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創造 “大”パラダイムシフト

「パラダイムシフト」という概念を、トーマス・クーンの定義から拡大解釈し、「ヒトの思考の枠組みが根底から転換すること」であるとすると、現在の人類社会はまさに、その渦中にあると言えるでしょう。
ヒト(ホモ・サピエンス)の歴史を振り返ってみると、誕生以来約30万年の間に2度 “大きな” パラダイムシフトを経験してきました。
1度目の大パラダイムシフトは約7万年前に起こり、「認知革命」「心のビッグバン」「意識のビッグバン」「文化のビッグバン」などと呼ばれています。
2度目の大パラダイムシフトは、約2500年前の「枢軸時代」と呼ばれている時代です。

アフリカ大陸で生まれたホモ・サピエンスは、十数万年前から波状的にユーラシア大陸へと渡って行きましたが、7万4000年前スマトラ島トバ火山の大噴火によって引き起こされた地球規模の寒冷化により、絶滅寸前の危機に曝されたといわれています。
この危機の中で人類は、衣服を纏うことで寒さから身を守るようになり、その後アフリカから各大陸へ拡散していったヒトの部族は、着衣文化のヴァリエーションを発展させることで、地球上の様々な環境に適応し繁殖していきました。
彼らは新たなフロンティアを求めて舟を作って海を渡り、魚を釣るためや衣服を作るために、骨製の針などの専門道具を製作するようになります。
脳の神経組織が組み換えられ、言語を使ったコミュニケーションが発達して、大勢のメンバーが目標を共有することができるようになったことが、その背景にはあったのではないかとされています。
こころの中に生まれた鮮烈なイメージを洞窟の壁に描き出すようになり、動物や女性などの彫刻を作って、死んだ仲間の魂の随伴物として共に埋葬するようにもなりました。
文化や技術、芸術や宗教という、現生人類を特徴づける創造的思考は、こうして7万年前の突然の氷期という危機的環境下で生まれたのです。

約1万2000年前最終氷期が終焉すると、ヒトはそれまでの狩猟や採集だけでなく、雪が溶けて表れた大地に種をまいて穀類を育て始め、家を建てて定住しムラを形成しました。
トバ・カタスロトフ直後には1万人以下に激減した地球人口は、この時代には500万人程度まで増加していましたが、定住農耕革命をトリガーとして爆発的に増え始め、条件の良い場所にあった一部のムラは、周囲のムラから人を集め都市として発展していきます。
都市に人口が集中するようになると、社会制度が作られ文明が生まれましたが、人口増加と共に大量の食料や資源が必要となり、都市部を取り巻く自然環境は瞬く間に破壊されていきました。
資源を求めて交易が盛んになるとともに、戦争も度々引き起こされるようになり、略奪や侵略が世界各所で起こってきます。
また人口集中と家畜飼育による不衛生な住環境は、感染症リスクを増大させ、天然痘など動物起源の疫病が流行しました。
こうした都市化による人口密度の増大と、自然環境・社会環境の悪化による不安感や危機感は、そこで暮らす人々の精神環境にも大きな変革を迫ることになります。
崩壊寸前のこころの中に新たに創発してきた非常に高い精神性は、人類に共通するユニヴァーサルな世界観を生み出すこととなり、後に「枢軸時代」と呼ばれる精神革命となったのです。

このように人類が経験した2度の “大” パラダイムシフトは、自然環境や社会環境の急激な変化に対する、“危機感”の共有がもたらしたものです。
そして我々が生きる現代の世界では、過去2回の場合以上に、自然環境も社会環境も激動しています。
地球上には現在80億人のヒトが暮らしていますが、そのうち半分の40億人は、過去40年間で増加しました。
10年ごとに10億もの人が増えている計算になります。
新たに耕地化できる土地は地球上にほとんどなくなっており、世界の穀物収穫面積は50年以上前から横ばいが続いています。
農業技術の革新により単収をあげることで生産量を増やしてきましたが、それも限界が近づいている事は明らかです。

また世界のエネルギー消費量の加速的増加は、人口増加を超えるスピードで進み、この35年間で倍増しています。
地球上の生物たちが数億年かけて固定化し、蓄積してきた大量の化石燃料を、ヒトはわずか100年あまりで使い切ろうとしているのですから、自然環境が激変するのは当然です。
地中深くに固定化されていた数億年分の二酸化炭素を大気中に解き放ち、地球規模の気候変動を招く原因を作った我々人類は、その結果についても我が身をもって受け止めなければなりません。
当然のことながら、これは痛みを伴う体験となるでしょう。
「思考の枠組みを根底から転換」させる、未だかつて無いような巨大なパラダイムシフトを経なければ、この厳粛な環境の変化は受け止められないのではないでしょうか。
次回は我々を待ち受ける「最後のパラダイムシフト」について考えます。

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