ワーク・エンゲージメントの特徴(令和元年版「労働経済の分析」より)
エンゲージメントの特徴と、その他類似の概念の比較です。
以下、特記するものを除き、令和元年版労働経済の分析からの引用またはキャプチャーです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第2-(3)-2図の(1)は、「活動水準」「仕事への態度・認知」といった軸を用いて、「バーンアウト(燃え尽き)」「ワーカホリズム」「職務満足感」といったワーク・エンゲイジメントに関連する概念を整理したものである。
「バーンアウト(燃え尽き)」の定義については、島津(2016)において「仕事に対して過度のエネルギーを費やした結果、疲弊的に抑うつ状態に至り、仕事への興味・関心や自信を低下させた状態」とされており、「仕事への態度・認知」について否定的な状態で、「活動水準」が低い状態にある。
「ワーカホリズム」については、Schaufeli, Shimazu, & Taris(2009)において「過度に一生懸命に強迫的に働く傾向」とされており、「活動水準」が高い点がワーク・エンゲイジメントと共通しているが、「仕事への態度・認知」が否定的な状態にある。
「職務満足感」については、Locke(1976)において「自分の仕事を評価してみた結果として生じる、ポジティブな情動状態」とされており、ワーク・エンゲイジメントが仕事を「している時」の感情や認知を指す一方で、職務満足感は仕事「そのものに対する」感情や認知を指す点で差異があり、どちらも「仕事への態度・認知」について肯定的な状態であるが、後者は仕事に没頭している訳ではないため、「活動水準」が低い状態にある。
ワーク・エンゲイジメントについては、「仕事への態度・認知」について肯定的な状態であり、「活動水準」が高い状態にあることから、バーンアウト(燃え尽き)の対極の概念として位置づけられていることが特徴となっている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なかなかおもしろいマトリックスです。
「職務満足度」が高いと良い状態だと思いがちですが、仕事の活動水準が低いと、会社にとって良い状態とは言えませんね。
仕事の活動水準が高くても、仕事への態度認知が低いと「ワーカホリック」(仕事中毒)という状態=「私は働かねばならない」という状態です。
これに対して「エンゲージメント」は「私は働きたい」という状態で、理想的です。
この対極が、「バーンアウト」(燃え尽き症候群)となり、意欲がなくなり、無気力な状態です。うつ状態ともいえるでしょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次に、同図の(2)は、「パーソナル・エンゲイジメント」「組織コミットメント」「ワーク・モチベーション」「ジョブ・インボルブメント(仕事への関与)」「フロー」といったワーク・エンゲイジメントに類似する概念との差異について整理したものである。
まず、既出になるが、Kahnが提唱した「パーソナル・エンゲイジメント」は、「組織構成員の自己と「仕事上の役割」との結びつきの度合い」と定義され、個人と仕事との関係性といった点などで部分的にワーク・エンゲイジメントと重複している面がある。しかし、ワーク・エンゲイジメントは、個人と「仕事全般」との結びつきの度合いを示す概念であり、対象範囲の点で差異がある。
次に、Mawdayらが提唱した「組織コミットメント」は、「特定の組織に対する個人の一体感と関与の相対的な強さ」と定義され、一体感や「熱意」があるといった点などで部分的にワーク・エンゲイジメントと重複している面がある。しかし、ワーク・エンゲイジメントは、個人と「仕事全般」との結びつきの度合いを示す概念であり、個人と「組織」との結びつきの度合いを示す組織コミットメントとは、対象範囲の点で差異がある。
さらに、「ワーク・モチベーション」は、Mitchell(1997)による定義が近年定着しており、「目標に向けて行動を方向づけ、活性化し、そして維持する心理的プロセス」とされ、「活力」や「熱意」がある点などで部分的にワーク・エンゲイジメントと重複している面がある。しかし、ワーク・モチベーションは、ある行動に駆り立てる構造や過程に関連する概念である一方
