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田坂広志著「死は存在しない」~最先端量子科学が示す新たな仮説~を読んで(2023.01.21)


どストライクなタイトルについつい釣られて購入した本書。

「死」について、量子科学の方向から攻めた本は今までみかけたことがなかった。あったのかもしれないが、探していなかった。それが本屋で結構目立つ位置に積み上げられていたので購入した。

読んでみると、説の土台を量子科学に置いているわりにそっちの方はけっこうあっさり説明が終わっており、この本の主題である「死は存在しない」説の基礎である「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」がわりと早めに登場する。

この「ゼロ・ポイント・フィールド」とは、ざっくり言うと、この宇宙の全てが記録・記憶されている宇宙の起源・原点となっている場所だ。そしてそこに接続することによりこの世界の過去から現在、そして未来に関する全ての情報にアクセスすることが出来、「以心伝心」「予感」「既視感」「シンクロニシティ」等の不思議な出来事もこの「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」で説明できるという。

本を読み進めていくと、今までぼんやりと考えてきた「死んだらどうなる?」という疑問に躊躇することなく切り込んでくれるので、そこは気持ち良いのだけど、「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」というものが腑に落ちていない状態で、どんどん仮説に仮説を積み上げて論が進められていくから、どうにも納得感が少ない。

しかし著者の田坂広志さんはけっしてオカルト方面の方ではなく、東大の大学院を出て原子力工学において博士号を取得し、世界を股にかけてご活躍され、東日本大震災の際には内閣官房参与まで務められた、まさに現代科学の権威と言える方だ。そして「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」にしても世界中の名だたる科学者が唱えるれっきとした仮説だ。

本書の中では量子科学が難解であるためか、もしくは主題になるべく早く辿り着くためなのか、「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」に至る説明が少ない。「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」自体はとても面白いし、積極的に支持していきたい説だけど、イマイチ腑に落ちないままどんどん話が先に進むので、若干置いてきぼり感があった。難解でも良いから、もう少し量子科学の説明にページを割いて欲しかった。

とはいえ、本書で語られる「死」の捉え方や、そこから派生するポジティブな考え方は「そうであったら良いな」と思えるもので、基本的に「死後は無に帰する」と考えてきた私からすると、そこに一筋の光明が差したようなような気持ちだった。この本の帯にある「人生が変わる一冊」というのも、あながち間違いじゃないかもしれない。

本書は著者の壮大な思索の旅路の果てに結実した「知の果実」であるけれど、それをしっかり咀嚼し、味わうには、「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」の立脚する量子科学についてもう少し勉強した方が、より楽しめるのかなと思った。

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