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ウォーキングとトロッティング

前回、ヒトは直立二足歩行をする事によってヒトになった、と書きました。
密林の樹上から草原に降り立ち、二足歩行を始めた頃の我々の祖先は、まだ完全に直立ではなく、後ろ足と共に時々前足も使いながら歩いていたものと思われます。
それから数百万年という長い時間をかけて、直立姿勢で効率よく歩けるように、ヒトはからだの構造を進化させていきました。
 
直立二足歩行はエネルギー消費が少ない上に、直射日光を受ける面積が小さく、頭が地面から遠くなって熱が篭りにくいため、暑い気候の下でも長時間歩き続けることができます。
高い目線から遠くの目標や危険を見通しながら、規格外の頭の重さを推進力として利用する、高度な運動能力も会得していきました。
その結果として、弥次さん喜多さんのように毎日40kmを踏破する、江戸時代の庶民たちの旅も実現できるようになったのです。
 
現代の日本でもウォーキングがブームとなっています。
1996年から2018年までの22年間で、週1回以上ウォーキングをする人は13.6%から32.9%へと増加して、推定ウオーキング人口は3,412万人となっています(笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」より)。
このブームを牽引しているのは主に高齢者で、60歳以上の週1回ウォーキング実施率は、2010年以降ほぼ50%をキープしています。
そしてこのウォーキングブームは、2020年のコロナ禍を機に、さらに加速し若年齢化しているようです。
保険会社インシュアテックの調査によると、30~40代の働く男女500名のうち、39.2%がコロナ前に比べて積極的に歩くようになり、83.2%が毎日の生活に意識的にウォーキングを取り入れているということです。
同調査によれば、歩く習慣のある人では、「人生や日々の生活が充実している」人の割合が64.1%と、ない人に比べて12.9%も高くなっています。
 
しかし一方では、とことん歩かない生活をしている人も増えています。
女性向けに健康支援アプリを提供している、リンクアンドコミュニケーションによると、コロナ影響前には14.9%だった1日3000歩未満層の割合が、緊急事態宣言による外出自粛の影響で29.5%へと倍増し、1日あたり平均歩数は、約1000歩減少したということです。
また健康機器メーカー、タニタと筑波大学大学院の調査では、コロナ禍でテレワークに切り替えた東京都内のオフィスワーカーは、1日あたりの歩数がおよそ30%減っていることもわかりました。
 
歩かない生活を長期間続けていると、肥満や不眠症、うつ病などの発症を招き、高血糖症や高脂血症、高血圧症などの生活習慣病リスクが高まります。
種の誕生以来数百万年間培い使用してきた、からだを働かせるためのエンジンをいきなり止めてしまえば、それまでは無縁だった様々な不調が一時に現れてくるのも当然のことです。
しかし現代の日本社会の生活の中では、1日平均3万歩を歩いていたとされる、江戸の庶民のような暮らし方をすることなど、とても考えられないのではないでしょうか。
 
そこで、お勧めしたいのが、トロッティングです。
トロットTrotとは、馬の「速歩=はやあし」のことです。
ウォークWalkの事を「並足=なみあし」といい、キャンターCanterを「駈歩=かけあし」と呼びますが、この2つの歩法走法の中間に位置するのがトロットです。
 
ヒトで言えば、「歩く」と「走る」の中間の速度で移動するのがトロッティングTrottingとなります。
選手のためのウオームアップ用に、「トロッティング=小刻み走法」の意味で採用している陸上クラブやチームも多いようですが、ここでは細かいやり方には拘らず、単純に「急ぎ足」としておきます。
競歩のように、どちらかの足を必ず地面に着けていなければいけない、という考えも不必要ですし、「急ぎ足」に「小走り」や「ゆっくり足」が混じっても、なんの問題もありません。
 
短い距離であっても、ウォーキングの最中に、時折トロッティングを混ぜてみるだけで、からだへの効果は劇的に変わります。
普段の1.5倍の速度を意識して、焦らず無理せず、まずは試しに「急ぎ足」してみましょう。

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