で、ワーク・エンゲイジメントは、行動を起こす主体である個人が、動機付けられた結果として経験する「感情」「認知」に関連する概念を示しており、主眼とする点で差異がある。
その他、Lodahlらが提唱した「ジョブ・インボルブメント(仕事への関与)」は、「人が自分の仕事と心理的にどれほど一体化しているか、もしくは、ある人の総合的な自己イメージにおいて、仕事がどれほどの重要性を占めるかの度合い」と定義され、個人と仕事との関係性といった点などで部分的にワーク・エンゲイジメントと重複している面がある。しかし、ジョブ・インボルブメント(仕事への関与)は、仕事への態度・認知に関しては織り込んでいない一方で、ワーク・エンゲイジメントは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態を示しており、仕事への態度・認知に関する着眼の有無といった点で差異がある。
最後に、Csikszentmihalyiが提唱した「フロー」は、「取り組んでいる活動に完全にのめり込んだ没頭状態を指し、心と体が一体化して、時間も忘れて内発的な喜びが得られることを特徴とする状態」と定義され、ポジティブな感情や「没頭」している点などで部分的にワーク・エンゲイジメントと重複している面がある。しかし、「フロー」は、仕事に限定されない概念であり、短期的・一時的な体験として、多数の複雑な側面が備わった状態を指し、非常に限定的な心理状態である一方で、ワーク・エンゲイジメントは、個人と「仕事全般」との結びつきの強さや、持続的かつ安定的な状態を示す点で差異がある。
以上のように、ワーク・エンゲイジメントに類似する概念との差異について整理したが、先行研究では、様々なアウトカムとの相関といった観点から、概念の特徴を捉えようとする分析が行われている。
例えば、Hallberg & Schaufeli(2006)では、ワーク・エンゲイジメントと「組織コミットメント」「ジョブ・インボルブメント(仕事への関与)」を分析し、いずれの指標も働く方の離職意思と負の相関があるが、ジョブ・インボルブメント(仕事への関与)のみが過重な仕事と正の相関があること、また、ワーク・エンゲイジメントと「組織コミットメント」が様々な健
康上の不調と負の相関があり、特にワーク・エンゲイジメントで強い負の相関が確認されたことを明らかにした。この結果を踏まえ、ワーク・エンゲイジメントは、様々な健康上の不調と負の相関がある概念であり、バーンアウト(燃え尽き)の対極の概念として位置づけられていることが関係していると指摘している。
以上のように、ワーク・エンゲイジメントには様々な類似する概念があり、部分的に重複する面もあるが、付加価値を加えた固有の概念となっているものと評価できる。特に、詳しくは第2節において分析結果を示していくが、ワーク・エンゲイジメントを向上させることは、働く方の健康増進と仕事のパフォーマンスの向上に資する可能性がある。つまり、働く方の健康増進と仕事のパフォーマンスの向上を同時に実現していくに当たって、着目すべき有用な概念だといえるだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今まで「エンゲージメント」について何となく理解していたつもりですが、きちんと整理されていてわかりやすいです。
エンゲージメントが組織コミットメントなど他の概念と比べ、働くメンバーの健康と仕事のパフォーマンス向上の両立、つまり会社と従業員のWin-Winの関係が成り立っているかをつかむことができる最も適切な概念と言えそうです。
伍魚福エンターテイニングスパイラルの中の「従業員にとっておもしろい会社」かどうかを測定する概念であるとも言えそうです。
以前は、年に一回「従業員満足度調査」を行い、前年と比較してつかんだつもりでいましたが、今は「エンゲージメント」を毎月測定し、その変化をつかんでいこうとしています。
まだスタートして2ヶ月目ですので、まだまだ活用はこれからです。
概念・意味合いををきちんと理解し、良い会社、「おもしろい会社」作りに生かしていきたいと考えています。
最後までお読みいただきありがとうございました! 伍魚福の商品を見つけたら、是非手にとってみて下さい。社長のいうとおりになってないやないかーとか、使いづらいわー、とか率直なコメントをいただけるとうれしいです。 https://twitter.com/yamanaka_kan