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満月を見ながら帰る

 新潟から名古屋に引っ越して、電車と言えば地下鉄となった。時刻表を確認せずに駅に行っても電車がすぐに来てどこにでも行ける。なんて素晴らしいんだろうと思っていた。だから、窓の外、暗い背景に浮かぶまん丸なものが満月であるとすぐには気がつかなかった。

 4月から名古屋市外へ通勤することになり、途中から地上を走る電車に乗っている。車内はいつもガラガラで二人掛けのシートをいつも一人で使っている。仕事帰りの22時過ぎ。重い体を沈ませて目を閉じる。駅に止まる。降りるべきところではないが、薄目をあけて駅名を確かめる。その視線の先に見えた黄色の光。車内が明るいから外は、真っ暗。そのせいかやけにはっきり窓の右上に丸く切り取られたように月が浮かんで見えた。

 満月に名前をつけるようになったのはいつからだろう。月はいつだってまん丸で同じ場所に浮いているだけなのに。

 月は私が降りるまで同じ場所でうっとりするほど美しく輝き続けていた。

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