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企業行動論講義note[13]価値の流れをデザインする:ビジネス・リーダーシップ&マネジメントの基本枠組

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この内容は、第10講に当たります。講義の進み具合で変動します。
なお、このnoteはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス「表示-非営利-改変禁止」です。

みなさん、おはこんばんにちは。
やまがたです。

企業行動論の講義もいよいよ終盤に差し掛かってきました。抽象的な思索が続いていますが、みなさんリアルなイメージは抱けてますでしょうか?折々シェアしている事例記事や、みなさんが関心を持たれた事例などと照らし合わせて考えてもらえると、ひじょうに嬉しいです。

さて、今回からやっていく内容はビジネス・リーダーシップ&マネジメントです。この内容は、経営管理あるいは経営戦略といった枠組で議論されることが多く、みなさんが「経営」という言葉でイメージされる領域と重なってきます。

ただ、その際にも「経営する」とはどういうことなのか、必ずしも明確には定義されていないケースも少なくありません。そもそも、経営という現象自体が多様な姿で現れるので、それもやむを得ないといえます。

今回は、枠組として知っておいていただきたい点としての「ビジネス・リーダーシップ&マネジメントとは何か」について、説明していきたいと思います。

ビジネス・リーダーシップ&マネジメントとは?価値の流れという観点から考える。

ちょっと思い出していただきたいのですが、この講義では以下のようなポテンシャル体系を講義の枠組として提示しました。

図[13]1 企業をめぐるポテンシャル体系

ブライヒャー:ポテンシャル体系

そして、これまでの講義で何度も繰り返しお伝えしてきましたが、企業とは「他者の欲望を充たすような効用給付を創出・提供することによって、自らも経済的成果を獲得し続けようとする協働体系」「価値創造を共有目的とする協働体系 / 派生的経営」です。そのための具体的活動の2側面が、価値創造価値交換であるわけです。

さて、当然といえば当然のことですが、価値創造も価値交換も人為的な営みです。自然現象ではありません。つまり、誰かが価値創造や価値交換といった価値の流れのデザインを基礎づけ、方向づけ、遂行を促進していかなければならないのです。

これらの活動を〈ビジネス・リーダーシップ&マネジメント〉と呼んでおきます。

ビジネス・リーダーシップとマネジメントの線引きはひじょうに難しいものがあります。論者によって使い方が違うだけということも少なくないからです。ここでは、以下のように概念整理しておきたいと思います。

ビジネス・リーダーシップ:価値の流れを基礎づけ、方向づける行為
マネジメント:ビジネス・リーダーシップにもとづいて、個々の行為へと割り当て(分業)、調整し、まとめていく(協業)行為

ただし、このあと採りあげるブライヒャーの統合的マネジメント構想では、マネジメントという概念が一貫して用いられています。なので、ここでの概念整理も、あくまで目安として捉えてもらえれば幸いです。

統合的マネジメント構想の基礎にある考え方。

これについては、講義note[07]でも言及しました。

ここでは、このブライヒャーによる統合的マネジメント構想をなぜとりあげるのかについて述べておきたいと思います。ちなみに、このあたりのことについては、今のところ私の唯一の単著で(めちゃくちゃ文章硬くてごめんなさい)論じてはおります。念のため、紹介申し上げます。

ビジネス・リーダーシップ&マネジメントをめぐる理論的な研究は、めちゃくちゃたくさんあります。これをすべて辿っていくのは、ものすごく大変です。そのなかで、なぜこの統合的マネジメント構想を用いるのか。

それは、私が大学院時代から読み続けているからという個人的な理由もあります(笑)ただ、それだけでもなくて。

ブライヒャーの統合的マネジメント構想は1991年に提唱されました。それ以前の研究蓄積を踏まえつつ、ビジネス・リーダーシップ&マネジメントの領域の全体像を捉えるための枠組として打ち出されています。

基礎理論的な特徴に触れておくと、(1)ルーマンの社会システム理論をベースにしている、(2)シュミットの企業用具説をより具体化している、という2点をあげることができます。このあたりは、講義では言及しない予定なのでさらっと説明しておきます。

