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【読後感想】『消えない月』畑野智美

【説明】
彼らは出会って恋人になり、やがて別れた。ありふれた恋のはずだった、彼が”ストーカー”になるまでは。――被害者の恐怖と、加害者の執着。ストーカーの闇を両側の視点から抉る畑野智美流傑作イヤミス!

商店街の小さなマッサージ店に勤めるさくらは、28歳の誕生日を祝ってくれた客の松原と付き合うことになった。出版社に勤める彼と過ごす幸せの絶頂のような期間は束の間で、関係は悪夢のように変わっていく。強く束縛され、少しでも反論すると激怒され、乱暴に扱われることに嫌気がさして別れを告げると、松原はさくらをつけ狙うようになる。預かっていた合鍵を頑として返さない松原の妄想は、加速度を増してゆくが――。

【感想】
1発目の記事がストーカーを扱ったこの本、てのもどうなんだろう・・と思いますが、
このnoteではリーダブルで身近な本を紹介していくと決めたので、もう購入して何回読んだかわからないくらいリピートしてるこの1冊を選びました。

この本が好きな理由・・それは、

ストーカー物なのに、キュンキュンする。

はい。

これに尽きます。

キュンキュンポイント①「お客様と店員」の恋

主人公・さくらは新米のマッサージ師。そんな彼女の施術を気に入って、2週間に1回は指名して通ってくれる常連客の松原。
大手出版社勤務(という話)で、背も高くイケメン。

もちろんストーカーになっていく話なので、
幸せな時期は冒頭の数十ページなのですが、
「いつも自分を指名してくれて気になっていたかっこいいお客様から、ある日突然誕生日プレゼントをもらう」
って、
ある意味憧れの展開ですよね。

「河口先生は、僕の彼女よりも僕の身体を知ってるからな」
なーんて、ドキッとするような発言にキュンとします。
恋愛初期のキュンキュンが冒頭に詰まっている!

この松原という男、読み進めれば読み進めるほど救いようのない根の深い病みを感じる、コンプレックスの塊のような男なんですが、
そんなのただのお客様時代にはわからないし、他に出会いがない主人公がときめいてしまったのも共感できます。

二人の結末は分かっているのですが、それでも冒頭の心が弾むような描写には、読むたびにワクワクします。


キュンキュンポイント②ずっと支えてくれた先輩への感謝が愛に変わる

さくらの職場の同僚であり先輩の池田は、
兄のような頼れる存在。
最初は恋愛感情ではなかったものの、松原からのストーキング行為に悩むさくらを支えます。
池田、松原から「ウーパールーパーみたいな顔」とか言われている通り、見た目はたぶんそこまでかっこよくない設定だと思うのですが、
・東大法学部卒
・マッサージの腕がよくそこそこ稼いでいる
・周囲から信頼されている
と、なかなかに好人物。(&ハイスぺ)

さらに、さくらのストーカー被害の助けになる存在として紹介した東大女子のしごできウーマン・志鷹さんからも淡い想いを寄せられていたりと、なんだかんだモテてもいます。

少女漫画だとこういうタイプは当て馬になりやすいのですが、
ここは大人の小説なので、さくらも彼を愛するようになります。

辛い時、しんどい時に支えてくれる存在っていいよね・・

この小説自体は読んでいて苦しくなるほどリアルなストーカー心理が描かれていて、いわゆる「後味が悪い話」かと思いますが、畑野さんの他の作品にも共通するような人間の瑞々しい感情も描かれていて、ラストは分かっているのに何回でも読んでしまいます。

<個人的に思ったこと>
さくらの同僚・木崎さんの存在。
小柄で化粧もほとんどしない純真な雰囲気のさくらと違って、木崎さんはスタイルの良い美女(実は元セクシー女優の過去有り)という設定。
圧倒的に女としては上のはずなのに、イケメン客の松原さんも、人気マッサージ師の池田先生もさくらに執着してて、「なんでこんな芋っぽい子にばっかり」って気持ちが、会話の毒に繋がったりしていたのかな・・と、大柄女子としてほんのり思いを馳せました。




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