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【読書感想】『明け方の若者たち』カツセマサヒコ

【説明】
「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」
その16文字から始まった、沼のような5年間。

明大前で開かれた退屈な飲み会。そこで出会った彼女に、一瞬で恋をした。本多劇場で観た舞台。「写ルンです」で撮った江の島。IKEAで買ったセミダブルベッド。フジロックに対抗するために旅をした7月の終わり。
世界が彼女で満たされる一方で、社会人になった僕は、“こんなハズじゃなかった人生"に打ちのめされていく。息の詰まる満員電車。夢見た未来とは異なる現在。深夜の高円寺の公園と親友だけが、救いだったあの頃。

それでも、振り返れば全てが、美しい。
人生のマジックアワーを描いた、20代の青春譚。

【感想】

まず、最初に断っておきますと、
私はサブカルに全然詳しくありません。
高円寺という街にも、大学時代に何回か訪れましたが、アウェー感が半端ない。
角田光代の初期作品に出てくるみたいな「ワカモノらしいワカモノ」的生き方をしてこなかった感性がダサい人間である私とって、カツセマサヒコさんのこの『明け方の若者たち』は、書店で見かけただけで「あっ、私が理解できない若者文化の塊みたいな話だ!!」という先入観が先に立ち、なかなか手にとれないでおりました。
しかし、ある日ふとパラパラめくってみたら、
「ヴィレッジヴァンガードに対して感じる、サブカルになりきれない屈折した気持ち」
のくだりで!!
これ、めーっちゃ、めーっちゃ、わかる!!!
と共感し、
即レジに(このパターン多いな)。

ざっくり言うと「主人公が失恋する」って話なんですが、
あちこちにヴィレヴァンの箇所のような「あるある」が散りばめられていて、映画『花束のような恋をした』を観た時みたいな面白さがありました。映像化したくなる気持ちもわかります。
男性主人公の目を通して語られる「ぼくの最愛の彼女」の描写って、男性作家の場合、同性の視点から見るといけすかなかったりピントがずれてたりすることが多くて、「キュンとしたエピソード」として描かれてることが「こんなんで落ちるなんてこの主人公大丈夫か?と感じるエピソード」に感じられて素直に読めないことが往々にしてあるのですが、この作品の主人公は、「彼女」の生意気な所もクセ強い所も理解しつつ、それでも自分にとってとことん魅力的なんだ!!という揺るぎない思いをガンガンに文中で伝えてくれるので、穿った見方の入り込む隙もありませんでした。
失恋の傷を癒すために風俗嬢のお世話になる、って、失恋小説ではよく見る展開ですが、嬢を「彼女と違ってとことん安っぽく下品」と極端に貶めることも、「ひたすら受け入れてくれる聖母」的に偶像化することもなく、ただただリアルな女の子として描いてるのも良かった。

こんな情熱的な恋を、会社の管理部にいる普通の若手社員がしてる可能性もあるんだなーと思うと興味深いです。

映画では黒島結菜ちゃんが「彼女」を演じたそうですが、シンプルなファッションでこそ映えるクラシカルな美しさを持つ彼女は、まさに「彼女」にピッタリだなぁと思いました。(小説を読みながら、この「彼女」、まゆげとおでこが綺麗そうだなーと思ってた)

情熱的な恋をしたことも、若者文化に染まったことも、会社や社会に対して反抗心を抱いたこともないけれど、そんな思いを疑似体験できるような、味わい深い一冊でした。

個人的に、痛い系の話が見るのも読むのも苦手なので、「主人公の勤務先の工場で社員の指が切断された」エピソードはちょっとキツかったです。大好きな小説ですが、そこだけは毎回飛ばしてしまう、、、

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