見出し画像

【読書感想】『みずうみの妻たち』林真理子

【説明】
湖のある街で老舗和菓子屋に嫁いだ朝子。浮気に開き直る夫に、朝子は告げた。「店を持ちたいの。本格的なフランス料理店を」。自分の野望に戸惑いながらも、東京の建築家・大和田に店舗設計を依頼した朝子。順調に滑り出すかと思われた矢先、大和田と訪れたレストランで夫の愛人に遭遇してしまう。揺れる朝子に、大和田は大胆に迫り、ついに二人は一歩踏み出してしまう。だが、地方の名家には周囲の目が張り巡らされていた―。

【感想】
林真理子さんが大好きで、発刊されているものなら全部読んでいます。(エッセイは追い切れていませんが)
ハマったのは小学1年生の時。
図書館で対照的な2人の女性を描いた『満ち足りない月』を読んで、こんな面白い小説があったのかーー!とハマり、こっそり書店に通っては次々買い漁りました。
会うたびにお小遣い代りに図書券(←懐かしい)をくれた祖父母も、まさかかわいい孫が『不機嫌な果実(←主人公が不倫する)』や『花探し(←愛人が主人公)』を買ってるとは思わなかったことでしょう・・
前置きが長くなりましたが!

この『みずうみの妻たち』は、90年代に書かれた小説ですが、数年前新装発刊され、以来愛読しています。

たぶん島根県あたりを舞台にしているのかな?と思うのですが、方言が出てこないのでスルッと読めます。
有閑マダムの不倫、といってしまえばそれまでなのですが、とても面白い!!

主人公・朝子は同性から見ても謎な女

主人公の朝子は、ピアニストになるという少女時代の夢を失って以降、どこか冷めた、諦念を抱きながら生きている女性、という設定。
そんな彼女ですが、半ば公然と浮気している夫から、ご機嫌とりのように「海外旅行連れてってやるぞ、それか仲良しの奥さんと東京に買い物行ってきたらどうだ」的な発言を受け、「わたしがそんなショボいもんで満足すると思ってんの?」と内心プチ切れ、「フランス料理の店を出したい」と宣言します。
この朝子、同性から見るとほんとに可愛げがなくてやな女なんですが、男性から見ると、プライド高いところが逆にSっ気を刺激されていいのかな?特に、自分に自信があって社会的地位の高い男性には。
同性目線では朝子がちっともいい女には思えないので、不倫相手の大和田(←大和田獏の顔しか浮かばなかった)が朝子に言い寄るのが、ほんとに外見&簡単には靡かなそうな面白い女だなーっていう遊び心だけなんだろうな、と感じました。まあ面白いからいいんですが。

不倫相手・大和田のキャラクター

そしてこの大和田という男も、レストランで出た牡蠣のことを「女子中学生の脚みたいな(痩せっぽちの)」と形容したりする、なんかキモいおっさんで、朝子のような美人でプライドの高い女がこういうタイプに惹かれてしまうのはなんか意外・・箱入り奥さんだから、建築家という権威性に弱かったりするんでしょうか。

朝子は不倫が初めてなので、情事に振り切れるわけでもなく、男の心を信じかけたり疑ったりして、複雑恋愛ならではの心の揺れ動きが描かれます。

主人公と同じタイミングで恋に落ちる主婦・文恵

一方で、同じく地元の社長夫人としてリッチな生活を送る友人の文恵も、大和田の紹介で出会った小説家の加藤に惹かれ、関係を持ちます。
冷静な朝子とは対照的に、周囲にダダ漏れなほど恋にのめり込む文恵。文恵さん、人間らしくてかわいくて好きです。朝子の視点からは、いわゆる「愛敬があって憎めないけど、馬鹿な女」ってキャラに描かれてますが、実は結婚前にCA経験もあるし、子育てもしてるし、朝子が馬鹿にするほどちゃんとしてないわけではないのでは?と、内心肩を持ちたくなりました。
周囲でも噂になっている文恵の不倫を、朝子は「こうはなるまい」と反面教師にしながらも、自分自身も同じ道を辿っていくのです。

結末は、意外性はないけれど、ほっとするものでした。そうだね、それが正解!wって感じ。

個人的に気になったこと

朝子が店主を務めるフレンチレストラン、今の時代ならまだしも、当時の地方だったら絶対失敗しそう、、
長年経営を続けていけるのは、糸江ばあちゃん(ドライブイン近くの食堂を経営)のやってる店みたいな、お手頃で身近なお店なんじゃないかな。
彼女が結局店を畳んだのか、それとも赤字経営を続けたのか、その後が気になります。夫の財力があるから、失敗してもなんとかなるとは思いますが。

本筋とはあまり関係がないものの、この土地に生まれ、この土地で生涯を終えていくであろう糸江ばあちゃんの存在が、フランスの自然主義文学に出てくるモチーフ的な脇役っぽくて、いい味出してるなーと思いました。
ドロドロ不倫愛を描ける作家さんはいるけど、糸江ばあちゃんとのエピソードや緻密な風景描写、地方と東京の対比などの筆致の巧みさが、単に薄っぺらい不倫話に終わらない林真理子さんのパワーを感じさせて、何回読んでも飽きない面白さに繋がっています。

ちなみに、朝子はリッチな有閑マダムなので、東京にしょっちゅう遊びに行って、豪華な料理食べ歩いて、ダブルベッドのついた部屋に一人で泊まって、イタリア物のスーツとか高級下着とかさらっと買って、なにかあればすぐタクシー使って・・という夢のような生活をしています。小説が発表された当時は、なおさら日常とかけ離れた世界として読者をのめり込ませたことでしょう。小説を通じて、そんな裕福な気分に浸れるのも林真理子の醍醐味ですね。
ちなみに、同じ林真理子作品の『愉楽にて』は、裕福な「男たち」の世界の話なので、読んでてそんなにほぉーっとはならなかったです。

不倫が本気の愛になる小説『奇跡』も、早く読みたいなー。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?