを執行役会で確認/決議してもらい、それを明確に語るように意識しました。

振り返って、事業をはじめたときには資本市場に対する意識が欠けていたことが大きな反省です。有限の資金の中で何を作り、何を証明するのか。これこそが経営であり、フェーズに関わらず常に意識すべきと肝に銘じたので、これからは資本効率にこだわり抜いて事業づくりをしていきたいとおもいます。

フェムトさんとの出会いとこれから

結果、今回はベンチャーファイナンスの教科書とも言える『起業のファイナンス』を著した磯崎哲也さんがGPを務め、最近では投資先のPLAIDさんが上場したことでも話題になったフェムトさんに出資いただきました。

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(写真)ベンチャーファイナンスの聖書

実はフェムトさんとはMBOに関わるスキームをメインとして相談する形が最初でした。達成したい要件はあるものの、税制や既存株主との整合性なども解決する形を考えるのは一筋縄ではいかず、プロとして磯崎さんを頼る形になりました。投資方針が決まっていない中でも親身にスキームの相談にのっていただけたことには感謝しかありません。最終的な提案も起業家へのリスペクトが随所にあり、強い信念と哲学を感じました。

こういったフェムトさんのような姿勢が当たり前になると日本のスタートアップ環境はもっと良くなると思いますし、それを当たり前にするためにも、我々が結果を出してフェムトさんの選択を正解にしていければと思います。

今後について

資金調達を経て、やることは大きく変わらずプロダクトの磨き込みです。

もちろん種は蒔いていきますが、まだ多角化するフェーズではなく、DROBEといったパーソナルスタイリングECが日本で求められていることを数字を伴って証明していく段階だと考えています。

今、洋服を選ぶタイミングで多くの課題やペインポイントが存在しています。我々がめざしているのは、すべての人が自由に、自分らしい意思決定をして、洋服を楽しめる世界なので、この壮大な夢に着実に向かっていきたいと思います。

最後に、お決まりの内容ですがDROBEはメンバーを積極募集中です。どこかにピンときた方、とりあえずどんな事やってるのか知りたい方、いま転職を考えていなくて大丈夫ですので、一度お話しましょう。

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