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今日という一日は、彼女が生きたかった未来

7月に亡くなった親友が家族に残したノートの一部を見せてもらった。
痛み、時間との闘いの中で、残された力を振り絞ったのだろう、達筆な彼女のやや乱れた筆跡の長文を、噛みしめるように読み、目に焼き付けた。

彼女の心を暖め続けた幼い頃への追憶、控えめな彼女らしい人生回顧、そして自分がいない未来を生きる娘へ、母としての言葉。

書かれたノートからの教えと、私が知る親友を書き記すことで、今日彼女を偲びたい。

1.    承認の体験は生涯心を温め続ける
2. 未来はこないかもしれないと、今を生きる
3. 大切な人が大切にする人を、大切にする
4. 私が知る彼女はもっと凄い


1. 承認の体験は生涯心を温め続ける
冒頭に小学一年生、先生から『お掃除の箒のかけ方がとっても上手ね』『お花を生けるのも上手』と褒められた記憶が綴られていた。

繊細で、丁寧で、慎重で、人に気を遣いすぎるところがある彼女のブライトサイドを言い当てており、彼女にとってただの褒め言葉ではなく、『あなたはそのままで素晴らしく、価値がある』承認のメッセージとなり、自己効力感、レジリエンスとして彼女の生涯を支え続けたのだろう。

その先、幾たびも訪れた難局で、この言葉を思い返し、自分を奮い立たせていたのだろうか、彼女を想う。



2.  未来はこないかもしれないと、今を生きる
小学校の恩師とは卒業後も年賀状のやりとりを続け、大学合格時には花束を贈ってくれた、その恩師に会いたいと思っているうちに恩師が亡くなってしまった。

『先生に会いたい、思った時に会いに行っていたら...

『お母さんと旅行に行きたかった、行きたいと思った時には行けたのに...』

思い立った時に行動すれば叶えられた望みが、もはや叶わない悔しさが滲み出ていた。

『思い立ったら行動して。考え事は歩きながらすればいいよ』と娘へ。
誰もが頭ではわかってはいるが、大人は皆、考え事に時間を費やし、行動を後回しにする。

私が生きる今日という日は、彼女が生きたかった未来だ。

数ヶ月先、数年先に自分はいないかもしれない、未来はこないかもしれないと、一日一日を噛み締めるように生きた彼女の気持ちに寄り添い、今を大切に生きると誓う。


3. 大切な人が大切にする人を、大切にする
幼い頃、私の家に彼女が来たとき、父が彼女の名前を呼び、小さな可愛いお客様を歓待したことが、とても嬉しかったと綴られていた。
父の自然な振る舞いだろうが、我が子を大切にするのと同じように、我が子が大切に思う人を大切にする。父のいいところをまた一つ、教わった。

そして親になった彼女は『大切な人が大切にする人を大切にする人』だった。


4. 私が知る彼女はもっと凄い
どんな相談にも、わからない、知らないと言わず、回答した私への感謝が綴られていた。 
的確な回答ができていたとは到底思えないが、彼女にとって私と二人の親友が、晩年の彼女の社会性そのものであるような使命感を感じていた。

この数年間、前半は闘病について、後半は亡くなった後の相談を受けた。
三人の親友の一人は医療系、一人は法律関係、私は多少なり社会保障がわかる。
三人で手分けし、話し合い、できる限り手を差し伸べた。
彼女からの相談が未読のまま過ぎる時間は、人の何倍も貴重であることを知っていたから、先ずは

『オッケー、任せて』と返事をして、知らないことも調べ、なるべく早く答える。

息子が塾に通う時間、スタバで調べ物をし、識者に確認をして返信することは、週末のルーティーンであり、貴い時間だった。

彼女の力になりたくて、希望を持ってもらいたくて、ほんの少しでも安心してほしくて、必死だった。

人生は、さまざまな形容詞で語られるが、彼女の生涯を形容すると、慈しみ深く、貴い。


『ママは自分探しを怠り、安全な方へ進んでしまった』

しかし、私が知る彼女は、自分をよく知り、丁寧に努力を積み上げ、着実に辿り着いていた。
成績は常に上位、高校も大学も地元でトップクラスのところじゃないか。
中学の陸上部だって学年1のスプリンターで、市の大会でもいいところまで進んでいたぞ。

就職先だってみんなの憧れの職業じゃん?

私が彼女の娘にこの先伝えたいのは、あなたのママになる前のママ。
ママは控えめな人だからこう言うけどさ、結構すごいよママ、かっこいいよママ。
偏差値65!100メートルを13秒台で走るんだよ。

空港で制服着て働くママはキリっとしてすっごく綺麗。

謙虚な目線で綴られた彼女の人生を、野心家の目で見つめ直し、ブライトサイドを伝えていくことだ。

今夜は、家に飾る彼女の写真に向かってこう語りかける。
『ちょっと控えめキャラが過ぎやしない?勉強に部活に結構凄かったけど』
『そうお?』まんざらでもない表情で笑っている。


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