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【寝かしつけ】宇宙人(2024.05.27)

今日も今日とて寝かしつけの際の話。

次男(3歳)がめちゃくちゃ邪魔してくるので、本当は途中で終わってしまったけど、傍らでわちゃわちゃしている次男をよそに私は話を最後まで考えて一人で悦に入っていた。

タイトルは次男が騒ぎながら何かの拍子に「宇宙人」というワードを出したので、「宇宙人」になった。

「宇宙人」

宇宙人がやってきた。みんなが寝静まった夜に、牛乳みたいな色のしずくみたいな形の宇宙船に乗って。

宇宙船は一人乗りだった。真っ暗な夜空から落ちる大きなしずくみたいにして、音もなく宇宙船は落ちてきた。

一匹の野良猫が宇宙船に気づいた。片目を空けてぼんやりとそれを見ていたが、すぐに目を閉じてしまった。あまり関心がないみたいだ。

風もなく、月も出ていなかった。深い夜。もちろん人は誰一人歩いていない。

住宅街の真ん中、しずくみたいな宇宙船がぱかっと割れて、中から絵に描いたような宇宙人が降りてきた。

宇宙人はしばらくそのへんを歩いていたが、足音はしなかった。ちょっとだけ浮いているみたいだった。

宇宙人は知っていた。誰の目にもふれることがない事を。そこにいる野良猫の事も知っていた。

全ては予定どおりだった。

目の前に広がる景色もすべて予定どおりだった。

見えない月も、吹かない風も、かすかに空に浮かぶ星たちも、並び立つ家々も、闇夜に佇む山々や海岸線、海の満ち引きや生きとし生けるものについても全て。

おもむろに宇宙人は星の一つに手を伸ばして、それをいつの間にか持っていた牛乳みたいな色のかばんにしまった。それから今度はかばんの中から小さな瓶を取り出して海の水をすくって入れた。遠くの山に手を伸ばして、そのてっぺんをごそっとショベルカーみたいにすくって、それもかばんにしまった。

宇宙人にとってこの星の大きさや重さ、距離感は全く意味をなさないみたいだった。この星では、宇宙人は巨大で、同時に限りなく小さいようだった。

それらいくつかのものをかばんにしまって、宇宙人は満足気に見えた。一部が欠けた山や大量の水をいっぺんに失った海、その欠けた部分には闇よりも真っ暗な空間が覗いていた。

宇宙人は再び牛乳のしずくみたいな宇宙船に乗り込むと、また音もなく真っ暗な空に消えて行った。野良猫がその一部始終を見ていたが、やはり関心がなさそうだった。そしてそれもたぶん宇宙人の予定通りだった。

おわり


そうやって考えていたら長男はとっくに眠っていて、次男も布団の上で動きが鈍くなっていた。私の中から染み出る眠い成分が漏れ出して、部屋中にガスみたいに充満していたのかもしれない。


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