(1)ルーマン社会システム理論をベースにしているという点について。

ブライヒャーという人は、かなり早くからルーマンの社会システム理論に注目し、自らの研究に援用してきた一人です。ルーマンの社会システム理論の重要概念に〈複合性 Komplexität〉(←〈複雑性〉と訳される場合も多いです)そして〈複合性の縮減 Reduktion der Komplexität〉というものがあります。ここで、ごく簡単にこれらの概念について説明しておくと、複合性とは「あるシステムが環境との関係性において、ありうる可能性の総体」と捉えることができます。ただ、あるシステム自体が採りうる可能性というのは、環境において生じうる可能性よりも少ないのが現実です。となると、環境におけるどの可能性とシステムが採りうる可能性とを結びつけるのかについて、選ばなければなりません。このことを、ルーマンは複合性の縮減と呼んでいます。その意味で、より厳密には〈環境が持つ複合性〉と〈システムが持ちうる複合性〉の較差を操作可能な程度に維持することを複合性の縮減と捉えることができます。ブライヒャーは、縮減という言葉ではなく〈複合性の克服 Bewältigung der Komplexität〉という表現を用いています。

この複合性を克服する際の重要な概念が〈意味〉です。つまり、システム自身にとって、いかなる関係性が重要であるのかを判断する基準が〈意味〉であるからです。

あまり立ち入った議論をやりすぎると、話がこんがらがってしまう危険性があるので、ここらへんでとめておきます。ただ、過剰なほどの可能性があり、かつその可能性も動きがきわめて激しい社会経済的な環境のなかで、いかにして企業を発展に導くのかを説明するための基礎的な理論枠組として、ブライヒャーがルーマンの社会システム理論を用いたのは、ひじょうに重要なポイントです。ブライヒャーは1994年の時点で、ダイナミックで複雑な環境という表現を用いていますが、最近よく指摘されるVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性 / 複合性、Ambiguity:曖昧性)と重なり合います。VUCAを乗り越えていくために、〈意味〉が重要となるという示唆を与えてくれるルーマンの社会システム理論は、ビジネス・リーダーシップ&マネジメントを考えるうえでも大事な手がかりの一つです。

(2)シュミットの企業用具説との関係について。

ブライヒャーはシュミットとほぼ同い年で、しかも同じコジオールのもとで学びました。理論的な影響関係も強く、それぞれの研究においてしばしば引用されています。シュミットは1994年に亡くなりますが、ブライヒャーはシュミットが提唱した企業用具説を、統合的マネジメント構想に包摂していきました。

シュミットの企業用具説については、すでに講義note[11]で説明しました。

ステイクホルダーの欲望や期待の充足を通じて、いかにして企業の維持発展を図るのかという点が、企業用具説の中心的な問題意識です。シュミットは『企業経済学』第3巻においても言及していたのですが、企業理念や企業政策といったビジネス・リーダーシップに該当する行為実践と企業用具説を結びつける試みを既に示していました。ブライヒャーは、この点を統合的マネジメント構想において具体化していったのです。

このように、ブライヒャーの統合的マネジメント構想は、社会経済的環境の動きの激しさや多様な可能性に直面する企業が、いかにしてその存在を発展させていくことができるのか、そしてその際にステイクホルダーの欲望や期待を充たすことの重要性を理論的に説明することを狙って打ち出されています。

統合的マネジメント構想の全体的枠組。

統合的マネジメント構想の全体的枠組についても、すでに講義note[07]で触れましたが、あらためて説明しておきたいと思います。

図[13]2 統合的マネジメント構想の全体的枠組

統合的マネジメント構想

ブライヒャーはこの枠組によって、企業におけるビジネス・リーダーシップやマネジメントの諸行為を体系的に捉える視座を提供しようとしたのです。

講義note[07]の繰り返しになりますが、以下で説明しておきたいと思います。

この統合的マネジメント構想は、横軸と縦軸からそれぞれ整理することができます。一つひとつの構成要素については、後々の講義で説明しますので、ここでは横軸と縦軸がいったいどういうものかについてみておくことにしましょう。

図[13]3 統合的マネジメント構想の2つの軸

統合的マネジメント構想(ブライヒャーつき)

(1)横軸=水平的視座:対象範囲による区分

図[13]4 統合的マネジメント構想(水平的視座)

統合的マネジメント構想(水平的視座)

表1 水平的視座

統合的マネジメント構想:水平的視座の整理

まず、水平的視座からみてみましょう。これは、ビジネス・リーダーシップやマネジメントの対象範囲にもとづいて区分したものです。

(a)規範的マネジメント

最上位に位置づけられている規範的マネジメントの最大の役割とは、企業の社会経済的な存在意義を基礎づけることです。「基礎づける」というのは、「根拠づける」ということでもあります。つまり、「そもそも、われわれは何者か、何のために存在しているのか」を問い、それに対する自社の答えを提示するのが規範的マネジメントにおいてなされるべき課題です。その点で、規範的マネジメントはビジネス・リーダーシップの領域に属するということができます。

