どうして組織は変わらないのか?(第一回:経営学)

今回は組織人事コンサルタントとして、組織をより良くしていくために
必要な考え方についてお伝えできればと思います。

結論を言うと、組織というのはちょっとした変化を加えても、
全体として起こってほしい変化が起きないという特徴があり
経路依存性と言われています。
要するに、簡単には組織を変えることはできないということです。

「どうして組織は変わらないのか?」
その理由に関しては様々な観点からの研究がなされています。
それら全てをまとめようとすると膨大な量もしくは
非常に薄い内容になってしまうリスクがあるので、
4回くらいに分けてご説明ができればと思います。
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第一回:経営学の観点
第二回:組織成立プロセスの観点
第三回:組織力学の観点
第四回:人の認知バイアスの観点
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では今回は第一回の経営学の観点からご説明をしていきたいと思います。

■組織はどうやって成り立つのか?
・経営学からの示唆
アメリカの経営学者であるチェスター・バーナードは
組織が成立するための要件は下記の3つであり、
全てが成立しなければならないとしています。
・共通の目的:組織として目指すべき方向性
・協働意思:目的を達成/実現したいと思う意欲
・コミュニケーション:相互に意思疎通するためのやり取り

上記の内容を見て分かる通り、それぞれが単体で存在するのではなく
それぞれが有機的に影響を及ぼし合っていると言えます。

例えば、社会環境の変化に伴い「共通の目的」が変わることがあれば、
それによってこれまで通り「協働意思」を持てる人もいれば、
変化に伴い「協働意思」を持てなくなる人もいます。
また目的の達成のためには、より密な「コミュニケーション」が
求められるようになることもあります。

・多くの企業における実態
上記の内容はあくまで理論です。多くの人事担当者の方と話す限りでは、
そもそも「共通の目的」を理解した上で、体現しようと思いながら
仕事をしようとしている社員はまれなのではないでしょうか?

では逆に、基本的に社員は何を目的として協働しているのでしょうか。
それは「部署目標」「チーム目標」と言った半径数m以内の目標です。
また基本的に社員は同部署の社員としか話しません。
つまり、組織の成立要件を満たしているのは現場単位であり、
企業単位で満たしている企業というのはほとんど存在しないと言えます。

コンサルティングのご相談をいただく企業様からよく頂くのは、
新しいビジネスが生まれない、主体的に働きかける社員がいない…など
会社という視座に立ち、活躍するようなタレントを発掘/育成したいという
ご相談をよくいただきます。確かに部署最適で働く社員ばかりでは、
経営層や人事部の求めるようなタレントは生まれてきません。
とはいえ全社レベルで「共通の目的」や「協働意思」を喚起する施策で
望むような効果が出た企業は1社もないのではないでしょうか?

・なぜ理論通りに対応しても変わらないのか
まずひとつ言うのであれば、先程の経営学の理論を提唱した
バーナードが『The Function of the Executive(経営者の役割)』を
発行したのが1938年であり、現在の社会情勢と大きく異なるということである。
もちろん今でも真理となる部分は存在するが、当時と今を比較すると
インターネットもなくグローバルでの激しい競争もない時代とでは
経営における前提が大きく異なっているといえる。

特に、組織を変えるという場合において、大きく前提が変わったのは、
「大衆の個別化」だと思っています。※勝手な造語です。
「大衆の個別化」とは、個々人が別々の価値観を持つようになり、
加えて大衆と同一視されることを嫌がるという状態、と定義しています。

簡単に言えば、どれだけ頻度高く共通の目的を伝えようとも
ひとりひとりの価値観が異なるために、ごく一部の人にとってしか
協働意思を感じられないものになってしまうということです。
また、全体発信では「自分に向けて発せられている」と感じられず
その発信自体に興味を感じられない人も多く存在します。

結論、組織施策の個別化をどれだけ進めることができるかが
重要な論点となっており、そのスキームなしに理論通りの
組織を構築することができなくなってきています。

多くの企業で社内報での理念の発信や、全社での研修実施など
全社的な施策が人事界隈では未だに主流です。
しかしそれでは社員を組織の「共通の目的」に留めることができず
「協働意思」を失い、社外への流出が発生していしまいます。

組織をどう変えていくべきかについては今後の記事にて
記載できればと思いますが、今の人事で行っている施策の中で
「発信/伝達すれば、伝わる」「研修すれば、身につく」といった
前提を持って行っている施策はありませんか?

今一度精査してみて、その施策のあり方を少し変えるだけで
組織が変わるきっかけとなるかもしれません。

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