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ショートショート おうちカフェ

「先にお飲み物お伺いしましょうか?」

その時、時間が止まった、気がした。
「この店のオススメはカフェオレですよ」
「ちょ、ちょっと…祐介…」
「あれ、店長。コーヒー豆切らしてましたっけ」
何が起きてるのか少しずつ整理する。
「あれー、コーヒー豆ってこんな形でしたっけ、店長?」
「いや私、店長じゃないし…。祐介それ、納豆だよ」
「そっかー。でも豆って所は同じですもんね」
今日は彼氏の、祐介の誕生日。
私はサプライズで祝おうと思い、午後休を貰ってさっき会社から帰ってきた。
「あの、えっと…その…」

私の目の前には、人物が二人居る。
まず祐介。まずカッコいい。
私の彼氏だ。高校の時、軽音楽部で出会った。
祐介は私の一つ歳上で、面倒見が良く、明るく、ムードメーカーだった。
高校卒業後は、駅前の喫茶店で働いており、ゆくゆくは自分の店を持つ事が夢だそうだ。その頑張り屋さんなところが好きだ。支えたい。
基本的にしっかり者だが、たまにやらかす事がある。しかし、そのおっちょこちょいな所も非常にキュートだ。

そして、目の前にいるあと一人の人物。
女。
見た事ない、誰だよお前は。

女は、乱れていた服を正すと、祐介の方から私の方に向き直った。
「…あの、その、申し訳ありません」
「一体、何をされていたんですか?」
「…あ…ふん」
ふん、じゃなくて。
しばらく間を置いて、女は話し始めた。
「わ、私、マッチングアプリで祐介さんと知り合いまして…。
祐介さんに既に恋人がいるとは知らず、本当に申し訳ありません」
その言葉が本当かどうかは分からないが、何度も謝罪の言葉を繰り返す女の姿を見て、少し哀れに思った。
それから私は、少しずつ冷静さを取り戻していった。

「祐介」
祐介は肩を震わせる
「は、はい。只今お伺いします!」
「とりあえず話聞かせなさいよ」
「もう少々お待ちください!」
祐介は、ずっとシンクで皿洗いを続けている。
普段はそんなことしないのに。
「浮気したら許さないって、私前から言ってたよね?」
「そうだ、当店自慢のスコーンは如何でしょうか?」
祐介は明らかに錯乱状態にあった。
異常なほどの汗で、雄介の体に肌着がピッタリくっついている。

「…とりあえずあなた、ここに座って」
「…はい」
テーブルを挟んで椅子が二つ。
いつも夕飯の時には祐介が座っている椅子に、女を座らせた。
「…あの祐介、祐介さん」
祐介は何故かコップに水を入れ始めた。ポットを持つ手が震えている為、全然水が上手く入らず床に撒き散らしている。
「…すみません、ちょっといいですか、祐介さん」
あいつが正気に戻ったら、とりあえず思い切りブってやろう。勿論グーだ。
「…すみません、ちょっといいですか!」
その言葉に気がつくと、祐介はこっちに足早にやってきた。
私と女の前に、水が少ししか入ってないコップを置いて、浮気男は言った。

「ご注文はいかがなさいますか?」

1,165文字
(文字数制限1,000文字を超えてしまいました。
ごめんなさい…)

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