厳密には、企業理念は規範的マネジメントよりもさらに上位に置かれているのですが、ここでは規範的マネジメントに含めて考えます。

 企業理念の重要性は、かなり以前から注目されています。企業理念については、会社によって経営理念、ビジョン、ミッション、バリュー、フィロソフィ、クレド、社訓など、さまざまな名称で呼ばれています。多くの企業では設定されていますが、なかには明示的に定めていないところもあります。企業理念の最大の役割は、企業の社会経済的な存在意義を明確に示すところにあります。社会経済的とは堅苦しいですが、平たく言えば“世の中における”ということです。そして、存在意義とは「なぜ、われわれは存在しているのか」「何のために存在しているのか」という問いに対する企業自身の見解です。

これまでの企業理念は、従業員に共有されるべき規範という側面が色濃くありました。これは今も同じですが、社会経済の変化がダイナミックになり、かつ多様になってくると、自分たちが何者であるのかということを明示する必要が出てきたわけです。

近年、Purposeをめぐる議論が企業実践において盛り上がっています。このPurposeをそのまま〈目的〉と訳してしまったのでは、その重要性が伝わりません。ここは存在意義と訳すべきでしょう。このPurposeへの関心は、自社の存在意義を明確化する必要性が高まったことを反映しています。たとえば、ソニーは2019年1月に、それまでのミッション・ビジョン・バリューという三層構成から、Purpose&Valuesという構成にあらためています。

※ 企業理念をめぐっては、新しい概念(というか、言葉)が登場するたびに変化しているのも事実です。ここでPurposeという概念を紹介していますが、今までのMissionやVisionといった考え方がダメになったということではありません。大事なのは、企業理念のレベルにおいて、自社の社会経済的存在意義を明示するということなのです。

また、この規範的マネジメントでは、企業の基礎となる方針(企業政策)や体制(企業体制)、そして共有された意味体系としての文化(企業文化)を形成あるいは醸成していくことが課題となります。これらは企業理念と密接にかかわっています。

企業政策では、以下の4つの観点から企業の長期的な目標や方針の体系が設定されます。ブライヒャーはこれをミッションと呼んでいますが、どちらかというと〈コンセプト〉のほうが近いかもしれません。

(1)ステイクホルダーへの目標方向づけ:誰にどんな効用を提供するのか
(2)発展への志向性:企業発展の時間軸をどう設定するのか
(3)経済的な目標方向づけ:価値提案&資金の流れの方向性
(4)社会的な目標方向づけ:自然環境&社会的側面についての方向性

企業体制とは、基本的に取締役会をはじめとするトップ・マネジメントの機関のしくみをさすことが多いのですが、シュミーレヴィッチ(Chmielewicz, K.)による「長期的で、基本的に有効な企業の構造規制の総体」という捉え方をベースにして、「企業にとっての、長期的で基礎となるような諸規則の総体」と言い換えておきたいと思います。ここでのポイントは〈規則〉です。規則とは、ある存在と別の存在との関係性を規定するという役割を持ちます。たとえば、受講生のみなさんと私とのあいだには学生と教員という関係性があるわけですが、これを規定しているのは、近畿大学の学則や関係する諸規則なのです。

企業に話を戻してみましょう。つまり、規則によって、企業をめぐって存在するさまざまな存在や構成要素がフォーマルに関係づけられることになるわけです。そのなかでも、企業の存在にとって長期的で、かつ基礎になるような諸規則の総体=構造を企業体制と呼びます。コーポレート・ガバナンスというのも、株主と経営者、あるいはそれ以外のステイクホルダーとの関係性を規定するところにポイントがあります。

企業文化は他の3つと異なり、意図的に形成できるというよりは、むしろ醸成していくよりほかないというところに大きな特徴があります。企業文化についても多様な定義がありますが、ここでは「企業に参加するメンバーによって共有されている意味体系」と規定しておきたいと思います。

企業文化について、ブライヒャーは4つの生成要因を挙げています。

(1)トップのリーダーシップ
(2)メンバー間での社会的相互作用
(3)影響づけ要因
(4)変革の試みに対する姿勢

これはなかなかよく考えられた要因であると思います。企業文化は特定の要因によってのみ決まるのではなく、さまざまな要因が絡み合って醸成されます。ことに、メンバーどうしの相互作用や、その結果として共有されるに至った価値観や判断基準などの意味体系という側面が重要です。ここにいう意味体系とは、まさに意味という評価や判断のための基準が織りなされたものです。

今、日本を代表するUXデザインやサービスデザインのファームであるGoodpatchの代表の土屋尚史さんが、企業文化の醸成の難しさについてnoteに書いておられるので、ぜひ読んでみてください。

ほんとは、もっと一つひとつの要因について詳しく述べるべきなのですが、それをやると本になります(というか、もうなってますw)。なので、ここではこれくらいにしておこうと思います。

規範的マネジメントにおいては、企業の存在意義を基礎づけることが課題になります。そうなると、規範的マネジメントの対象は、企業全体、あるいは企業とさまざまなステイクホルダー、そしてそれらから成り立つ社会経済的環境との関係性に焦点が当てられます。

また、これはブライヒャーが言及していることではありませんが、「自分たち(ウチの会社)はどんな生活世界を提案したいのか」という〈意味〉〈審美性〉の探究・提示も、規範的マネジメントあるいはビジネス・リーダーシップの重要なテーマの一つです。ベルガンティが提唱している〈意味のイノベーション〉は、もちろん個々の製品やサービスの企画創出という点でも有益な思考枠組ですが、それにとどまらない理論的・実践的ポテンシャルを持っています。

これは、私も最近、存じ上げている方々と研究グループを組み始めたのですが、エコシステム的な観点から捉えていくと、さらなる理論的・実践的意義が得られそうです。そのあたりについては、もし時間があれば言及しますし、研究としてまとまってきたらnoteにも書きたいと思います。

(b)戦略的マネジメント

この規範的マネジメントに即して、より具体的に事業の社会的・経済的な方向づけをおこなうのが、戦略的マネジメントです。一般的には、戦略的マネジメントが最上位に置かれることが多いのですが、ブライヒャーをはじめとしてドイツ語圏の経営学では、規範的マネジメントを起点に置いたうえで、戦略的マネジメントの議論を展開するという考え方が少なくありません。

つまり、規範的マネジメントの領域において「そもそも、自分たち(この会社)はなぜ存在しているのか」を考え、設定したうえで、「具体的に、どのような事業を展開していくのか」という方向づけをおこなうという建て付けになっているわけです。

自社がどんな事業領域で活動していくのか。これは、言うまでもなく企業にとってきわめてcriticalな問題です。たとえば、トヨタ自動車が2020年のCES*で発表した“WOVEN CITY”というコンセプトは、それまで“自動車メーカー”として自らを位置づけていたのが、MaaS(Mobility as a Service;サービスとしての移動)を担い、構想する企業として再定位したことのあらわれです。

自社の存在意義をMaaSという点に見出すというのは、規範的マネジメントに属する営みですが、それは具体的にどんな事業を展開するのか(←これは、自社だけでなく他者と一緒にやるという観点も含まれています)という戦略的マネジメントとセットで考えられる必要があります。

この背景には、自動車の生産量が伸び悩み、工場を閉鎖しなければならないというような事情があるのも確かです。ただ、そこでネガティブに終わってしまうのではなく、その余剰となってしまった資源を、新たな価値創造に向けてどう活用していくのかという視点があるわけです。

戦略的マネジメントにおいては、今述べてきたようなことの具体的な方針となる戦略的プログラム、そして資源配分やメンバーの活動範囲をデザインする組織構造、そしてマネジメント・システム、さらにメンバーが問題に直面した時にどのような対応行動をとるように認識を醸成し、方向づけていくのかといった点が課題となります。

(c)業務的マネジメント

この業務的というのは、もともとoperative(ドイツ語だと、operativ)です。operationというのは、実際に操作していくことをさします。つまり、現業(←実践の方なら何となくわかってもらえるかもですが、学生にとっては耳慣れない表現だと思います)、もっというと現場での業務ということになります。ただ、ここで留意してほしいのは、現場の業務といっても、いわゆるブルーカラー(←最近はこういう表現も減りました)と呼ばれる製造などの現場だけをさすのではなく、営業や事務などのホワイトカラーと呼ばれる業務も含まれます。

いうまでもないことですが、現場の業務が重要であるというのは当然です。なぜなら、接点だからです。顧客との接点、取引先との接点、創り出される価値提案(具体的には、そのもととしての素材や機械など)との接点などなど。

ここをいかにして効果的に(「効率的に」と同義ではありません)遂行するかが大事になります。ブライヒャーは、活動を促す具体的指令(ただし、もともとの語はAufträgeで単数形はAuftrag;依頼、委任、委託、指図といった意味があります)、個々の活動が組織化されていくプロセス(組織化過程)や現場業務を処理していくシステム、そして現場での諸行動(ふるまい)を、業務的マネジメントにおいての対象として設定しています。

現場での諸行為は、ある意味で規範的マネジメントや戦略的マネジメントに比べて学問的に話題になりにくいのも事実です。しかし、その企業の存在意義や存在根拠(基礎)、事業の方向づけなどが反映されているのが、現場での諸行為なのです。別の見方をすれば、業務的マネジメントに反映されていない規範的マネジメントや戦略的マネジメントは、意味がないとさえいえるのです。

そう考えると、みなさんがある特定の企業について考えるとき、企業が公表している存在意義や方向性、事業展開などをみていくことはもちろん重要ですが、それだけでなく現場での一つひとつの行為をつぶさに観察し、分析することで、規範的マネジメントや戦略的マネジメントとの整合性を考えることができます。

さて、一般的には、規範的マネジメントがトップによって、戦略的マネジメントがミドルによって、業務的マネジメントが現場(ロア)によって担われると理解されがちですが、必ずしもそういうわけではありません。新入社員が規範的マネジメントの内容について考えることは、別に何ら問題ないのです。また、トップが業務的マネジメントにまで思いを致すことも、問題ありません。ことに、近年のように自律的な協働スタイルをめざすなら、職位で水平的視座に基づく役割を分けてしまうのは、場合によってはよくないこともあります。この3つの区分は、あくまでも対象範囲による違いであって、職位とは直接的に関係するわけではない点、留意いただきたいと思います。

(2)縦軸=垂直的視座:現われかた(現象様態)による区分(ほぼ再掲)

以下の説明は、講義note[07]で述べたこととほぼ同じです。確認のために再掲します。

図[13]5 統合的マネジメント構想(垂直的視座)

統合的マネジメント構想(垂直的視座)

表2 垂直的視座

統合的マネジメント構想:垂直的視座の整理

この整理のしかたは、経営学のなかでもちょっと珍しいものです。もともと企業の組織構造や意思決定スタイルなどについての研究から始まり、企業文化、そして企業政策や経営戦略、さらに企業理念の研究へと進んでいったブライヒャーならではといえるかもしれません。

一般に、経営管理論や経営戦略論において重視されるのが真ん中にある〈活動〉です。そして、経営組織論、とりわけ組織構造の問題として議論されるのが左側の〈構造〉、企業文化をはじめとするメンバーによって共有された意味体系やそこから現れる“ふるまい”(behavior)が右側の〈行動〉です。特に注目されるのは、メンバーによって共有された意味体系としての企業文化をビジネス・リーダーシップやマネジメントの一環として考える枠組を提示している点です。

最近では、企業文化の重要性は当然のこととして認識されるようになりましたが、ブライヒャーはこの点をかなり早くから(1980年代から)指摘してきました。しかも、それを戦略や組織構造と関連づけていたところに特徴があります。先ほど言及した企業文化の説明は、ブライヒャーの考え方をベースにしています。

この垂直的視座、こうさらっと説明すると、あまり気づかれずに終わってしまいそうですが、じつは大事な視座なのです。

というのも、活動と構造の関係については、昔から「組織は戦略に従う」とか「戦略は組織に従う」という命題で議論されてきたわけですが、ここに行動という側面が入ることによって、ビジネス・リーダーシップ&マネジメントを三位一体として捉えることができるようになるからです。

もちろん、自分たちが何をしたいのか、何をしていくのかに当たる活動が主軸になります。ただ、明文化されたルール(規則)の体系としての構造と、メンバーによって共有されている明文化されていないルール=価値観や判断基準=意味体系としての行動によって、活動が初めて実現するということを見逃してはなりません。

(3)統合的マネジメント構想の意義

統合的マネジメント構想は、ドイツ語圏の経営学文献において、今でも時折みかけます。私自身も、この枠組は企業をめぐるビジネス・リーダーシップ&マネジメントを考えるうえで、ひじょうによくできたものの一つだと考えています。

受講生のみなさんが、企業について調査・分析をする際にも、重要な手がかりになると思います。それぞれの区分に当てはまる諸行為・諸事象を探し出したうえで、それらがどうかかわりあっているのかを明らかにしていくことで、その企業の考え方やめざすところなどがみえてくるはずです。

中間課題③に向けて、徐々に考え始めてもらえれば嬉しいです。

今日の〆

今回は、統合的マネジメント構想の全体像について、講義note[07]よりは詳細に説明してきました。講義では、企業理念や企業政策について、もう少し具体例を挙げながら説明する予定です。

この講義note[13]では、教科書にも指定している『企業発展の経営学』によりつつ、その後の私の考察も踏まえて説明してきました。次回は、規範的マネジメントの構成要素について、もう少し深く踏み込んで考えてみたいと思います。

ではまた次回に!
ばいちゃ!

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